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退職ルール改正と退職代行サービスについて

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退職ルール改正と退職代行サービスについて

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第43回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

民法の改正により月給制の労働者からの退職申入れのルールに変更があったと聞きました。当社の就業規則では、「退職の1ヶ月前までに届け出ること」としていますが、問題はありませんか。また、近年「退職代行サービス」が話題になっていますが、もし、社員からそのような業者を通して退職申入れの連絡を受けた場合の会社の対応について教えてください。

A

2020年4月の民法改正により、期間の定めのない雇用契約を締結している労働者からの退職の申込みについては、例外なく「2週間前の申入れ」で良いことになりました。しかし、「退職の1ヶ月前までに申出ること。」等の定めがある就業規則も多いと思いますので、以下、民法との優先関係を含めて解説します。

 

民法の改正と自己都合退職との関係

 改正前の旧民法では正社員など無期契約の労働者からの退職予告時期についてやや曖昧な点があり、解釈について争いがありました。旧民法では、期間によって報酬が定められていた場合(例えば完全月給制)、解約の申入れは、当期の前半にした場合は当期末日、後半にした場合は次期末日に退職の効力が発生するとされ、必ず2週間後に退職できるわけではないと解されていました。
 改正後の民法では規定が改められ、無期契約労働者からの「退職の申入れ」については例外なく2週間で退職の効力が発生することとなりました。

 一方、退職の申込み時期については、突然の辞職を防止し十分な引継ぎを行ってもらいたいなどの理由で、今回相談者の会社の就業規則のように「退職の1ヶ月前までに」と民法よりも長い期間が規定されているのが一般的です。その場合、民法と就業規則のどちらが優先されるのか戸惑う方も多いと思われますが、この点については、過去にも裁判例(高野メリヤス事件。昭51.10.29東京地判)があり、原則は民法が優先すると考えるのが妥当と考えられます。

 民法が優先するのであれば、就業規則で「1ヶ月前」等と長い期間を定めても意味が無いようにも思えますが、「自己都合退職」には「合意退職(合意解約)」と「辞職」があります。
 「合意退職」は、社員が「退職願」のような文書で退職の申し込みの意思表示をし、会社側がこれを承認することで、労働契約が解消、すなわち退職に至ると考えられます。したがって、就業規則で「1ヶ月前までに届け出ること」としているのは「合意退職」を前提にしての定めと考えてよいでしょう。



 就業規則に従い、1ヶ月前までに「退職の申込み」をしても、会社が承認しない、あるいは承認を遅らせると社員はすぐに退職できずに、その間地位が不安定になってしまいます。その場合は、民法で定められた2週間が経過すれば雇用契約は終了するという規定が効力を持つことになります。労働者は、原則として1ヶ月前までに退職願いを提出し会社の承諾を得て退職する(合意退職)。しかし、退職の届出に対し、会社の承諾がない場合には、民法の規定により、2週間の経過により労働契約は消滅する(辞職)と考えて良いでしょう。労働者の退職の意思を無視して、会社が社員の引きとめを図ることはできません。

有期労働契約の場合

 以上は労働契約が無期の場合ですが、雇用期間を定めた場合には、民法では「・・・、やむを得ない事由があるときは、各当事者は直ちに契約の解除をすることが出来る。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う(民法628条)。」としていて、今回の民法改正で変更点はありません。
 前述の通り無期労働契約の場合、労働者はいつでも2週間の予告期間をもって退職の申込みが出来ますが、有期労働契約の場合には期間満了まで契約を維持する義務があり中途で打ち切るには「やむを得ない事由」が必要になります。
 ただし、会社が有期労働者の途中退職を禁止するような行為は認められず、労働者が一方的な事情で退職したことにより使用者に損害を与える場合には、損害額に応じた賠償請求ができるに過ぎません。
 有期契約の場合、使用者も契約期間が満了するまでは「やむを得ない事由」がある場合でなければ契約解消(解雇)することはできないので、有期契約社員の途中解雇は無期契約社員以上にハードルが高いといえます。

退職代行サービスとは?

 退職代行サービスとは本人の代わりに会社側に退職の意思を伝えるサービスで転職者の増加に伴い、2017年頃から専門業者が増加して注目されました。ブラック企業勤務やパワハラ被害にあっていたりする20歳代など若年層の人達を中心に、利用が広まりました。
 例えば、会社には代行会社を通じて、以下のような内容の退職届の書類が届くことになります。

■一身上の都合により○年○月○日をもって、退職いたします。
■本日より退職日までは有給休暇としてください。
■連絡事項等は、以下(代行会社)へお願いします。
等々

 一般に本人の意思に基づく意思表示は相手方に到達すれば有効に成立します。会社としては、この届け出が本当に本人の意思に基づくものであるかを確認することが必要です。その際、退職者本人に電話あるいは電子メール(SNS)等で直接連絡することには何ら問題はありません。労働者と連絡がつかない場合は退職代行会社に連絡し、「退職届」が本人の意思で書かれたものであることの確認資料の提出を求めることになります。
 本人の意思が確認できた場合には、無期雇用の場合、2週間を経過すれば退職の効力が発生するわけですから、会社としては粛々と退職手続きを行うことになります。
 なお、退職代行会社は労働者の代理人になることはできず、法的にはあくまで使者(本人の意思表示を相手に伝達する人)でしかないので、会社が代行会社との間で協議・交渉(例:残業代請求、助言や和解)を行うことは禁止されます。

 前半部分でも説明したとおり、労働者には退職の自由があり、退職手続きだけをサービス会社に依頼するメリットはほとんどないと考えられます。社員が退職の手続きを退職代行サービスに依頼するといった事態を発生させないために、会社はハラスメント等のない風通しの良い職場環境を作ること、そして日頃から自己都合退職ルールについての正しい知識を社員に教育しておくことが望ましい対策といえるでしょう。

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