パートタイム社員の賃金・評価制度の設計・導入
最低賃金が急上昇する中でのパート時給:2つの効果的アプローチ
最低賃金が政策的に引き上げられ、急激な人手不足の進行とも相まってパートタイム社員(以下、略して「パートタイマー」)の時給は上昇を続けています。仕事内容は変わっていないのに、時給だけが毎年上がっていく状況は経営者にとっては非常に苦しいものでしょう。
こうした背景もあり、当社にもパートタイマーの賃金・評価制度の設計・導入に関するお問い合わせが寄せられていますが、どのような戦力として活用したいかによって、対応方法は大きく2つに分けられます。
①最低賃金でパートタイマーを募集する場合
パートタイマーを安価な作業人員として最低賃金で募集していく方針であれば、政府が全国平均1,500円を目指して最低賃金を毎年引き上げる状況では、どのような制度を作っても、すぐに使えなくなります。賃金制度の整備はしばらく保留にして、最低賃金の改定に合わせて毎年10月に個別調整を行う方法が現実的です。
最低賃金が大幅にアップすると、新規採用者と既存のパートタイマーの間に時給差がなくなってしまうことが最大の悩みだと思いますが、この点に関しては既存者に経験年数や過去の人事評価に応じた金額を加算してバランスを取ります。
もちろん、加算方法に一定のルールを設けることはできます。また、人事評価等に応じて加算額を一人ひとり変えるのであれば、他のパートタイマーの時給を知っても不満や文句が出ないように、根拠をはっきり示すことのできる評価制度を導入しておくことも必要です。人間関係を良好に保ち、作業品質を落とさないためには、パートタイマーに対する待遇の公平性は正社員以上に気を遣わなくてはなりません。

②パートタイマーにもスキルアップや時給に見合った組織貢献を求めていく場合
時給の決め方に悩んでいる会社には、下記のように賃金を決める基準がパートタイマーと正社員で異なっているケースが多く見られます。
パートタイマー | 職種や仕事内容だけで給与を決める完全な職務給の考え方である |
正社員 | 年齢や勤続に応じた定期昇給があるなど、人(ヒト)基準で給与が決まる部分が多い |
同一労働同一賃金のガイドラインが2021年4月から中小企業にも適用となりましたが、同ガイドラインは「正社員との待遇差の内容・理由・待遇決定に際しての考慮事項」について事業主がパートタイマーに説明する義務を定めています。ところが、パートタイマーと正社員で給与を決める軸が全く違う場合、待遇差の説明には当然ながら無理が生じます。納得のいかない待遇にパートタイマーが不満を募らせれば、仕事の成果は徐々に低下していくでしょう。
一方、役割等級による人事制度やジョブ型雇用などを正社員に適用している会社では、比較的スムーズにパートタイマーの賃金を決めています。正社員であれ、パートタイマーであれ、会社全体の中でどのポジションの仕事を担っているかで給料が決まりますから、金額を判断する指標がすでに明確になっているのがその理由です。
つまり、合理的な説明ができるパートタイマーの賃金制度を作るには、正社員の給与体系が仕事基準で設計されていることが重要となります。
そのうえで、仕事内容や組織内の役割責任に応じた評価制度をパートタイマーにも用意していくことになります。
正社員に近い役割や貢献度を期待するパートであれば、彼らと同じように担当業務を明確にして個人目標を設定してもらい、その達成度による業績評価と行動評価を組み合わせて人事評価をするのが効果的です。
【参考事例①】パートタイマーも含めた課業一覧

一方、定型的な現場作業が中心となるパートであれば、業務スキルを中心とした評価シートを作成して、「担当可能な業務の種類と難易度」「期間中に行った業務の質(=作業の正確さや処理量など)」を採点して、基本的な勤務姿勢も考慮した最終的な人事評価を決めれば納得感の高いものとなります。
【参考事例②】業務スキルを中心とした評価シート
(業務の質の評価基準)
4点 問題を予測し、事前に対策を講じて的確に処理できる
3点 問題発生時には、周囲と連携を取って主体的に解決できる
2点 指示されなくても、定められた作業を問題なくこなすことができる
1点 具体的な指示された範囲の作業であれば何とかこなせる程度
0点 やったことがある程度であり、できるとは言えないレベルである
このように、仕事基準の給与体系が用意されたうえで、仕事の成果や個人の成長が評価されて賃金につながっていけば、従業員も自分で考えて仕事を工夫するようになり、会社を支える大きな力になることが期待できます。
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