解雇予告等の義務と例外について
第85回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説
Q
当社では、元営業職Xが成績不振の上、会社の再三の指示にも従わない反抗的な態度をとったため、解雇処分にしました。
ところが、Xから「解雇の予告をせず、解雇予告手当も支払われていないので解雇は無効である。」とのクレームが寄せられました。
本人に責任があり解雇予告手当は支払っていませんが、問題があるでしょうか。
A
民法では、期間の定めのない雇用契約は2週間の予告期間を置けば、いつでも解約できるとされています(民法627条1項)。このため、就業規則の規定にかかわらず、労働者は2週間の予告をもって、いつでも退職(辞職)することができることになります。
一方、使用者が一方的に行う解雇については、労働者保護の観点から、客観的に合理的な理由のない解雇は無効(労契法6条)とされます。また、労基法では解雇が有効な場合であっても労働者の生活の打撃(経済的損失)を和らげるため、予告期間を30日に延長する旨を定めていて、これらの規定が民法より優先されます。
使用者が解雇を行う場合には、原則として30日以上前に予告を行うか、平均賃金の30日分以上の金員(これを予告手当と言います)を支払う、または、これらの併用を行うことが必要です(図参照)。
解雇予告等の義務の例外
ただし、解雇予告や予告手当支払については、次の通り例外(除外事由)が定められています。
①天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能になった場合
②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
上記いずれの場合にも、行政官庁(労基署等)の認定を得た場合とされています。除外事由②の「労働者の責に帰すべき事由」については、労働者の地位、職責、勤続年数、勤務状況などを考慮のうえ、総合的に判断されるものとされており、懲戒解雇のような場合であっても、直ちに②の例外に該当する訳ではありません。
それでは、即時解雇がなしえる場合であって、除外認定を受けずに即時解雇を行った場合、その効力はどうなるでしょうか。手続き違反ではあるものの、いくつかの判例から、除外認定を受けていないだけの理由で、予告手当の支払義務があるわけではないとされています。
労働者の側に予告期間を置かずに解雇されてもやむを得ないと判断されるほどの重大な服務規律違反、ないし背信行為があれば、労基署等の認定を受けていない場合であっても、解雇の効力(有効性)には直結しないと解されます。
予告義務に違反した解雇の有効性?
問題になるのは、即時解雇をなしうる事由がない通常の解雇のケースです。解雇予告をせず予告手当も支払わないで解雇がなされた場合、解雇の効力はどうなるのでしょうか。この点に関しては、次に示す4つの学説があります。
・第1の見解:予告義務違反の解雇は無効である(無効説)。労基法は強行規定であり、規定(20条1項)に違反するので解雇は無効
・第2の見解:予告義務違反は成立するが、解雇自体は有効である(有効説)
・第3の見解:解雇無効の主張と予告手当の請求を労働者が選択できる(労働者選択説)
・第4の見解:(使用者が即時解雇に固執しない限り、)即時解雇としては効力を生じないが、解雇後30日が経過した時点または予告手当を支払った時点で解雇の効力が発生する(相対的無効説)
ちなみに、最高裁の判断は第4の見解の立場をとっています(細谷服装事件・最二小判S35.3.11)。
学説としては4つの異なる見解があるわけですが、通常の解雇の場合、労基法の規定の趣旨は解雇の意思表示がなされてから30日分の賃金保障を行うことにあると考えられます。すなわち、少なくとも30日前の予告または予告手当の支払を求めることで、労働者の生活保障を行なっていると考えるのが自然な解釈と言えます。
実務的には、会社に予告義務違反があった場合でも、上記、第2の見解(有効説)または第4の見解(相対的無効説)に基づき、必要な予告手当を支払えば、解雇は有効に成立すると考えます。
今回の相談のケースでは?
さて、今回の相談に戻ると、Xは自身の解雇について除外事由には当たらず、予告義務違反であるから解雇は無効と主張しているようです。しかし、解雇自体を争うのではなく、単に、会社に予告手当の支払を求めている可能性も考えられます。
相談内容の文面を見る限り、営業成績不信は本人(X)の能力の問題であり、再三の指示に従わず反抗的な態度をとったという点も、会社として適切な注意・指導を行ったかは不明です。労基署の除外認定手続きも取っていないことから、今回のケースで会社がXに重大・悪質な非違行為があって即時解雇が有効であると主張するのは、材料が乏しいと言えます。予告手当を支払った上で、解雇自体は受入れるようXと交渉するのが現実的な対応策と考えられます。
なお、解雇予告義務に違反した解雇を行った場合には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があるので、会社として慎重に対応することが大切です。
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