役割等級制度で透明な人事運営と成長軌道へ ―多様化する事業を束ね、未来を見据えた改革に挑む― ミウラ2⃣

―“第2次”役割等級制度で人事制度を刷新し、未来志向の経営へ―
株式会社ミウラ紹介
1953年広島市に青写真工業の個人企業として創業(1957年法人化、1979年ミウラに社名変更)。日本鋼管(現JFEスチール。以下「JFE」)福山製鉄所の建設に伴い、同製鉄所構内に青写真の事業所を設営し、篤い信頼を得て製鉄所の電算業務にも携わり、その後も事業領域を拡げてきた。現在の営業種目は、システム開発、システム販売、マルチメディア、IPS(コピー・プリントサービス)、設計・機器製造、医療情報支援 など。資本金9000万円、従業員数450名(24年10月31日現在)、年商55.8億円(2024年10月期)。会社HP:https://kkmiura.com/
前回は、同族経営からの変貌や年功的な人事慣行による組織停滞に真正面から向き合い、ミウラが独力で第1次役割等級制度を導入した経緯を紹介しました。今回は、その後、改めて取り組んだ人事制度の刷新と、未来志向の経営・人的資本戦略についてお伝えします。
第2次役割等級制度構築プロジェクト
2019年12月、上野氏の社長就任後、ミウラは人事制度改革の第二幕を開始します。2020年から2021年にかけて、当社(プライムコンサルタント)に伴走を依頼し、人事制度全般の抜本見直しを実施します。等級・賃金・賞与・評価の仕組みを全面的に刷新するとともに、同一労働同一賃金に対応した非正規社員向けの処遇制度も新たに構築し、組織変革に向けた人事インフラを整備しました。
コアメンバーと担当コンサルタントのチームで真剣に議論
新制度の設計にあたっては、各事業部門の統括部長クラスを中心に選抜した10名のコアメンバーと、当社の担当コンサルタントが月1回程度のペースで協議を重ねました。
ミウラ側のリーダーを務めたのは、管理本部の統括部長に昇進していた森脇取締役です。森脇取締役は当時を振り返り、「今回の見直しでは、『役割等級ありき』にならないよう注意しました。幹部には従来の職能資格制度に親しみを持つ者もおり、制度選択に葛藤があったからです。」と語ります。
プロジェクトでは12回に及ぶ真剣な議論が行われました。「事業環境や社員の年齢構成などを総合的に検討しながら、プライムの田中さんから職能資格制度と役割等級制度、それぞれのメリット・デメリットを丁寧に説明いただきました。その過程で、コアメンバーの中に役割等級制度への理解が徐々に深まっていきました。」と森脇取締役は語っています。
自社の実情に合った等級定義と行動基準の策定
等級制度の再構築にあたり、各等級の定義はコアメンバーが主体となり、自社の実情に即して策定しました。上野社長は、「各等級の定義が可視化できたことが何より大きかった。従来は『こうであったらいい』という希望的な表現に留まっていたが、今回は役割と期待成果を具体的に示すことができた。」と振り返ります。さらに、新しい等級定義に連動した等級別の役割行動基準も策定し、評価や育成の指針として社内に共有しました。
また、長年の懸案だった賃金テーブルの見直しも実施。2010年代の事業再構築期には、人件費抑制のために広島県の相場より低い水準を適用していましたが、今回の改革では業績改善を背景に地域相場に見合う水準に引き上げ、若手層の待遇改善にも踏み出すことができました。
複線型の人事制度で専門職の位置づけを見直し
新しい役割等級は全8等級から成り、Ⅴ等級までは非管理職層、Ⅵ等級以上が管理職層です。職位との関係は、Ⅴ等級がリーダー、Ⅵ等級が部長、Ⅶ等級が統括部長、Ⅷ等級が事業部長に対応しています。
制度は従来どおり管理系と専門系の複線型を採用。専門職は、Ⅴ等級(スペシャリスト)とⅥ等級(上級スペシャリスト)に設置しました。専門職の設計で特に留意したのは「職責の重さ」の明確化です。旧制度では、専門職が「管理職には向かない人の受け皿」になりがちで、管理系と専門系の間に同一等級内で職責の重さにばらつきがありました。そこで、管理系に匹敵する職責を持つ役割を具体的に定義し、管理系と専門系の同一等級内でのバランスを確保しました。なお、管理系から専門系への相互転換も可能とし、社員に柔軟なキャリアの選択肢を用意しています。
役割等級説明書(抜粋)
全社員の新等級への格付け
全社員の等級格付けは新制度導入時の大きな山場でした。森脇取締役は振り返ります。「当初、各事業部門に原案を依頼すると、職種ごとの市場相場観の違いから、システム系は高め、製造・技能系は厳しめの等級が出る傾向がありました。これは現実的でないと考え、事務局の私が概略を決め、各事業部門と相談しながら調整しました。コアメンバーというワンクッションがあったおかげで、現場への説明や調整もスムーズに進められたと思います。」。現場を代表するコアメンバーの参画により、社員への周知・納得も円滑に図ることができたのです。
透明性・納得性の向上と社内の反応
こうして2021年に導入された第2次役割等級制度により、各等級の役割や評価基準と、賃金・賞与の決定基準が一段と明確になり、人事運営の透明性が飛躍的に高まりました。あわせて、役割と貢献度を「中期的に反映する基本給」と「短期的に反映する賞与」という処遇の使い分けも社員に浸透していきました。人事制度の透明性と納得性が大きく向上し、森脇取締役も「新しい人事制度は良い印象で受け入れられています」と社内の好意的な反応を語っています。
人材育成への本格的な取り組み
人事制度という「インフラ」が整った現在は、懸案だった人材育成にも本格的に取り組んでいます。
事業部ごとに育成計画を立案し、職種・スキル単位で必要な研修を実施。特に、需要が縮小する事業分野ではリスキリング(再教育)による社員のスキル転換にも力を入れています。
また、任用期間の長いリーダー層や部長クラスは、座学にとどまらず、「情報収集」「情報提供」「判断行動」「支援行動」を基軸にした実践型の研修を行い、現場での行動変革を促しています。
さらに、上位層であるⅦ等級(統括部長)やⅧ等級(事業部長)には、経理・財務指標や営業成績分析など専門性の高いテーマについて、マンツーマンによる実地指導を行っています。
研修方法も工夫し、集合研修とオンライン学習を組み合わせ、クラウドシステムで動画配信や課題提出をデジタルで完結。上司がリアルタイムで部下の課題を確認・フィードバックできる仕組みを整え、受講者が孤立せず周囲の支援を感じられる環境づくりにもつなげています。
このように、複数の手法を組み合わせながら、継続的な人材力向上を図っています。
対面での研修のようす
10年ビジョン策定と未来へのシナリオ
ミウラは創業70年を迎えた2023年に、10年後のありたい姿を描く「ミウラビジョン」の策定に取り組みました。従来は3〜4年単位の中期経営計画のみでしたが、外部コンサルタントの提案も受け、初めて長期視点の構想に挑んだのです。
策定にあたっては、経営層・統括部長に加え、将来を担う部長級・リーダー級人材も選抜し、参画させました。彼らによる2日間の「ビジョンキャンプ」を開催し、「2033年にミウラをどうしたいか」をテーマに複数グループで討議・提案し、社内コンペを経て最終案をまとめました。
このキャンプでは、第2次役割等級制度づくりにコアメンバーとして関わった統括部長たちが、率先して議論をリードして自ら策定した等級定義どおりの働きをみせました。「人事制度改革への参画が、次世代の経営幹部の育成につながったことは大きな副産物です」と上野社長は語ります。
上野社長は、ビジョン策定の意義についてこう振り返ります。「従来のように経営層が机上で作ったものではなく、幹部社員層以上が主体となって考えたビジョンです。ミウラの北極星となる指針ができたことで、ここから中期計画、単年度計画へとブレークダウンし、目標を明確に定められるようになりました。」。
今後の経営のシナリオについても展望を語ります。「当社は多岐にわたる事業を手がけていますが、今後、どの方向を目指すのか、試行錯誤しながら描いていきます。すべての領域で情報活用が不可欠になるため、リスキリングも含め、偏りなく人材育成を進めたいと考えています。」。
特に意識しているのは「ニッチ分野」です。どの領域にも特化した企業が存在することを踏まえ、ミウラとして強みを発揮できるポイントを見極め、磨き上げていく考えです。
また、多様な事業リソースを融合させる構想も進めています。「事業間連携によって付加価値を高め、隣接領域への拡大を図りたい。さらに、システム開発部門と製造部門が共創できる就業環境づくりにも投資していきます。」と上野社長は展望します。
2023年ビジョンキャンプ参加メンバー
人的資本経営と「社員が働きたい会社」
人的資本経営に向け、上野社長は「配置」と「育成」がカギだと指摘します。「能力の向上により職務価値が高まり、それが顧客価値の向上につながる。適切な配置・異動を通じて成長を促す仕組みが必要で、リスキリングも不可欠です。」と語ります。
また、処遇だけでは人材を惹きつけられない現実も見据えています。「世間では“初任給30万円”の企業が話題ですが、中小企業には簡単ではありません。処遇だけに頼らず、社員にとって“この会社で働きたい”と思える魅力づくりが極めて重要な課題になるでしょう。」と強調しています。
AI時代への危機感と挑戦
急速に進化する生成AIへの対応は、ミウラにとって最重要課題のひとつです。「今のところAIの影響は表面化していませんが、間違いなく焦眉の急です。顧客もシステム開発の現場も生成AIを前提に動き始めており、乗り遅れたら明日はないと痛感しています。」と上野社長は危機感を強めています。
2025年は、10年ビジョンを3年ごとに区切った最初の節目です。「先駆的な形でもいい。経営テーマにAI対応を掲げ、具体的な行動を起こさねばなりません。この1〜2年が勝負です。」と語り、迅速なAI対応への強い決意を語ります。
おわりに
「企業と人材の成長は永遠の課題」―この信念のもと、ミウラは今後も変革に挑み続けます。
最後に、当社への期待を伺うと、森脇取締役はこう語ります。「役割定義や役割行動基準など、良い仕組みができたと考えています。ただ、評価制度をいかに育成につなげるかは今後の重要テーマです。プライムさんが常に親身に寄り添ってくれる点にも感謝しています。人事制度は社会の変化とともに進化するでしょうから、最先端の仕組みをキャッチアップできるよう、引き続き支援を期待しています。」。
上野社長も続けます。「プライムさんとの奇跡的な出会いから20年近くになります。この間、当社に寄り添い続けてくださったことに感謝しています。まもなく、AIが人事を含め経営全体に大きな影響を及ぼす時代がやってきます。豊富な経験を活かし、AI活用型の新サービスをぜひ提案してほしい。」と期待の言葉をくださいました。
プライムコンサルタントの
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