試用目的の有期雇用契約は有効か?

第83回 ホワイト企業の人事労務ワンポイント解説
Q
私は職員数約30名の小規模なクリニックを経営する院長です。新規の正職員を採用する際には3カ月の試用期間を設けていますが、今回、能力や適性に問題があって本採用を見送るケースが発生しました。
しかし、これは解雇に該当するので安易にはできないとの指摘を受けました。今後は、新しく採用する職員は試用目的の有期雇用契約にし、適性に問題がある場合は契約期間満了による退職としたいと考えますが、問題はあるでしょうか?
A
期間の定めのない正社員を雇用する際には、就業規則で3カ月程度の試用期間を設ける企業がほとんどだと思います。試用期間中の働きぶりを判定の結果、本採用を拒否する場合には、解雇に該当します。
試用期間中の解雇は本採用後の通常の社員の解雇より多少広い範囲において解雇する自由が認められているとされています。しかし、解雇である以上、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、解雇は無効」とする労働契約法16条の規定が適用されることに変わりは無く、安易な本採用拒否は厳しく判断されます。
このため、採用者の適性判断のために最初の一定期間を有期雇用契約としている企業も多々あるようです。そこで問題となるのが、試用目的の期間雇用がどこまで許されるのかという点です。
以下では、この問題を検討します。
最高裁判決での判断
正規採用を望む労働者が3カ月など試用期間的な有期雇用契約を結んで勤務した後、会社から契約期間満了による一方的な雇止めを受けた場合、これに不満を感じる労働者は多いと予想されます。実質的には無期雇用契約における試用期間と同じであり、会社の「雇止め」は解雇に該当し無効と主張するケースが想定されます。
裁判でも、私立高校に1年の契約期間で雇われた「常勤講師」の期間満了による雇止めの効力が争われ、最高裁は、「使用者が労働者を新規に採用するにあたり、雇用契約に期間を設けた場合、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、期間の定めのない労働契約下の試用期間と解するのが相当」と判示しています(神戸広陵学園事件(最三小判平2.6.5))。
最高裁の判断は、試用目的の有期雇用契約が有効となるためには、労働者には期間の満了によって、雇用契約が当然に終了する(可能性がある)旨を明確にして採用する必要があるとしています。したがって、募集時の求人票や、採用時の契約書において、適格性を判断するための有期の契約であることを明示し、正社員として登用されない場合には期間満了で契約終了になることを予め応募者に説明し、労使が合意の上で有期雇用契約を結ぶといった対応が必要になるということになります。
ハローワークのトライアル雇用
企業が試用目的の有期雇用契約を締結する場合には以上のような点に留意する必要がありますが、正面からこれを制度化した例としてハローワーク等で実施している、「トライアル雇用」があります。
この制度は、職業経験の不足などから就職が困難な求職者等を原則3カ月間試行雇用することにより、その適性や能力を見極め、期間の定めのない雇用への移行のきっかけとすることを目的にした制度です。
労働者の適性を確認した上で無期雇用へ移行できるため、ミスマッチを防ぐことができ、人材確保・職場定着が期待できるとしています。ハローワーク等では「トライアル雇用求人」を積極的に提出してもらうために、トライアル雇用助成金(月額4万円を最大3カ月支給)の制度を設けています(図:厚労省リーフレットより)。
出典:厚生労働省 トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/newpage_16286.html)
今回の相談の場合
トライアル雇用は試用目的での有期労働契約を利用した制度ですが、冒頭の質問者のクリニックの場合、就職困難者といった特別の事情を抱える労働者の採用ケースではありません。日本の法律では、労働契約に期間を設定するうえで、合理的な理由は必要とされませんが、ご質問にあるような採用方法が簡単に認められるわけではありません。
試用のための有期雇用契約を有効に実施するためには、当該クリニックで正式採用されるには勤務成績や能力などに一定のハードルがあって、それをクリアした場合に限り、正職員として登用する旨を事前に明確に伝えた上で、応募者がこれを受入れた上で有期雇用契約を締結するといった手順が必要になると考えます。
そのような趣旨の採用ではなく、あくまで通常の正社員の募集・採用であれば、試用期間だけを形式的に有期契約期間として切り離す扱いにしたとしても、実際には、試用期間付きの無期雇用契約と同様と見なされる可能性が高いと言えるでしょう。
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