成年年齢の引下げと会社実務での留意事項
第59回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説
Q
当社は従業員数約30名の食品製造を行う中小企業です。人手不足のため、学生アルバイトを募集する予定ですが、民法の改正により成年年齢の引下げがあったので、18歳以上の者を雇うときには、親権者の同意が不要になったのでしょうか? 学生などのアルバイトを募集する上での留意点についてご教示ください。
A
ご承知のように、民法の改正があり2022年4月から成年年齢が20歳から18歳に引下げられました。この影響で、18歳から20歳未満の人には従来「20歳から」とされていた一部の権利が認められることになります。労働分野においての変化や、労務管理上、企業として留意すべき事項について検討します。
成年年齢の引下げと労働契約における留意事項
「成年」とは、人が成長して完全な行為能力を有するとみなされる年齢のことです。成年に達していない者は「未成年者」となり完全な行為能力を有しないとして、法律行為をするには、その法定代理人(通常は親権者である父母)の同意を得なければなりません(民法5条1項)。
労働契約の締結は法律行為ですから、未成年者が労働契約を締結するには、親権者の同意が必要になり、改正前は、20歳未満の者が労働契約を締結する際には、親権者の同意が必要でした。
今回の民法改正により、成年年齢が18歳に引下げられたため、18歳以上であれば契約締結時に親権者の同意は不要となりました。使用者としては、これまで18歳以上20歳未満の者を雇う際に必要だった親権者の同意の有無を確認する作業をしなくてよくなったことになります。
18歳、19歳の新たに成人になった人達にとってみれば単独で有効に契約が可能になるなど、自らの権利が拡大されたわけですが、同時に、未成年者であれば認められていた取消権(=未成年者が法定代理人の同意を得ずに結んだ契約を取り消す権限)といった保護もなくなり、自ら責任を負うことになるのを忘れてはいけません。
親が知らないうちに、子が企業と雇用契約を結ぶことが可能になるだけでなく、例えば、クレジットカードの申込みなども親権者の同意なしに可能となり、審査に通れば独自にカードを作ったり、ローンで商品を買ったりすることができるので、親にとっては「不安」の原因になる場面が増えたともいえます。
新たに18歳以上で成人になる労働者の働き方については、変更になる点は特段ありません。従来から労働基準法などの労働法規における雇用や労働条件に関わる保護規定は、「年少者(満18歳未満の者)」について設けられていて、広く「未成年者(従前は満20歳未満)」を対象にするものではないからです。
ただし、今回の法改正でも喫煙・飲酒に関する法律では年齢要件の20歳が維持され満20歳未満の者の喫煙は禁止されるので、例えば商品の運搬や清掃のためであっても、20歳未満の者を喫煙施設などに立入らせることは受動喫煙防止の観点から健康増進法に違反することになるので注意が必要です。
年少者(18歳未満)に対する保護
次に、18歳未満の高校生などとアルバイト契約する場合を考えてみましょう。労働基準法上、満18歳未満の者を「年少者」と呼びます。また、満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまでの者(つまり中学校を終了するまでの者)は「児童」とされ、原則として労働者として使用することはできません(ただし、子役の業務等例外あり)。
18歳未満の年少者を雇用する場合、親権者の同意があることが必要ですが、この場合、親権者が未成年者に代って労働契約を締結することはできず、あくまで契約は未成年者本人と締結することになります(労基法58条)。そして、使用者は、未成年者の労働に対して賃金を支払いますが、この場合も未成年者に直接支払う必要があり、親権者が代理で受けとることはできません(労基法24条、59条)。
年少者には、原則として時間外労働や深夜労働を行わせることはできず、違反した場合には、刑罰が科される可能性があるので注意が必要です。ここで深夜労働とは深夜帯(午後10時から午前5時まで)に働かせることですが、交代制(昼間勤務と夜間勤務とに交替でつく勤務態様)で働く16歳以上の男性労働者の場合を除き、年少者を深夜時間帯に働かせることは禁止されます。
年少者を雇用する上では、親権者の同意が必要であったり、労働時間に制限があるため、「18歳以上の者に限定して募集したい」と考える企業があるかもしれません。しかし、労働者を募集し、採用する際においては、原則として年齢は不問としなければならず、したがって、18歳以上の者に限定して労働者を募集することは認められません(労働施策総合推進法9条)。この点は、パート、アルバイト、派遣など雇用形態によって左右されるものではありません。
ただし、例外的に限定募集が許される場合があり、業務内容による限定(危険業務、有害業務、警備業務等)や業務時間による限定(深夜業務)のように18歳未満の就労が禁止されている業務については、18歳以上の者に限定して募集することは可能です。
その他の留意事項
社会保険(健康保険・厚生年金保険)関係に変更はなく、加入条件を満たせば、成年・未成年に拘わらず加入が必要となります。また、国民年金は「20歳以上60歳未満」が第1号被保険者で「成年」年齢が引下げられても変更はなく、国民年金の加入開始年齢は満20歳のままになります。
一方、「訴訟能力」は民法上の成年と連動しているため、18歳以上の者が、完全な訴訟能力を有することになります。また、従来は婚姻していない20歳未満の給与所得者は未成年者に該当し、源泉徴収票の「未成年者」欄に「〇」が付されましたが、この扱いも不要になります。
以上のように、成年年齢が引下げられた結果、「変わるもの」と「変わらないもの」が混在しますので学生アルバイトを募集する際には「年少者」の扱いも含め、会社実務の再確認をしてください。
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