育児・介護休業法の改正ポイントと企業の対応(育児編)

第89回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説
Q
約3年前に育児介護休業法が改正され、当社でも男性社員が初めて育児休業を取得するなど、取得率が向上しています。今回、再度の同法改正があると聞きました。
具体的な改正内容と企業の対応について、わかりやすく説明してください。
A
育児・介護休業法は、近年、度々の改正を繰り返していますが、2024年の第213回国会で新たな改正法が可決・成立し同年5月31日に公布されました。改正法は2025年4月と10月に施行されますが、企業の人事労務の実務に大きな影響がある改正が含まれています。
今回は、育児に関する改正について、施行時期に分けて大きく5項目((1)~(5))について見ていきます。
令和7年4月1日に施行される内容
以下の(1)~(3)の改正については、令和7年4月から実施されます。
(1)所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大
(2)子の看護休暇の見直し(対象となる子が小学3年生までに拡大、他)
(3)育児のためのテレワークの導入(努力義務)
(1)は、子育て中の従業員が請求した場合、所定外労働(残業)をさせてはならないとする「所定外労働の制限」についての改正です。現行法では、対象となる子は「3歳まで」とされていますが、改正後は「小学校就学前まで」の子を養育する従業員が残業免除の請求をすることが可能になります。
(2)は、子の看護休暇に関する改正です。看護休暇は、年次有給休暇とは別に子を養育する従業員が取得できる休暇です。年間で5日(子が2人以上の場合10日)取得でき、また、1日に限らず、時間単位で取得出来ることなどは現行法と同じで変更はありません。
今回、改正されるのは、看護休暇の対象となる子の範囲が現行法の「小学校就学前」から「小学校3年生修了前」に延長される点です。
また、看護休暇を取得できる事由についても拡大され、現行法では子が「病気・けが」又は「予防接種・健康診断」などとされていますが、改正後は、「感染症に伴う学級閉鎖」や「入園(入学)式、卒園式」が追加されます(厚労省Q&Aでは「運動会」や「授業参観」は対象外としていますが、会社の判断で取得を認めることは差し支えないとしています)。
今回の改正で取得事由が拡大されるため、休暇の名称が「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」に変更されます。見落しそうな細かい事項ですが、会社の就業規則や育児介護休業規程等で休暇の名称変更を実施してください。
看護等休暇は、有給・無給は会社の定めによりますが、気兼ねなく取得できれば子育て中の社員には効果の高い休暇といえるため、今後の利用率の向上が望まれます。
なお、子の看護休暇は労使協定の締結により「雇用期間が6カ月未満」の労働者を除外できましたが、改正後はこの規定が撤廃されます。労使協定で除外できるのは、週の所定労働日数が2日以下の者に限られます。
次の(3)は「3歳までの子を養育する労働者がテレワーク(在宅勤務)を選択できるようにする措置」が使用者の努力義務として追加されます。
令和7年10月1日に施行される内容
次の2つの改正は、令和7年10月から実施されます。
(4)柔軟な働き方を実現するための措置の義務付け
(5)個別周知・意向確認及び意向聴取・配慮
(4)の「柔軟な働き方を実現するための措置の義務付け」は3歳以上、小学校就学前の子を養育する従業員を対象にする新たな制度で、事業主に措置義務が課されます。
具体的には、以下の措置のうち、2以上を講ずることが、企業規模を問わず事業主に義務付けられます。対象となる従業員は、このうち1つを選択し利用することが出来るようになります。
【柔軟な働き方を実現するための措置とは?】
① 始業時刻等の変更(フルタイム勤務を前提にフレックスタイム制または時差出勤制の措置)
② テレワーク等(原則、月に10日以上の利用)
③ 育児短時間勤務制度(現行、3歳未満の子の養育者に講じられる制度を小学校就学前まで延長)
④ 新たな休暇の付与(10日/年。時間単位取得可)
⑤ 保育施設の設置運営等
使用者は令和7年10月までに、上記のうち2以上の措置を選択して、就業規則等に定めて実施する必要があります。今回の改正で新たに創設された制度であり、会社にとってはインパクトの大きい改正事項といえるでしょう。
措置選択にあたっては会社の実情を踏まえて検討する必要がありますが、「③育児短時間制度の延長措置」や「①始業時刻等の変更」は中小企業でも比較的導入しやすい措置といえるかもしれません。措置選択にあたっては労働者代表等の意見聴取を行う必要があります。なお、入社1年未満の者や、所定労働日数が週2日以下の者を対象外にする場合、労使協定の締結が必要です。
最後の(5)は(4)で設置した「柔軟な働き方を実現するための措置」について、労働者への「個別の周知・意向確認」の義務です。これは、「3歳以上、小学校就学前までの従業員に対する措置」について、事前の周知・意向確認等を行なうための措置なので、対象となるのは3歳未満の子を養育中の従業員となります。会社は子が3歳になるまでの適切な時期(省令では1歳11カ月以降1年以内としています)に、対象となる従業員に面談、書面交付等の方法で行なうことが必要になります。
また、現行法では、妊娠・出産等について申出があった場合、育児休業制度の内容について知らせる個別周知・意向確認が必要ですが、今回の改正ではこれらに加え、仕事と育児の両立にかかる就業条件(始業終業時刻、就業の場所、等)について個別の意向聴取を行い、その後の当該労働者の意向に配慮しなければならないとされました。
まとめ
上記以外にも、300人(現行法は1,000人)超の企業に育児休業取得状況の公表を義務付ける(令和7年4月施行)等の改正が行なわれます。また、今回の改正育児介護休業法では、介護に関する改正に関して、介護離職防止のための新たな措置が会社に義務づけられており、この内容に関しては次回に取り上げる予定です。
今回の育児介護休業法の改正により会社は施行日までに、就業規則の改定、労使協定の締結、関係書面等の準備、意見聴取など様々な作業が必要になるため、改正内容をきちんと把握した上で、スケジュールを組んで計画的に準備を進めてください。
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