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複数の会社で働く労働者の労災給付の改正

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複数の会社で働く労働者の労災給付の改正

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第39回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

今般、複数の会社で雇用されている労働者が業務中に事故等にあって休業せざるを得なくなった場合等、労災保険からの補償内容が改善されたと聞きました。当社では副業・兼業については原則として容認しており、実際に副業をしている社員も少なくありません。法律の改正内容について教えてください。

A

副業・兼業などの多様な働き方を希望する労働者は近年増加しています。複数事業場で勤務する場合、万一、事故等が発生した場合の労災保険給付(休業、障害、遺族等)については、これまでは事故が発生した会社から支払われている賃金のみを基本に算定することとされていました。このため、賃金が少ないアルバイト先で事故にあった場合などは、十分な補償が受けられず副業・兼業をする上で問題となっていました。 今回、労災保険法が改正され、「複数事業労働者(二以上の事業に使用される労働者)」という用語が新設され、そのような労働者の労災事故については、すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に保険給付額等を決定することになりました(2020年9月1日以降に発生したけがや病気が対象)。ここでは以下の例により、給付額が改正前と後とで、どのように変わるかを検討します。

 

 上図では、労働者は会社A(賃金月額25万円)と会社B(賃金月額10万円)の2カ所で働いていて、会社Bでの勤務中に災害事故が発生したことを表しています。改正前の制度では、災害が発生した勤務先(会社B)の賃金額のみを基礎に給付額を決定する仕組みでしたが、改正後はすべての勤務先(この場合、会社Aと会社B)の賃金額を合算した額を基礎に給付額を決定します。

 業務上の事由による事故や疾病により労働者が休業した場合、労災保険から所得補償として給付基礎日額(平均賃金)の80%(休業補償給付60%と休業特別支給金20%)の額が支給されます。もし、事例の事故で労働者が約1ヶ月間休業を余儀なくされた場合、労災保険から支給される休業補償の給付額(休業初日から3日目までの待期期間を除き休業4日目から合計30日分で算出)は、法改正の前と後とで以下のように試算できます。

 

 この労働者は併せて月額計35万円の収入を得ていましたが、事故により会社Bだけでなく会社Aの就労も困難になり休業が必要になります。この際、法改正前の制度では約1ヶ月休業した場合の保険給付額は8万円弱で被災労働者の稼得能力喪失の補填を果たしているとは到底いえない状況でした。
 会社Aでも当該被災労働者にかかる労災保険料は支払われていたわけですから、就労する全ての賃金を合計した額で算定することが妥当であるとの結論から法改正が行われました。
 この事例の場合、法改正後の労災からの保険給付額(30日分)は約28万円(非課税)となり、療養中の生活費確保が可能な補償が受けられることになります(なお、労災が適用されない待期期間3日分の休業補償責任は事故があった会社Bのみに課されます)。


 また、通勤災害が発生した場合も、業務災害の場合と同様にすべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に保険給付額が決定されます。
 以上は事故等で休業した場合の例ですが、業務上又は通勤途上の事故や傷病により一定の障害が残ったり、死亡した場合にも同様の算定方法により、複数(すべて)の就業先の賃金を合算した額を基礎に保険給付額が決定されることになります。

複数業務要因災害の新設

 今回の法改正では「複数業務要因災害」という用語が新設されました。例えば、A社とB社に就労している労働者が精神障害などで労災の申請をした場合、これまでは、それぞれの勤務先毎の負荷(労働時間やストレス等)を個別に評価して労災認定できるか否かを判定していました。そのため、A社とB社いずれにおいても労災が認定されない(例:個々の会社での残業時間が労災基準に満たない)というケースがあったわけですが、法改正後は、そのような場合、すべての勤務先の負荷を総合的に評価することとなりました。
 もし労災が認定されれば「複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(改正労災法7条1項2号)」、すなわち「複数業務要因災害」に該当することになります。複数業務要因災害は、過重労働やストレスを原因とする疾病が想定されていて、脳・心臓疾患や精神障害などの疾病が対象になると考えられます。

まとめ

今回の労災保険法の改正により副業・兼業を行う「複数事業労働者」が安心して働くことができるセーフティネット環境が大幅に強化されることになりました。なお、法改正に合わせて、労災保険給付に係る各種申請様式が変更されています。例えば、新様式には「その他の就業先の有無」を確認する欄が設けられ、有の場合には、その数を記載することになります。2020年9月1日以降に発生した労災事故では、労災保険実務に大きな影響があるので、給付請求の際には最新の情報を確認するなど十分留意してください。

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