表彰及び懲戒ー2ー

賢い会社の就業規則・人事規程作成のポイント(35)
Q
「懲戒」の規定では懲戒の種類と各々の定義を定めることになりますね。軽いものから重いものまであるわけですが、そもそも懲戒処分をすることの意味はどう考えれば良いでしょうか?
A
懲戒処分をすることの意味としては、「制裁」と「教育」の二面があると考えます。
制裁は言葉通り「企業秩序違反に対するこらしめの罰」ですが、懲戒解雇や諭旨解雇は別としてそれ以外の、企業に留まることを前提にした懲戒処分は 「本人の非違行為を戒め、企業の構成員としてふさわしい行動を促し、立ち直りの機会を与える。」という教育的な意味もあると考えます。
また、「周囲の社員に対しても本来あるべき行動を明確にし、類似事例の再発防止など企業秩序維持のための教育的効果」があるのではないでしょうか。
そういう意味では、懲戒処分の種類は大きく(1)労働契約の存続を前提とするもの、と(2)労働契約の解消を行うもの、の2種類に分けることが可能です。
Q
なるほど、懲戒解雇は「(2)労働契約の解消」になると思いますが、減給や降格は企業に留まる前提での懲戒なので本人の立ち直りにも配慮すべきですね。それでは懲戒の種類と意味について教えてください。
A
まず、(1)労働契約の存続を前提とするものとしては、軽いものから「けん責」「減給」「出勤停止」そして「降格」があげられます。
規定例(懲戒の種類)
第○条 懲戒の種類及び程度は、次の各号のとおりとする。
1.けん責 始末書を提出させて将来を戒める。
2.減給 始末書を提出させて減給する。ただし、1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が一賃金支払い期間における賃金総額の1割を超えることはない
3.出勤停止 始末書を提出させるほか、7労働日を限度として出勤を停止し、その間賃金を支給しない。
4.降格 職位を解任若しくは下位等級へ降格する。
・・・・・・・
もっとも軽い懲戒処分は「1.けん責」で、始末書を提出させて将来を戒めることです。類似の「戒告」という制裁もあり「けん責」との違いは始末書の提出を求めないものを言ったりします。
始末書については従業員が自分の非を認めず提出しない場合があり、その場合の会社の対応がよく問題になるところです。
始末書の提出も業務上の指示命令と捉えれば、それに違反したことに対して再び懲戒を行うことが可能かもしれませんが、実務上の対応としてはお勧めできません。
始末書を提出しないのは反省の態度が認められないわけですから、人事考課でのマイナス評価とかその後の状況によっては普通解雇等の事由の一つとするといった対応が望ましいでしょう。
次の「2.減給」については1回の額が平均賃金の1日分の半分以内、総額が一賃金支払い期における賃金総額の10分の1以内としなければなりません(労基法91条)。
もし、この金額を超えて減給の制裁を行う必要がある場合は、次の賃金支払い期に延ばして行う必要があります。
「3.出勤停止」は、就労を一定期間禁止とし、その間は原則無給とするものです。
停止の期間については「減給」のような法律上の規制はありません。
しかし、出勤停止中は賃金も支払われず、労働者の生活に大きな影響が及ぶことから、あまりに長期の期間を定めるのは「公序良俗」に違反すると判断されるでしょう。
多くの就業規則では上限7~10日程度を定めることが多いようです。
この際、暦日なのか労働日なのか曖昧になりがちなので、「7労働日」といった明確な記載にしてください。
7日程度の出勤停止では短かすぎて不十分で2-3カ月程度の休職処分を行いたい場合も稀にあるかもしれません。
そのような場合には、完全無給とするのではなく例えば月収の4割を超えない範囲で給与を減額するといったやり方が良いと考えます。
「4.降格」はもう一段重い処分で、職位を解任もしくは引き下げることで人事制度上の資格・等級が引き下がり、それに基づき賃金が低下するものです。
「降格」といいながら、従来と同一の職務に従事するような場合で、給与のみを下げるのは「降給」となるので労基法の減給の制裁(労基法91条)に該当して違反になる可能性があるので注意してください。
Q
「けん責」から「降格」までの懲戒の種類とその意味はだいたいわかりました。ところで、懲戒処分をする場合、それぞれの懲戒の種類毎にどのような行為を行うとそのような処分がなされるのか厳格に定める必要があるのでしょうか?
A
前回説明したように、懲戒処分を行うためにはどのような行為が懲罰事由になり、それに対してどのような種類、程度の処分をするかを就業規則に定める必要があるわけです。
ただし、懲戒の種類と事由との対応関係をどこまで厳密に行うのかは使用者の判断となり、概ね、次の3通りのタイプが考えられます。
タイプ1:懲戒の種類(例えば、けん責、減給等)毎に細かく懲戒事由を明記するもの。
タイプ2:労働契約の継続を前提とした軽い種類(「けん責」から「降格」まで)と労働契約の解消を行う重い処分(懲戒解雇等)の2グループに分けて明記するもの。
タイプ3:懲戒の種類と懲戒事由は独立してまとめて規定し、実際の懲戒処分決定は使用者や懲罰委員会の裁量に委ねるもの。
Q
なるほど、懲戒事由の記載方法にも3通りの類型があるわけですね。タイプ1なら個々の懲戒毎に事細かに定めるので処分はわかりやすいと思いますが、それぞれ列記するのは少し大変そうです。
A
はい、ひとつには処分の軽いものと重いもので矛盾がないように整合性をとる必要がありますね。
例えば、けん責は無断欠勤5日と記載しているのに、減給は無断欠勤3日ではつじつまが合いません。
それと懲戒の種類ごとにあまり事細かに規定してしまうと処分の際の裁量権が狭くなってしまい、使用者の懲戒権を不必要に縛ることにもなりかねません。
一方、タイプ3のように懲戒事由だけひとまとめに列記している場合は、懲戒事由と懲戒種類は独立しているため、処分の軽いものから重いものまで裁量の幅が非常に大きくなります。
「けん責」と「懲戒解雇」では処分の重さがまったく違いますので処分の平等性が保てるのかという心配もありますね。
そこで、ここではタイプ2のように「けん責」から「降格」までの処分については、それぞれの処分と懲戒事由を対応させずに一つにまとめて定め、「懲戒解雇」のような労働契約の解消につながる重い処分については別途定めるという方法をお勧めしたいと思います。
第○条 従業員が次の各号の一つに該当するときは、その情状に応じ、けん責、減給、出勤停止、又は降格に処する。
・・・・・・・・
上記の例では、ひとまとめにするのは「けん責」から「降格」まで、すなわち企業に留まる前提の処分に対する懲戒事由を定めます。
詳細は、次回に検討しましょう。
今回のポイント
- 懲戒処分には「制裁」と「教育」の二面があり、本人の「立ち直り」にも留意する。
- 懲戒処分には(1)労働契約の存続を前提とするもの、と(2)労働契約の解消を行うもの、の2種があり(1)には、軽いものから「けん責」「減給」「出勤停止」そして「降格」がある。
- 「減給」は1回の額が平均賃金の1日分の半分以内、総額が一賃金支払い期における賃金総額の10分の1以内という労基法上の制約がある。
- 懲戒の種類に対する懲戒事由の記載方法には3通りの類型があるが、軽い懲戒(「けん責」から「降格」まで)と重い懲戒(懲戒解雇等)の2グループに分けて明記するのは良い方法である。
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