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企業が知っておくべき「年金法改正」のポイント

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企業が知っておくべき「年金法改正」のポイント

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第97回ホワイト企業の人事労務ワンポイント解説

 

Q

当社は、パート10名を含む約50名の従業員が働く中小企業です。先日、新聞で年金制度の改正法が成立したという記事を目にしました。
今回の改正によって、会社や従業員にどんな影響があるのか気になっています。現在、パートは雇用保険に加入していますが、社会保険には加入していません。
このような状況で、どのような点に注意すべきか、ご教示ください。

A

2025年5月に、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」(以下、「改正年金法」)案が国会に提出され、6月13日に成立し同月20日に公布されました。
改正内容は多岐にわたっていますが、本稿では、企業や従業員にとって影響が大きい以下の改正内容について、順にポイントを解説します。
・在職老齢年金制度の見直し
・社会保険の適用拡大
・標準報酬月額の上限の段階的引き上げ
・遺族年金の見直し

在職老齢年金制度の見直し(令和8年4月)

比較的高い賃金(賞与含む)を受けながら年金を受けとる場合、賃金と年金(厚生年金の報酬比例部分)の合計額が、ある一定以上になると、年金が減額されるしくみが在職老齢年金制度です。支給停止の基準額は、今年度は51万円ですが改正年金法により来年の4月からは62万円(2024年度価格)に引き上げられる予定で、高所得者(事業主・役員等含む)にとっては朗報といえます。

例:報酬比例の年金月額(厚生年金)12万円 標準報酬月額:65万円 
現在:12-(65+12-51)✕1/2= 0円(全額支給停止)
来年:12-(65+12-62)✕1/2=4.5万円/月・支給

上例は、厚生年金(報酬比例部分)が月額12万円(年額で144万円)の被保険者が、標準報酬月額の上限である65万円(賞与なし)で働いている場合の在職老齢年金の受給額の算出式です。現行では厚生年金は全額支給停止ですが、来年4月からは部分停止となり月額4.5万円(年額54万円)が受給できる計算になります。

65歳以上で給与が高く、現在、厚生年金が全額支給停止になっている場合でも、来年4月からは、厚生年金の一部が受け取れる方が大幅に増えることになります。

編集者注:「報酬比例部分」とは、厚生年金額のうち、加入期間と標準報酬月額(社会保険料の基礎となる金額)によって決まる部分を指します。給与の変動により標準報酬月額が改定されると、この報酬比例部分の金額にも影響します。

社会保険の適用拡大(令和9年10月)

パートなど短時間労働者の社会保険(厚生年金・健康保険)加入の適用拡大は、9年前の平成28年10月にスタートしました。すなわち、学生を除き、以下のア~エの要件をすべて満たす場合、社会保険に加入することになりました。

ア.週の所定労働時間が20時間以上
イ.賃金月額が月額8.8万円以上(年収約106万円)
ウ.勤務期間が1年以上見込まれること
エ.従業員(厚生年金被保険者)が501人以上

このうち、ウの要件は令和4年10月から「2ヶ月を超えて雇用が見込まれる場合」に改定されるとともに、エの人数要件も従業員101人以上、さらに令和6年10月からは51人以上に適用範囲が拡大しました(該当する企業を「特定適用事業所」と呼びます)。

今回の改正年金法では、上記のイの要件が削除されます(改正法の公布から3年以内の政令で定める日)。いわゆる「106万円の壁」撤廃として、大きく報道されましたが、最低賃金が1,016円以上の地域では、週20時間働くと、この賃金要件を満たすことから実質的な意味が薄れているため撤廃に至ったという経緯があります。

企業規模要件については令和9年10月から段階的に適用範囲が拡大し、10年後の令和17年10月には規模要件が撤廃され、すべての企業が対象になる予定です。

企業規模 実施時期 増加見込み
35人超 2027年10月 約10万人
20人超 2029年10月 約15万人
10人超 2032年10月 約20万人
規模撤廃 2035年10月 約25万人


冒頭の相談者の会社の場合、現在、パートを除く正社員(社会保険加入者)が36人以上であれば、2027年10月からは「特定適用事業所」となります。週20時間以上働いて雇用保険に加入中の短時間パートも社会保険への加入が必要になり、会社の社会保険料負担も増加することになります。

短時間パートにとっては社会保険に加入するメリットがある一方で、手取り収入が減るという問題があります。改正年金法では、緩和措置として導入初期の3年間、パートの保険料負担を国の定める割合で軽減する特例的・時限的な経過措置を設けるとしています(標準報酬月額12.6万円以下の人が対象)。

例えば、労働者の負担割合が月収8.8万円の人は50%→25%、9.8万円の人は50%→30%といった社会保険料の軽減措置です。この場合、事業主が労使折半の枠を超えていったん保険料を負担しますが、次回以降の保険料納付時に還付され、実際には事業主負担は原則の50%のままになります。

標準報酬月額の上限の段階的引上げ(令和9年9月)

保険料と年金給付の算定に使用される「標準報酬月額」は8.8万円から65万円の32等級(健康保険は5.8万円から139万円までの50等級で変更は予定されていません)で、最高額の65万円の人の割合は9.6%(243万人)いるとされています(2024年6月現在)。賃金上昇の継続を見据え、世代間の公平のためにも、本来の賃金に応じた負担を求めるために厚生年金の標準報酬月額の上限が以下のように段階的に引き上げられる予定です。

実施時期:68万円(2027年9月~)、71万円(2028年9月~)、75万円(2029年9月~)

新たな「標準報酬月額」に該当する人は、保険料負担割合に見合った将来の年金額の増加につながります。高所得者を多く抱える企業にとっては保険料負担が増大するため予算措置等が求められます。

遺族年金の見直し(令和10年4月)

遺族年金の見直しは改正年金法で最も注目される事項の一つといえます。女性の就業率上昇等の社会変化に合わせ、遺族厚生年金を見直し、約20年程度の経過措置を設けて男女間の格差を解消させます。

一例として、3年後の令和10年4月からは、厚生年金に加入中の女性社員などが死亡した場合、現行制度では、その夫は55歳以上でないと遺族厚生年金の受給権が発生しませんが、新制度では年齢に関係なく受給できるようになります。

なお、新制度では60歳未満の人が受ける遺族厚生年金は原則5年の有期給付となりますが、既に遺族厚生年金を受給中の方、60歳以上で遺族となった方、また、令和10年度末に40歳以上(平成元年4月1日以前生まれ)の女性は今回の法改正の影響を受けません。

このほかにも、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢が70歳までに引き上げられることや、外国人の脱退一時金制度に関する見直しも行われます。該当する従業員がいる場合は、今から確認しておきましょう。「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」

また、国会関連のニュースでも大きく報じられた「将来の基礎年金の給付水準の底上げ」については、改正年金法の附則にその方針が明記され、5年後の次期財政検証の際に再度議論されることになっています。

今回の改正年金法は、就労・保障・家族支援のあり方について構造的な見直しがなされた重要な内容を含んでいます。企業担当者としても、時間をかけて、しっかりと理解を深めてください。

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