1. 賃金・評価などの人事コンサルティングならプライムコンサルタント
  2. プライム Cメディア
  3. WEB連載記事
  4. ホワイト企業の人事労務ワンポイント解説
  5. 1カ月単位の変形労働時間制の活用

メディア記事

1カ月単位の変形労働時間制の活用

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
1カ月単位の変形労働時間制の活用

米田徹先生のプロフィールはこちら

第88回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

 当社では、1カ月の間に業務量に繁閑があります。月末の1週間は業務が急増するのに対して、それ以外の時期は比較的余裕があります。
 このような場合、1カ月単位の変形労働時間制を採用すると良いと聞きましたが、具体的にはどのように行なえば良いのでしょうか。メリットや留意点についても教えてください。

A

 1カ月単位の変形労働時間制は、月内に業務量に変動がある場合などに有効な、労働基準法で定める変形労働時間制の一種です。
 月末の業務が忙しい一方、それ以外の期間は余裕がある場合、この制度を使えば、忙しい時期に労働時間を長くし、余裕がある時期に短くすることで、1カ月の平均労働時間を法定内に収めることができます。例えば、質問者の会社のように月末に業務が集中する場合でも、この方法で効率的に対応できます。

1カ月単位の変形労働時間制とは

 1カ月単位の変形労働時間制は、使用者が就業規則または労使協定により、1カ月以内の一定期間を平均し1週間あたりの労働時間が週の法定労働時間(原則40時間)を超えない定めをした場合、特定された週または日に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。要件を満たしていれば、特定の日や週に1日8時間、週40時間を超えて勤務させることができ、時間外割増し賃金を支払う必要もありません。
 1カ月単位の変形労働時間制は、1週40時間、1日8時間という原則(労基法32条)の例外として認められる制度ですが、1カ月労働した後に、これを通算して、結果として1日当たり8時間、1週間当たり40時間以内に収まっていればよいという制度ではありません。
 1カ月単位の変形労働時間制は労働者にとっては、特定の日や週の労働時間に変動が生じることになります。使用者がその時々の業務量の都合により、任意に各日又は各週の労働時間を変更できるとしたら、労働者にとっては日常生活の設計ができないばかりか、特定の日や週に、いくら長く労働しても割増賃金が支払われなくなる可能性があるなど、労働者にとって不利益が著しくなってしまいます。
 労働者に、このような不利益を生じさせないために、1カ月単位の変形労働時間制を採る場合には、使用者の恣意的な決定を認めず、各日、各週について労働時間を就業規則、又は労使協定において事前に具体的に定めておかなければなりません。

就業規則に定める事項の例

 1カ月単位の変形労働時間制を就業規則に定める場合、最低限、①対象労働者の範囲、②対象期間と起算日、③労働日および労働日ごとの労働時間を定める必要があります。
 今回の質問者の会社を例にとると、例えば、以下のような規定が考えられます。

(1カ月単位の変形労働時間制)
第〇条 正規従業員全員を対象とする。
 2 1日の労働時間は、原則として次のとおりとする。ただし、1週間の所定労働時間は1ヶ月を平均して40時間を超えないものとする。
  (1)毎月1日~24日まで  7時間
  (2)毎月25日~月末まで  9時間
 3 始業・終業の時刻及び休憩時間は次のとおりとする。
  (1)前項第1号の場合
    始業 午前9時
    終業 午後5時
    休憩 正午から午後1時まで
  (2)前項第2号の場合 
    始業 午前9時
    終業 午後7時
    休憩 正午から午後1時まで
 4 1カ月の起算日は、毎月1日とする。


交代制勤務シフトで運用する場合

 1カ月単位の変形労働時間制は、交代制の早番、中番、遅番のように一日の業務をシフトにより勤務時間を柔軟にカバーする必要がある業種でも広く採用されています。具体的には、小売業、飲食業、医療・介護業、運輸・物流業などで、この制度を活用し、業務量の変動に対応しながら24時間体制や長時間営業を可能にしています。
 シフトによって労働時間を調整する場合、業務の実態上、就業規則による特定が困難な場合が想定されます。そのような場合には、就業規則で各シフト勤務の始業・終業時刻、シフトの組み合わせの考え方、勤務割表の作成手続き、及び社員への周知方法等を定めます。そして、各日ごとの勤務割は変形期間開始前までに具体的に特定して、本人に通知するといった方法でも構いません。
 勤務シフトの定め方に問題があり、1カ月単位の変形労働時間制を無効とした最近の裁判例があるのでご紹介します(日本マクドナルド事件:名古屋高裁=令和5年6月22日)。同社は就業規則において「原則として4種のシフト」を規定して1カ月単位の変形労働時間制を実施していました。しかし、原告(訴え人)の勤務する店舗は24時間営業店舗で、地域特性もあって、上記4種とは異なるシフトを採用し、1カ月単位の勤務シフトを記載した勤務割り及び1カ月単位で作成される1日の勤務シフト表を作成していました。
 名古屋高裁は就業規則に定めていない独自シフトでの運用は、変形期間における各日・各週の労働時間を具体的に特定したものとはいえず、同店舗の変形労働時間制を無効と判断しました。

まとめ

 1カ月単位の変形労働時間制は、繁忙期と閑散期の労働時間を柔軟に調整できるメリットがあります。特に、繁忙期における柔軟な対応が可能な点は大きな利点となります。また、残業が減少し、労働時間を効率的に管理できることも、この制度の大きな特徴といえるでしょう。
 一方で、あらかじめ特定した労働時間を変更するためには就業規則等に振替えを行う場合の例外的・限定的事由(変更条項)を定める必要があり、変更の指示などが権利の濫用とならないよう、運用にあたっては十分な注意が必要です。変形労働時間制を実施する場合には、労働者の生活設計を損なわない範囲で行なうように配慮することが重要といえます。

プライムコンサルタントでは、本記事のようにWEB会員限定サービスをご提供しています。
「WEB会員」サービスはどなたでも無料でご利用いただけます。
今すぐご登録ください(入会金・会費など一切無料です。また、ご不要であればいつでも退会できます)。

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

おすすめ記事

    カテゴリ