採用面接で精神疾患の有無を聞いてもよいか

第101回ホワイト企業の人事労務ワンポイント解説
Q
当社は製造業で製鉄・化学プラントなどの危険物を取扱う作業があり、注意力の低下が事故につながる可能性がある職場です。
新規採用者の採用面談時に、応募者へ精神疾患の病歴などを尋ねることは問題がありますか?
A
新規社員の採用にあたって、会社が「健康な人を雇いたい」と考えるのは自然なことといえます。したがって、応募者の精神疾患の既往歴なども確認しておきたいと考えるのは理解できます。
しかし、厚生労働省は「採用選考時に配慮すべき事項」として、就職差別につながるおそれのある質問には十分な配慮が必要であるとしています。
本稿では、採用面接において精神疾患の既往歴を聞いてもよいかについて検討します。
採用選考時に病歴を尋ねることの制限
採用段階で応募者の病歴など健康情報を確認することを躊躇する企業は多いと思われます。個人情報保護法で定める「要配慮個人情報」には、「人種」「信条」「社会的身分」「犯罪歴」などと並び「病歴」も含まれており、これらは不当な差別や偏見による不利益を招くおそれがあるため、取得には本人の同意と利用目的の明確化が必要とされています。
今回の相談企業は製造業で、プラント関連業務など危険物を扱う職場とのことです。作業中の注意力の低下が重大な事故につながるおそれがあるため、応募者の精神疾患などの健康状態を確認したいという要請には一定の合理性があります。
しかし、採用選考時に応募者へ「精神疾患の病歴」や「通院歴」を直接尋ねることは、厚生労働省が示す「公正な採用選考の基本」に照らし、原則として不適切とされます。健康状態や家族の病歴など、本人の適性・能力とは直接関係のない情報を収集することは、プライバシー侵害や差別につながるおそれがあるためです。したがって、「うつ病の既往はありますか」「精神科に通院したことはありますか」といった質問は不適切と考えるべきです。
安全配慮義務との関係
では危険を伴う職場で企業は応募者の健康状態を確認できないのかというと、必ずしもそうではありません。労働契約法第5条は、使用者に「労働者の生命・身体の安全を確保するために必要な配慮」を求めています。いわゆる安全配慮義務です。
したがって、危険物の取り扱いや高所作業、運転業務など、安全上のリスクが高い業務では、一定範囲で健康状態を確認することには合理性があります。
この場合に重要なのは、「病名を直接尋ねないこと」、「業務遂行能力に関する質問にとどめること」です。たとえば、「当社の業務では高温・高所での作業や危険物の取り扱いがありますが、安全に遂行できる健康状態ですか」といった形で質問すれば、病名に踏み込まず、業務上の適性を確認する合理的な質問となります。
また、「現在、業務に支障を及ぼすおそれのある疾病や体調上の制限はありますか」という聞き方も適切です。
採用面接の目的は「仕事ができるかどうか」を確認することであり、「どのような病気を持っているか」を知ることではありません。質問の仕方を工夫することで、法的リスクを避けつつ、安全管理上必要な情報を得ることができます。
採用面接でのシートの活用
ここまでの説明は、危険物を扱うなど事故リスクの高い職場を想定してきました。では、精神疾患があっても業務への支障が比較的小さい一般事務職などの場合はどうでしょうか。
昨今、メンタル不調に起因する労務問題が増加しており、さらに日本では解雇規制が厳しいため、採用後に健康問題を理由に解雇することは容易ではありません。
そのため、採用段階でメンタルヘルスを含む健康状態を把握しておきたいと考える企業の姿勢は理解できます。メンタル面の状況を把握することにより、応募者本人にとっても無理のない労務管理が可能になるというメリットも考えられます。
とはいえ、採用選考時に面と向かって、「通院している病院はありますか」とは聞きにくいものです。そのような場合には、「健康状態確認シート(仮称)」を利用する方法が有効と考えられます。書面を使用する際は、個人情報保護法の要請に基づき、「回答したくない場合は空欄で構いません」「採用選考および採用後の労務管理以外の目的では使用しません」「第三者に提供しません」といった注意書きを明記しておきます。その上で、次のような質問を設けることが考えられます。
過去1年以内に、精神疾患を含む健康上の理由により、業務の遂行に支障を及ぼすおそれのある症状や治療を受けたことがありますか。ある場合は、差し支えない範囲で具体的に記入してください。
目的は労務の提供に支障がないかを確認することに限られるため、最近1〜2年以内の状況を聞く程度にとどめるのが妥当です。
応募者が回答を空欄にした場合には、その理由を口頭で確認し、「健康情報を答えたくない」というのであれば、それ以上の追求は避けましょう。なお、企業には採用の自由が認められており、確認シートへの記載拒否も含め、最終的な採否は企業側に裁量があります。
採用後にシートの記載内容が事実と異なることが判明した場合、解雇できるかどうかは個別具体的な事情によって判断されます。書面の利用はあくまで判断の補助ツールとして位置づけ、慎重に運用することが求められます。
まとめ
採用時に精神疾患の有無を直接尋ねることは、差別につながるおそれがあり原則不適切です。ただし、安全配慮義務の観点からも、業務遂行に支障がないかを確認することは合理的といえます。病名ではなく「業務が安全にできるか」を問う工夫や、個人情報に配慮した「健康状態確認シート」のような書式の活用により、法的リスクを避けつつ、企業と労働者双方に安心できる採用が可能になると考えられます。
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