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無期転換回避の更新上限設定は有効か?

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無期転換回避の更新上限設定は有効か?

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第63回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

当社は新規事業に参入するために有期の契約社員を複数名募集する予定です。しかし、新規事業の将来は不透明なため、無期転換権が発生しないように、契約期間の更新上限を5年とすることを考えています。無期転換回避のために雇用契約期間の上限を設定することに問題はあるでしょうか?なお、社内には有能な契約社員まで一律5年で雇止めすることには慎重な意見もあります。その点、どのように考えれば良いでしょうか。

A

 同一の使用者との間で1年など雇用期間を決めて雇われた社員が、契約更新を重ねて通算5年を超えた場合、本人の申込みにより定年まで無期雇用に転換できる制度を「無期転換ルール」といいます。労働者が適法に無期転換の申込みをした場合、使用者はその申込みを承諾したものとみなされるので、申込みを拒んだり、承諾しないといった対応をとることはできません。不安定な雇用に悩む非正規社員を減らす狙いで労働契約法(以下、「労契法」)が改正され2013年4月に施行されました。契約期間の通算は法施行後に開始された雇用契約からなので、実際の無期転換が可能になったのは2018年からとなります。しかし、昨年行われた厚生労働省の調査では、実際に権利行使した者は約3割(注.5~29人の小企業では8.6%と中小企業の方が行使した割合が少ない傾向)、有期雇用社員の約4割は無期転換ルールそのものを知らないという実態があきらかになりました。

 

厚生労働省の報告書の概要について

 厚労省では昨年3月以降、無期転換ルールに関する見直し等を検討するため「多様化する労働契約のルールに関する検討会」を開催し、今年の3月に検討結果をまとめた報告書(以下、「報告書」)を公表しました。

 報告書の大半は、「無期転換ルールに関する見直しについて」、「多様な正社員の労働契約の明確化等について」の二つの部分で構成されていて、無期転換ルールについての検討は報告書の前半部分に詳述されています。

 報告書では無期転換ルールについて、「制度活用状況を踏まえると、導入目的である有期契約労働者の雇用の安定に一定の効果が見られる」としています。2018、2019年度の2年間に本制度で無期転換した労働者は約118万人と推計され雇用安定が一定程度図られるなど、現時点で無期転換ルールを根幹から見直さなければならないような大きな問題は生じていないとしています。

 その上で、「無期転換を希望する労働者の転換申込機会の確保」に関して、労使双方の本ルールに関する認知度については課題があり、更なる周知が必要としています。そして、無期転換申込権が発生する契約更新時には、使用者から個々の労働者に転換申込機会と無期転換後の労働条件について通知することを義務づけることが適当である等のいくつかの提言を行っています。

無期転換回避の更新上限設定は有効

 さて、報告書では当初無期転換ルール導入による雇止めの誘発が懸念されていたが「(雇用契約の)更新上限の導入は、無期転換ルール導入前と比べ今のところ大きく増加はしていない・・・」という記載があります。しかし、今回の相談者の会社のように有期雇用者に対し更新上限を設ける例も一定数見受けられます。すなわち、無期転換回避のために予め有期労働契約において、「更新の上限を5年とする。」「1年契約で更新回数は最大4回とする。」といった更新上限条項を設ける例です。

 このような更新上限の設定については、特に労働者側から、法律の趣旨を潜脱(=ある種の脱法行為)するもので、公序良俗に反して無効と主張されるケースがあります。しかし、実際の裁判では法(労契法18条)の趣旨は「有期契約の利用自体は許容しつつ、5年を超えたときに有期雇用契約を無期雇用契約へ移行させることで有期契約の濫用的利用を抑制し、もって労働者の雇用の安定を図る」点にあることから、使用者が5年を超えて労働者を雇用する意図がない場合に、当初から雇用上限を定めることが直ちに違法に当たるものではない(日本通運事件:東京地裁令和2年10月1日)などと労働者側の主張を退ける例が多い状況といえます。したがって更新上限条項を設定すること自体は有効と考えられます。

 

雇止め法理(労契法19条)の問題

 無期転換回避のための更新上限設定が適法といっても、実際に労働者を「雇止め」する際には労契法19条の雇止めの適否が問題になります。これは一般に「雇止め法理」と呼ばれ、簡単にいうと以下のいずれかに該当する場合には雇止めは認められないことになります。

(雇止め法理 - 労契法19条)
・契約更新が繰返されていて、雇止めが無期雇用者を解雇するのと社会通念上同一視できると認められる場合
・有期雇用労働者が「契約が更新されるだろう」と期待することに合理的な理由があると認められる場合

 上記に抵触しないためには、有期雇用者に対して最初に契約する際に自身の契約期間について上限があることをきちんと理解させておくことが重要になります。上限を超えた更新(雇用継続)について合理的期待が形成されないようにしておく必要があるのです。例えば更新上限を設定しても、実際の運用で上限を超えた取扱い(使用者の自由裁量で5年を超えた更新を個々に認めること等)を繰返し行っていれば、有期雇用者に合理的な更新期待が生じる可能性があるので、その点、会社は運用面で注意が必要になります。

 また、更新上限条項を定めずに雇用し、何度か更新が繰返された後に「これが最後の更新で、次回は更新しません。」といった内容の不更新条項を途中で挿入することも、上記の「雇止め法理」に抵触して無効とされる可能性が高いと言えます。したがって実務上、初回の契約締結時に更新上限条項を定めることが重要になります。

有能な契約社員の扱い(正社員登用への道)

 さて、更新上限を設けていても企業としては恣意的に例外的な扱いをすることは「雇止め法理」の観点でリスクがあることを上述しました。しかし、今回相談の会社でも更新上限設定に慎重論があるように、有期契約社員の中には、有能で正社員として継続的に働いて欲しいような人材がでることも十分想定されます。そこで企業としては、無期転換ルールとは別に企業独自の正社員登用の道を設定し実施することが考えられます。その場合には、客観的な試験制度を設けるなど有期雇用者の中から正社員へ登用する際の要件を明確にして実施することが求められます。

 無期転換ルール(労契法18法)が存在する以上、無期雇用者として採用してもよいと考える人材でなければ、企業がそのまま有期労働契約を5年を超えて更新することはリスクが大きいことになります。原則は5年以内の更新上限を設けた上で、例外的に、このような選別(正社員への登用など)を行うことは企業経営・人事政策の観点からも、許容され得る措置と考えられます。

 

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