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身元保証書の役割と民法改正に伴う見直し

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身元保証書の役割と民法改正に伴う見直し

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第48回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

当社は従業員を採用する際、身元保証書の提出を求めていますが、書式は以前作成したものを流用し続けていて内容や記載事項に変更はありません。この点に関し、ある社員から賠償の限度額の記載がない身元保証書は無効ではないかとの指摘を受けましたが、事実でしょうか? 

A

身元保証の目的は採用した社員の故意または重過失により将来、会社が損害を受けたとき、社員本人と保証人が連帯して賠償責任を負うものです。また、本人の経歴や社員としての適性に問題が無い人物であることを第三者に保証させるという、人物保証という役割もあります。昨年の民法改正により、ご質問にもあるように「身元保証書」の取扱いが一部変更になり、会社は再検討が必要になったので、その点も含め以下、解説します。

 

身元保証の有効期間と更新

 新入社員の採用時に「身元保証書」を提出させるか否かは会社の自由判断になりますが、身元保証人を立ててもらっている会社は多いのではないでしょうか。

 身元保証については、身元保証人が極端に不利な立場に立たされることがないように、「身元保証に関する法律(昭和8.4.1法律第42号)」(以下、身元保証法)が定められています。同法では身元保証契約の期間については5年以内(期限の記載がない場合は3年)と決められています。身元保証は、入社時の身元を保証するとともに、入社年数の浅い社員に対して、労務上起こるトラブルやリスクを回避することが主要な目的となっていると考えられます。そのため、契約更新しない場合も多いようですが、更新を行う場合は、身元保証人に当該社員の状況などを説明のうえ、意思確認をするための更新書、又はあらためて身元保証書を提出してもらう必要があります。

 身元保証書を提出させた場合、その後、社員が業務に適任でない場合や、業務上不適切又は不誠実な行動があって、身元保証人の責任が生じるおそれがあることが分かった場合などには、会社は身元保証人に速やかに通知する義務があります。身許保証人はそのような通知を受けた時点で将来に向って契約を解除することが可能です。

改正民法による極度額(保証限度額)の明記

 身元保証法に規定されていない事項は民法が適用されることになりますが、昨年、民法に大きな改正がありました。改正事項の一つとして、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって、保証人が法人でないもの(「個人根保証契約」といいます)について「極度額」(保証人が負担すべき額の上限)を書面または電磁的記録で明記することが義務づけられました(新民法465条の2,446条)。

 身近な例では、不動産賃貸借契約の個人保証等が対象になりますが、身元保証も事業主への損害保証を目的とするため、同法の適用があり、極度額(保証の限度額)を設けなければ、その保証は無効ということになってしまいます(なお、改正民法施行前の令和2年3月31日以前に締結された身元保証契約は、極度額の定めがなくても有効です)。

 そこで、明記する保証の限度額をどのように決めるのかが問題になります。具体的な金額を記載すべきと解されますが、あまり安すぎても実効性が乏しく、かといって金額が高額すぎれば、身元保証人が見つからないといった事態にもなりえます。悩ましい問題といえますが、本人の年収や業務内容、また身元保証期間等を考慮して慎重に金額を定めることが重要です。この際、「本人月給の○○カ月分」といった記載方法ではなく、具体的な金額(例えば300万円、等)を定めた方が無難です。

 さらに、身元保証を根拠に会社が損害賠償を請求するような事態になった場合、身許保証人が負うべき負担額は、「会社の過失の有無」「身元保証をするに至った経緯」などの諸事情を鑑み判断することとされており(身元保証法)、実損額の一部(2,3割程度)に減額されるケースも多いので、会社は身許保証人による賠償に過度に期待しないようにすることが大切です。

人物保証の役割と保証人の条件

 身元保証には社員が会社に損害を与えた場合の損害賠償をすること以外に、保証人が「社員本人は精神的にも身体的にも健康で、また、社会的にも責任感・協調性がある。」と人物を保証する意義があります。

 新卒者や若年者などに対しては社会人としての自覚と注意喚起の意味で身元保証書を提出させることには一定の意味があると考えられます。また、近年増加傾向にある精神疾患対応においても役立つ場合があるといえます。入社間もない従業員が精神疾患を発症した場合、近親者と冷静に話し合う場を確保することが重要ですが、両親以外の身元保証人がいれば、その保証人との話合いを持つことで、休職や退職などの話合いが円滑に進む可能性があります。

 以上のような観点から、「保証人は経済的に独立した者で、会社が適当と認めた者2名とする。この場合、1名は父母兄弟などの近親者とする。」といった条件を付すのが適切と考えられます。

 以上、身元保証について解説してきましたが、少子化や核家族化などで親戚づきあいが疎遠になる人も多いなかで、身元保証人を不要とする企業も増えつつあるようです。従来は頼まれてなんとなく身元保証書にサインしていた人も、今後は具体的な限度額を目にすることになり、サインを躊躇する人が増えることが予想され、身許保証人探しはますます難しくなると考えられます。

 民法改正を契機に、企業側も身元保証書の提出の必要性、内容、運用について再考する必要がありそうです。

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