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新型コロナウイルス感染症と就業の禁止

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新型コロナウイルス感染症と就業の禁止

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第32回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

新型コロナウイルスの感染が拡大しています。社員が、感染した場合の出勤停止、また感染の疑いで社員が自主的に休んだり、会社が出勤を禁止するような場合、社員への賃金支払いルールについて教えて下さい。

A

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が世界で拡大していて、終息までには長期化が懸念される状況です。そこで、社員が新型コロナに罹患したり、その恐れがあると判明した際の企業の対応と賃金の扱いについて、要点を解説します。

就業規則と法令による就業禁止

 多くの就業規則では、社員が伝染病にかかった際などのために「就業禁止」の規定が定められています。これは「伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない。」という労働安全衛生法68条(病者の就業禁止)を根拠として規定している場合が多いと思います。

 実は、安衛法が対象とする感染症は「結核」を想定していて、今回の新型コロナは同法の就業禁止の対象にはあたりません。一方、感染症法18条2項は、一定の感染症(1類から3類)について、都道府県知事の就業制限により、その患者を一定の業務に就かせることを禁止しています。

 今回の新型コロナは、感染症法上の指定感染症(第2類)に指定されたので、同法を根拠に会社は社員への就業禁止を指示することになります。第2類とは感染力や危険性の度合が上から2番目(SARS やMERSと同等)にあたり、症状のある人に対して保健所による入院勧告や就業制限が強制的に行われます。

ノーワーク・ノーペイ原則とその例外

 社員が会社を休んだり、会社が社員を休ませる場合、「ノーワーク・ノーペイ(働かなければ、賃金はもらえない)原則」により賃金の支払い義務は原則として生じません。しかし、例外的に「年次有給休暇(労基法39条)」は有給である必要があり、また「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合には、平均賃金の60%以上の「休業手当」を支払わなければならない(労基法26条)」と定められています。ここで、「使用者の責に帰すべき事由」の解釈が問題になりますが、「不可抗力(=人の力ではどうにもならないこと)」によるものは会社の責に帰すべき事由にはあたらず、休業手当の支給対象にならないと解されます。
 それでは、いくつかのケースで考えてみましょう。

ケース1:社員が新型コロナに感染したため、就業禁止とする場合

 新型コロナに感染していて、都道府県知事が行う就業制限により社員を休ませる場合は、「不可抗力」と認められ、会社に責任は及ばないので休業手当を支払う必要はありません。
 この場合、通常は健康保険の傷病手当金の支給対象になります。すなわち、療養のために労務に服することが出来なくなった日から起算して3日経過した日(最初の3日間は社員の請求で年次有給休暇を使うことも可)から、標準報酬日額の3分の2が保険給付として支払われます。

ケース2:感染が疑われる社員を休業させる場合

 本人に発熱や咳などのかぜの症状があり感染が疑われる場合です。最寄りの保健所等にある「帰国者・接触者相談センター」へ相談するなどして、その指示にしたがって感染の可能性があるのであれば、社員自身の判断で会社を休んでもらうのがベターです。その場合は、通常の体調不良による病気欠勤と同様に、会社に賃金支払いの義務は生じないと考えられます。もちろん、有給休暇が残っていれば、社員の自主的な請求により有給で処理することになります。

 一方、感染が疑われる状況でも本人が出社する意向を示したり、家族に感染者が出るなどで感染リスクがある場合はどうでしょう。この際、会社の自主的判断によって社員を自宅待機させるといった措置をする場合には、「不可抗力」とまではいえず、一般的には「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当し、会社は休業手当を支払う必要があると考えられます。

ケース3:新型コロナにより事業の休止などを余儀なくされ、やむを得ず休業とする場合

 まず考えられるのは、新型コロナ拡大の影響によりで事業の状況が悪化し、に陥り従業員を休ませざるを得なくなったような場合です。このような場合は、一般的には「不可抗力」とは認められず、休業手当ての支払いが必要になります(→後述の、「雇用調整助成金」参照)。
 一方、例えば、感染者が発生したこと等により、事業場の一時閉鎖を余儀なくされた場合、また、海外の取引先が新型コロナのため事業を休止したことにより事業を休止せざるを得ない場合などは、状況によっては「不可抗力」が認められる場合があると考えられます。その場合には、休業手当の支払い義務はないことになりますが、労使がよく話し合って労働者の不利益をできるだけ回避する方策を検討することが求められます。

雇用調整助成金について

 景気の悪化などで従業員を一時的に休ませる企業に休業手当の一部を補助する助成金制度です。2008年のリーマン・ショック時に経済危機の安全網として機能しました。財源は雇用保険のうち、企業のみが保険料を負担する「雇用保険2事業」からで、2009年度の支給額は6千億円を超えました。
 今回、政府は新型コロナ感染拡大を受け、影響を受ける企業向けに支給要件を緩めました。

支給要件	最近3カ月(新型コロナ肺炎の場合1カ月)の売上高などが前年同期比10%以上減少
休業手当に対する助成額
(上限は日額8330円/人・日)	2分の1	3分の2
●緊急対応期間(4月1日~6月30日)の特例(以下、主な内容)
・対象:新型コロナの影響を受ける事業主(全業種)
・支給要件(生産指標)緩和:1カ月5%以上の売上げ高(対前年同月)などの低下
・助成率:大企業2/3、中小企業4/5(解雇等を行わない場合、大企業3/4、中小企業9/10)
・対象者:被保険者期間(通常6カ月以上)の要件を撤廃(1/24~7/23)。また雇用保険被保険者だけでなくその他の労働者の休業も助成金の対象に含める
・計画届:事後提出を認める(1/24~6/30まで)

 近年は雇用情勢の改善から給付が減っていて、積立金は1.3兆円を超え過去最高水準にあるようです。今回の新型コロナ感染拡大の影響で景気の悪化が長引くことが予想され、社員の雇用を守るために、雇用調整助成金を活用する機会が増えるものと考えられます。

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