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徹底した話し合い(上)

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徹底した話し合い(上)

加藤裕治先生のプロフィールはこちら

第7回 労使はこうしてトヨタをつくりあげた

ストなしは弱腰か

 前回までで、トヨタの労使関係の第2の原点は「労使宣言」であると書いた。

 労働組合はこの労使宣言に盛り込まれた基本理念のうち、最も重要な労使の行動憲章は、「労使相互信頼」と「車の両輪(労使が協力して得られた成果を分配するにあたっては、労使それぞれに対し、常に車の両輪の如く、バランスよく分配されなければならない)」であるとして、これを語り継ぎ、絶対に変えてはいけない普遍的理念として大切にしてきた。

 とりわけ「車の両輪」を実現するための「労使相互信頼」は極めて深遠な理念であると、私は考えている。多くの先輩方からも、くどいほどそれを言い聞かされてきた。

 「労使相互信頼」は単純な「労使協調」とは違う。その違いは本項だけでは書き尽くせないと思うが、シリーズ全体を読み終えていただければそれを分かってもらえると思う。

 そのキーワードは、互いの切磋琢磨であり、相手に先んじて目標を具現化する力であり、相手に厄介な存在と思わせる見識であり、それを共有するために「徹底的に」「話し合う」ことである。

 徹底した話し合いを突き詰めていくと、それはストライキよりも強い力を発揮する。
 ストライキは労働組合最大の武器ではあるが、やりすぎれば業績を低下させ、場合によると会社を潰してしまう。また、賃上げのための闘争戦術として毎年ストを構えると、予定調和(年中行事)になりやすい。

 そうすると会社にとっては便利な「撒き餌」と化し、組合にとってはうまい「ガス抜き装置」と化す。私はストライキが重火器として威力を発揮できるのは、会社が業績悪化を理由に、役員の報酬を削ったり、首を差し出すこともなく、組合に人員削減を持ちかけたような時に限ると思っている。

 安易な妥協も、ガス抜きも許さない「徹底的な話し合い」ができれば、スト以上に会社に脅威を感じさせることができる。

 徹底した話し合いで組合員の信頼を得ることは、執行部にとっては、組合員を巻きこんでストライキを打ち抜くことより、知力・胆力を必要とするものなのだ。それは鉄砲や爆弾だけでは平和を築けないのと似ている。

トヨタ流問題解決法

 トヨタ生産方式を支える最も大切な道具として「カイゼン」がある。そして、カイゼンの実践手法の一つに「問題解決手法」がある。

 トヨタ生産方式の重要原則は、ジャストインタイム(必要なものを必要な時に必要なだけ供給する。従って余分な在庫は持たない)であることはよく知られている。

 そのために必要な、個々人の、あるいは各協力会社の心構えは、後工程(あとこうてい)に、問題や不良品を流さないということである。

 それを可能にするためには、不良はもちろん不良の出る兆候を見つけたら、その原因を徹底解明して二度と不良を出さない姿勢が重要になる。その不良の原因解明をし、二度と再発させないために、本当の原因(真因)を見つけ出して対策を打つのが、問題解決手法である。

 これは、言葉で言えば難しくないように思える。しかし、トヨタの問題解決手法は、真因解明に、半端なやり方を許さない。
 具体的には、起きた現象に「なぜ?」を最低5回は繰り返して真因まで迫れ、というものだ。1~2回の「なぜ」で行きついた原因を見つけ、小手先の対策で済ませることは許さない。

 大野氏が、現場を回り、不具合原因を考えている作業者に、真因が分かるまでこの〇の中で考えろ、とチョークで床に円を書いたというエピソードは、その厳しい姿勢を一人ひとりにわかるまで叩き込もうという姿勢だった。

「なぜ?」を5回

 「なぜ?」を5回とは具体的にどういうことだろう。
 例えば部品切削ラインで、コンベアにある部品が引っかかって、ライン停止を起こした場合を想定してみる。引っかかった部品を手で元に戻してやれば、また動き出すが、このような対応はまず論外で、絶対にやってはいけない。

 作業者がよく見てみたら部品が乗るコンベアの壁に微妙な凹凸が見つかった。この部分に部品が引っかかることであとから流れる部品が滞留し、流れを止めていたとする。

 自動ラインが止まった時「なぜ?」を一度究明(①)するだけで原因解明すれば、コンベアの凹凸を滑らかに修正し、部品が倒れないようにすれば解決する。しかし、実はそれでは足りないのだ。

 コンベアの凹凸は「なぜできたか?」同様の隣のラインではどうか?(②)を見なければいけない。仮に自分のラインだけなら偶発かもしれないが、隣でも同様の現象があれば、コンベアの製造工程に問題があるかもしれない。

 コンベアの製造工程でどんな問題があったのか(③)?これを究明してみると、コンベアを構成する部材が温度変化でゆがみやすい部材だったことが分かったとする。ここで次の「なぜ?」が必要になる。

 なぜ設計者はコンベアにそのような部材を使ったか(④)?コンベアに起こるはずの温度変化を想定してなかったからだ。

 なぜ、温度変化を想定しなかったのか(⑤)?それは、その設計部署に、現場での使われ方がフィードバックされてなかったからだ。だから、温度変化を軽視し、温度変化の大きな部材を使っていた。

 ここまででおおよそ5回のなぜ?が繰り返されている。ここまで繰り返すと、真の原因に行きつき、二度と同じ不具合を生じることがなくなる。

 トヨタの問題解決手法は、そのように突き詰めた「なぜ?」の繰り返しを要求する。これを新人のころから徹底的に叩き込まれる。
 機械に不具合はつきものだ。不具合があれば止まる。止めてもいい。その代わり止まった真因を解明し、再発防止をし、うまく行けば、それで効率を上げ、生産性を上げていく。

 そこにトヨタの「カイゼン」の真骨頂がある。
 「転んでも只で起きてはいけない」のだ。

全社で実践する「カイゼン」

 このような問題解決手法は現場の事例に例えるとわかりやすいが、トヨタでは事務技術のスタッフでも、新人のころから教育の場でその実践を研修する。
 事務系でこれをやると、結構戸惑う。まず、日ごろの自分の仕事の中でなにか問題を見つけることから始まる。

 新人にとって、そもそも仕事上での問題点を見つけることからして難しい。それでも、チューター(トヨタではこのチューターも教育を受ける対象者の5~6年上の者が勤める)が「まあ、こんなものかな」というくらいの問題点を探し、真因解明を試みる。

 本人が考え出した問題点なので大抵、なぜを1~2回問うてみるだけに終わり、「自分の根まわしが悪かった」か「上司の指示が悪かった」に行きつきやすい。しかし、それでは明らかに対症療法でしかない。

 そこで、無理やりさらに「なぜ」を繰り返すことになる。そうすると、思いもかけず、関連部署の問題点に行きつくことも多い。

 その時その解決をためらってはいけない。自分が解明した真因に自信を持って関連部署を説得しなければ真因は解消されないし、放っておけば、その問題が会社の命取りになることだってあり得るからだ。トヨタ流問題解決手法は事務、技術部門に対しても、常に妥協を許さない姿勢を要求するのである。

やっかいな仲間たち

 トヨタの問題解決手法を徹底的に叩き込まれた「カイゼン」の思考方法が身についている者が話し合うと、勢い、簡単には妥協が許されない。労働組合は方針決定のときも、解決案を提示するときも、この厄介ともいえる哲学者たちを納得させるプロセスが否応なく要求されることになる。

 労働組合は民主主義を実践しなければ存在価値はないが、トヨタ労組は同時に、トヨタ式の思考をもつ組合役員、職場委員と常に向き合うのだから、「コンセンサス」作りには大変な苦労をすることになる。

 (「徹底した話し合い(下)」は、8月9日(火)掲載予定です。)

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