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 第1回 労使はこうしてトヨタをつくりあげた 

トヨタの「経営哲学」

 トヨタ自動車といえば、昨今、日本のみならず世界で知らない人は居ない。
 その経営方針は「安くて良い車づくりを通して社会に貢献する」であり、それは創業以来変わっていない。

 とりわけ、1997年に初のハイブリット車として世に送り出した「プリウス」が、2015年の4代目プリウスではリッター37.2キロメートルを記録し、エコカーの代名詞となった一方、最近では2兆円を超す利益も「トヨタなら」と受け止められ、名実ともに世界を代表する企業となった。

 また、人材面でも、奥田元会長が小泉政権で経済財政諮問会議の委員として活躍したことを始め、多くの公益企業に人材を輩出し続け、また愛知万博や2020年の東京五輪でもメインスポンサーとなるなど、企業の社会貢献度でも高い評価を受けている。

 「『尊敬される会社』と言われたい」と奥田元会長が口にしていた願望が、今や現実になったといってよい。
 しかし、創業79年を迎えるトヨタがはじめからそのように社会から高評価を受ける会社であったわけではない。

 高度成長期には、トヨタを表するにあたり、三河モンロー主義、かんばん方式で下請け企業いじめ、乾いたタオルを絞るが如く社員を酷使する会社、財界活動を嫌うなど...愛知県を中心に一極集中での効率経営路線をひた走っていたトヨタ自動車(工業)を揶揄する形容詞が目立っていた。

 確かにそういわれても仕方のない面もあった。
 しかし、今では、それらは一種の誤解であったかもしれないと思ってもらえる会社になった。
 では、トヨタの経営哲学が最近になって変わったのかといえば、そんなことは決してないと断言できる。

 現在の評価は、トヨタが外向きには「社会貢献」といってきた経営方針の底流に、「『一人の首切りも出さない』『社員の雇用と生活を守る』『自分の城は自分で守る』それこそが真の『社会貢献』だ」という創業者豊田喜一郎の思いを歴代労使が大切にし、守り抜いてきた結果、頂けるようになったのだと考えている。

労組役員から弁護士へ

 私は、今は弁護士をしているが、弁護士になったのは2012年であり、その2年前まではトヨタ自動車の社員として37年間勤め、定年の60歳まで在籍していた。
 もっとも、トヨタの社員であったといってもそれは籍だけで、37年のうち29年間は労働組合役員として専従していた。

 入社後法務関係の部に8年間属し、その後労働組合専従となり、トヨタ労組で書記長を務めた後、産業別組合である自動車総連の会長職を7年間、ナショナルセンター連合の副会長などを7年間勤めた。

 それらすべての役職を56歳で退いたわけだが、思うところがあって、弁護士を目指した(この経過については、平成25年に法学書院の勧めで出版した「56歳からの挑戦」に詳しく書いている)。役職退任後、名古屋市にある名城大学法科大学院に夜間通学し、ちょうど60歳の定年を迎えた翌年、司法試験に合格、2013年12月に愛知県弁護士会に登録した。

 私は、労働組合役員としてのキャリアを終えなければならないと考え始めたころからトヨタの労使関係の歴史を、それも、労働組合の中にいた人間でなければ分からない秘話も含め、いつかまとめてみたいと考えていた。なぜかというと、戦後、欧米に遅れること30年にして乗用車の生産をやっと始めたトヨタが今日の世界的大企業にまで成功できた要因の一つには、間違いなく、トヨタ独特の労使関係(単純な「労使協調」ではない)があったと考えているからである。

 それを記すことは、育ててくれたトヨタ労使への恩返しになるであろうし、あるべき労使関係をどのようにして作り上げていけばよいのか、労使それぞれの立場で日々葛藤し続けている多くの方々に、必ず何らかの示唆を与えることができると考えるからである。
 そしてそれは、ひいては、ものづくり日本が今後も世界をリードしていくために少しでも貢献できる仕事になるであろうと考えるからでもある。

トヨタの労使関係

 自動車は4万点近い部品でくみ上げられていく。その製造に携わる何十万という人間の一人でも、気を抜き、問題のある製品を見過ごすとか工程のミスを隠したりして出来上がった自動車が市場に流れてしまったら、その自動車会社への信頼はたちどころに失われるであろう。

 反対に彼らが、高いモチベーションを維持し、自分の仕事に誇りを持ち、信頼性のある製品を作る責任感と、日々仕事の効率を高める努力を惜しまず頑張り続けたならば、そこから作り出される自動車は必ずや、ユーザーの信頼を勝ち取れるだろうし、企業も発展し続けることが可能になる。

 ではそのように高いモチベーションをどうしたら社員全員が持ち、それを維持し日々高めていけるのか。
 それは、経営者、労働組合役員の誰もが知りたいノウハウだろう。
 トヨタ労使の歴史は、それを目指し、厳しく切磋琢磨し、歩み続けた歴史だったといえる。

 会社組織は業務にかかわる指示やそれにかかわる考え方を効率的に末端の社員にまで浸透させる仕組みである。しかし、「仕事に対し常に高いモチベーションを持て」ということは、業務命令だけでは浸透しないものだ。精神論などというものはトップダウンで繰り返すだけでは反発されるだけである。

 ではどうすればよいか。
 私はそこに、企業内労働組合の重要な役割、存在意義があると考えている。
 何故なら企業内労働組合は、自分たちが人生を預けている会社のカウンターパートとして、一人ひとりが会社運営に堂々と口を出せる、自主自立かつ唯一の全員参加組織だからである。

 世の中には、会社発展のために貢献することをいとわないトヨタ労組を見て、「御用組合だ」という人もいる。しかし、ただの御用組合であったら、トヨタは戦後、何度もあった危機を乗り越え、今日を築くことはできなかったと思う。
 そこには、昭和25年の大争議以降、単純な労使協調ではない「相互信頼」という、得も言われぬ、互いの内に向けた厳しい規律を課し、ひたすら切磋琢磨してきた労使の勤勉な努力があったのである。

 一言では語れない、その「トヨタウェイ」ともいうべき道のり、それは今現在も進行中であるが、それを語れる一人の語り部として次回以下に書いていこうと思う。

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