スポットワークの仕組みと利用時の注意事項

第98回ホワイト企業の人事労務ワンポイント解説
Q
当社は飲食業を営んでいますが、近年は人手不足に悩まされています。ピーク時間帯の補助要員として、ホールスタッフ(配膳、片付け等)を「スポットワーク」を活用して募集できないかと思案しています。
スポットワークとはどのような仕組みか、また利用する際の留意点などについてご教示ください。
A
近年、「スキマバイト」とも呼ばれるスポットワークという働き方が急速に普及しています。法令上の定義はありませんが、単発・短時間の仕事について、スマートフォンアプリを通じて求人企業と求職者をマッチングさせる仕組みです。普及の背景には、人手不足の深刻化、多様化する就業ニーズ、デジタル技術の進化があります。
使用者にとっては、繁忙期の人手不足や急なシフトの欠員補充に対応できるうえ、スポットワーク仲介事業者による募集や賃金支払い代行などの支援が受けられ、労務管理の負担を軽減できる利点があります。
一方で、トラブルも発生しており、厚生労働省はスポットワークで働く労働者からの相談(賃金不払、求人内容と実際の労働条件の相違、等)が増加していることからリーフレットを作成し、雇用仲介事業者が加入する団体などを通じて周知を図っています。
スポットワーク(スキマバイト)の仕組み
スポットワーカーを募集する際、企業はスポットワーク仲介事業者(タイミー、シェアフル、等々)を利用するケースが多いと思いますが、その場合、原則として事業主とスポットワーカーが直接労働契約を締結する形態になります(下図)。
事業主の中には「お願いしてきてもらっているだけ」という意識で、「派遣」なのではと考えている人もいますが、派遣の場合は30日以下の日雇い派遣は原則禁止されています(60歳以上の者、ソフト開発など例外業務等あり)。したがって、原則として派遣ではなく直接雇用契約となり、労働基準法などを守る義務は、労働契約を締結した事業主が負うことになります。
労働契約の成立時期についての認識も重要です。厚生労働省は事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募し、面接などを経ることなく先着順で就労が決まる場合、「別途特段の合意がなければ、スポットワーカーが応募した時点で労使双方の合意があったものとして労働契約が成立するものと考えられる。」との見解を示しています。これまでは「働き手がQRコードを読み込んだ時点」で労働契約が成立するとし、応募(マッチング)後に企業側が保障なくキャンセルする事例も頻発していました。今後は、労働契約の成立時期がより厳格に判断される可能性があります。
労働契約が成立すれば、日雇労働であっても就業場所、業務内容、就業時間など法定事項を記載した「労働条件通知書」の明示が必要になり、その後の契約内容の一方的な変更はできないことになります。
賃金・労働時間に関する注意点等
労働契約成立後、事業主の都合で仕事の中止や早上がりをさせることになった場合、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」となり、休業手当の支払いが必要になります。休業手当は平均賃金の6割とされていますが、事業主自身の故意、過失等により労働者を休業させることになった場合は、賃金の全額を支払うものとされている(民法第536条2項)ので、この点にも注意が必要です。
労働時間の把握も重要です。業務に必要な準備行為(制服への着替えなど)や業務終了後の業務に関連した必要な後始末(掃除等)なども労働時間として取り扱う必要があります。また、事業主の指示により待機が生じた時間も労働時間に該当し、賃金の支払いが必要です。
予定していた労働時間が延長されるなどしてスポットワーカーから労働時間の修正申請がなされた場合、事業主はこれを確認し、正しい労働時間を確定させる必要があります。
スポットワーカーへの賃金の支払いについては、雇用仲介事業者が、使用者に代わって賃金を支払う運用が一般的に採られています。このような支払いは、「賃金の直接払いの原則」に違反するのではないかという疑問が生じますが、この点に関して厚生労働省は、「労働者に賃金が支払われるまで使用者の賃金支払い義務が消滅せず、所定支払期日に賃金の全額がきちんと支払われる運用であれば直接払いの原則に違反しない」との見解を示しています。使用者としては利用する雇用仲介業者の構築する賃金支払い等のシステムが、きちんと運用されていることを確認する必要があります。
その他の注意事項等
スポットワークであっても、労働者である以上、労災保険が適用されます。業務上はもちろん、通勤途上におけるケガ等が発生した場合には、常勤の労働者と同様に適切に処理する必要があります。
労働災害防止のための安全衛生教育も重要です。スポットワーカーは従事する業務内容に習熟しておらず、短期の就労だからといって安全衛生教育を怠れば、事故や災害につながる恐れがあるため、軽視することは許されません。
また、スポットワーカーに対するハラスメント防止のため、法令に基づく各種措置(相談窓口や行為者に対する措置内容の周知等)を講じる必要があります。
雇用保険に関しては、短期就労のため原則として加入させる必要はありませんが、「雇用期間が31日以上である場合」「連続する2ヶ月間に各月18日以上雇用されたとき」、等には雇用保険の適用対象になります。
スポットワーカーに適用する就業規則についてはパートタイマー有期雇用者向けの就業規則を適用し、短期契約期間の特殊性から不要な部分があれば除外などすると良いでしょう。
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