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最低賃金制度と10月からの改定について

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最低賃金制度と10月からの改定について

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第74回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

 最低賃金が10月から大幅に引上げられましたが、中小企業の経営者としては人件費の増大に苦慮しています。
 最低賃金制度の必要性や目的などについて教えてください。

A

 「最低賃金」とは、これを下回る賃金は法的に許されないという最低限度の賃金です。日本の最低賃金は、最低賃金法(以下、「最賃法」)に基づき設定されます。
 2023年度の最低賃金は全国の加重平均で1時間あたり1,004円と、政府が目指してきた1,000円を初めて超えることになりました。昨年から続く物価上昇の影響もあり、昨年度から43円高い過去最大の引上げ(引上げ率は4.5%)となります。
 地域格差は、今回最も高い東京都(1,113円)と最も低い岩手県(893円)とで220円の差がありますが、岩手は東京の80.2%と初めて8割の水準を超えました。
 今回の引上げは働き手の生活を支援する上で大きな引上げになりましたが、経営体力が相対的に弱い中小企業にとっては厳しいという声も聞かれます。

最低賃金法とは? その目的と内容

 最賃法は労働基準法28条以下にあった最低賃金の規定から独立して昭和34年に制定されました(その後、昭和43年、平成19年に大幅に改正)。法律の目的は、『賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする(第1条)』とあります。

 「賃金の低廉な労働者」とあるように、多くの正社員にとっては、最低賃金を意識して働いている会社員は少ないと思います。最低賃金が影響してくるのは、主に非正規社員であるパートやアルバイトの人達ということになります。しかし、最低賃金が引上げられることで、正社員の給与を含め、労働市場全体に影響が及ぶので問題は複雑です。

 最低賃金は、都道府県別に時給で表示される「地域別最低賃金」が毎年改定されます。冒頭で、最低賃金を下回る賃金は許されないと書きましたが、法的に厳密に言うと、最低賃金を下回る賃金を定めても、その労働契約の部分は無効となり、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされることになります(最賃法4条2項)。また、地域別最低賃金の規定に違反した者は50万円以下の罰金に処せられます。

 最低賃金の決め方ですが、厚生労働省内に中央最低賃金審議会が設置され、毎年7~8月頃に改定額の目安が示され公表されます。そして、都道府県毎の地方最低賃金審議会によって審議され、10月頃に各都道府県労働局長により決定・実施されます(下図)。

【最低賃金改定実施までの流れ】
・中央最低賃金審議会:最低賃金引上げ額の目安を決定(7~8月)
・地方最低賃金審議会:地域における賃金実態調査や参考人の意見等を踏まえ調査審議し答申をおこなう
・各都道府県労働局長:地域別最低賃金額を決定・実施(10月)

 今年の特徴は国の審議会が示した目安に対し各地方の審議会が上乗せするケースが広がった点です。物価高や人手不足が賃上げ圧力になり、佐賀が8円、山形、鳥取、島根が7円、青森、長崎、大分、熊本が6円などと大幅な目安額からの上乗せとなりました。

 なお、最低賃金には補足的な特別制度として「特定最低賃金」もあります。これは地域別最低賃金を上回る、産業別最低賃金で、全国で200件以上設定されていますが地域別最低賃金の水準を下回り、効力を失っているものもあります。

最低賃金で対象になる賃金

 最低賃金の対象になるのは通常の労働に対して支払われる賃金となります。すなわち、基本給など以下で○とした部分で、×は計算の対象になりません。

○基本給と(以下を除く)諸手当
×諸手当のうち通勤手当、家族手当、精皆勤手当
×賞与や臨時の賃金(例:結婚祝い金など)
×時間外手当、休日手当、深夜割増等

 最低賃金は時給で示されます。実際に支払われている賃金が最低賃金以上になっていることを時間換算して、確認する必要があります。通勤、家族、皆勤手当等を除き月給17万円で働く人を例に考えてみましょう。

例: 月給額 170,000円(通勤、家族、皆勤手当等を除く)
年間所定労働日数 240日 1日の所定労働時間 8時間

●時間額=月給÷(1カ月の平均所定労働時間数)=170,000円÷(8時間×240日÷12月)= 1062.5円 /時間 

※上記例の場合、10月以降、東京(1113円)、神奈川(1112円)、大阪(1064円)の事業場では最低賃金を下回るため法違反となります。

最低賃金の役割と課題

 理論的には、賃金額の決定は労使間での自由な取引(契約の自由)に委ねるのが原則のはずです。しかし、労働契約においては、使用者の方が優越的地位に立つ場合が多く、賃金について何の規制もなければ、使用者が賃金をどんどん引下げていくリスクがあります。

 したがって、欧米などの海外主要国においてもセイフティ・ネットとしての最賃法(又は、労働協約など最賃法と同様の役割を持つ制度)は存在します。

 今回、日本の最低賃金が平均1000円を超えたと言っても、週40時間働いて年収200万円程度であり、欧州主要国の最低賃金の6~7割程度の水準に留まると言われています。労働力不足が懸念される我が国において、外国人労働者を日本に呼び込むためにも、海外との差を縮めていくことが必要とされています。

 一方で、経営基盤の弱い中小企業においては最低賃金の引上げは経営を圧迫する要因になります。中小企業の生産性向上や成長分野への移行が重要といえます。

 雇用への影響も懸念されます。最低賃金が引き上げられた結果、非正規労働者の雇用を抑制する動きにつながり、失業率が高まる恐れがあります。

 また、給与が一定額を超えると社会保険料が天引きされて手取りが減る「年収の壁」は、最低賃金の引上げで特に女性パートの就業調整を招き、人手不足に拍車をかけるという問題も指摘されています。

 誰もが安心して生活できる賃金にするためには、最低賃金制度を含め、様々な角度からの検討が必要になると言えるでしょう。

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