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最高裁判決と同一労働同一賃金への対応方法

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最高裁判決と同一労働同一賃金への対応方法

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第41回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

当社は建設機械用の部品製造・販売を行う中小企業です。従業員は約80名で、そのうち約10名は契約社員、また数名のパート社員がいます。非正規社員には正社員には支給がある精勤手当、住宅手当、扶養手当や有給の夏期休暇はなく、賞与や退職金も支払っていません。正社員に比べ、仕事の難易度や責任に大きな差がない場合もあり、非正規社員の中には現在の待遇格差に不満を持っている社員もいるようです。会社として、今後どのような対応を考えていくべきでしょうか。

A

パートや有期契約社員など非正規で働く人と正社員の間で不合理な格差を禁じる「同一労働同一賃金」のルールがパート・有期労働法などに盛り込まれました。大企業では2020年4月から適用が始まり、本年(2021年)4月からは中小企業にも適用が広がります。正規・非正規の間で、業務の内容や責任、また転勤・異動の有無が同じであれば均等の待遇が求められ、違いがある場合には違いに応じた均衡のとれた待遇が求められ不合理と認められる差異は禁止されます。昨年10月、同一労働同一賃金を巡る最高裁判決が示されたので、その点を含めて、この問題を検討してみましょう。

 

最高裁判決(2020年10月)について

 最高裁は昨年10月に、計5件の訴訟について以下の判断を示しました。

 日本郵便の正社員と契約社員との待遇格差が争われた訴訟では手当や休暇について「与えられないのは不合理」と判断しました。契約社員は契約更新を繰返していて継続勤務が見込まれることもあり、手当ての支給や休暇付与に差を付ける理由が認められませんでした。
 一方、大阪医科薬科大学に元アルバイト職員が賞与の支給を求めた訴訟では、正社員との「仕事内容の違い」に注目し支給しないのが不合理とまでは言えないとの判決が出ました。賞与支給の目的は人材育成と人材の確保・定着等を目的としていたと指摘し大学側に一定の裁量を認めました。
 また、退職金の支給を争った東京メトロ子会社のケースも、仕事内容や配置転換の有無などを正職員と比較して、不支給は不合理ではないとしました。

同一労働同一賃金への見直しの考え方

 今回の最高裁の判決は以上ですが、個々のケース毎に客観的な仕事の違い、各企業の人事制度での位置づけなど個別事情に基づいて判断がなされていて一般化できるシンプルな指標が示されたわけではない点には留意すべきです。
 その上で、諸手当の格差については今回を含めかなりの裁判例が蓄積されてきていて、職務内容との関連性が乏しい手当は「生活保障を目的としたもの」とみなされ、正規と非正規間の格差は基本的に不合理と認定される例がほとんどと言えます。
 休暇制度のような福利厚生的な待遇についても厚労省のガイドラインでは原則として同一の付与をすべきとしていて、今回の日本郵便訴訟でも有給の病気休暇、夏期冬期休暇について、そのような判断がなされました。

 以上のような状況を勘案すると、貴社における契約社員やパート社員が相応に継続的な雇用が見込まれる場合、諸手当(精勤、住宅、扶養など)や夏期休暇(有給)の格差については見直しの検討が必要と言えるのではないでしょうか。
 一方で賞与や退職金の格差については裁判例が十分蓄積されているとは言い難い状況です。賞与や退職金には複合的な性格がありますが、長期にわたる勤続と職務能力の向上を促す役割を期待して支給する会社も多いと考えます。非正規には支給しないのであれば、貴社における賞与や退職金の性質や目的を明確にし、単にその期間に就労していること自体に対する対価と言われないようにしておく必要がありそうです。

具体的な対応策

 「同一労働同一賃金」では待遇に差がある場合、事業主はその理由の説明責任を負います(パート・有期労働法14条)。貴社での対応においても「明確な違いを説明できるか」という視点で今後の対応を検討することが望ましいと言えるでしょう。
 待遇を揃えざるを得ないと判断される場合、非正規社員の待遇アップを図ることが最もすっきりとしていて非正規社員の理解も得やすい方法です。しかし、その分費用がかさみ経営判断として簡単には実施できないことが想定されます。
 その場合、正社員の手当を一方的に削減するような調整は、合理性のない労働条件の不利益変更になる可能性があり認められません(労働契約法10条)。そこで、正社員に付与している諸手当の相当額を基本給に組込んで手当自体を廃止してしまう方法が考えられます。その場合は基本給の格差の不合理性を招かない範囲で行う必要があるので、賃金体系の見直し・再構築は労使の話合いなどを含め慎重に行うことが大切です。

 賞与や退職金の扱いは多様な要素がからみ経営裁量の余地も大きく難しい判断となります。しかし、貴社では正社員と仕事の難易度や責任に大きな違いがない社員もいるとのことですから、中長期的な勤続が見込まれスキルアップの向上を期待する非正規社員には一定の支給をする方向で検討することが望ましいと考えられます。

 今回の最高裁判決では、非正規社員から正社員への試験による登用制度があることが、「その他の事情」として待遇差が不合理とならない判断として考慮されました。このような身分(資格)の固定化を回避する方法は有効で、貴社においても優秀な非正規社員の正社員への登用制度を導入・実施することは同一労働同一賃金への有効な対応策の一つになると考えられます。

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