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改正健康増進法と企業の受動喫煙対策

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改正健康増進法と企業の受動喫煙対策

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第29回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

当社は小規模な製造業を営む事業所です。喫煙者も多いので事務所内の片隅に空間的に隔離されていない喫煙コーナーを設けています。最近、喫煙しない社員から苦情の声があがりました。このようなやり方は問題があるのでしょうか?

A

比較的小規模の事業所等では受動喫煙が避けられない環境の中で、声も出せず、仕事を辞めるわけにもいかず困っている従業員が多数いるのが現状ではないでしょうか。従前から、法律(健康増進法、労働安全衛生法)では、多数の者が利用する施設内では、受動喫煙防止について施設の管理者に努力義務を課してきました。しかし、職場や飲食店等での受動喫煙は依然として多く、努力義務としての取り組みに限界があることから、2018年7月に健康増進法(注:国民の健康増進の推進、国民保健の向上を図ることを目的に2002年に制定された法律)が改正されました。東京五輪・パラリンピックを前に、世界最低水準と批判される日本の受動喫煙対策の強化が狙いです。全面施行される本年(令和2年)4月には日本全国の様々な施設で屋内が原則禁煙になります。

施設の類型(第一種施設と第二種施設)

 改正健康増進法では施設の類型が規定されています。学校、病院、児童福祉施設、また国及び地方公共団体の行政機関の庁舎のように公共性の高い施設は「第一種施設」として特に規制が厳しく、既に2019年7月から、屋内はすべて禁煙、更に敷地内での喫煙も原則禁止されています(例外的に屋外の施設利用者が通常立入らない場所で、受動喫煙を防止するための必要な措置がとられた特定屋外喫煙場所のみ喫煙可能)。

 一方、会社の事務所、工場、ホテル、飲食店等は「第二種施設」に分類されますが、これらの施設では原則として屋内は禁煙、但し喫煙専用室を設置した場合には、そこでの喫煙(分煙)は可能です。喫煙専用室は構造及び設備が外部へのたばこの煙の流出を防止するための技術的基準に適合したもので、出入り口の見やすい場所に「喫煙専用室」の標識を掲示する必要があります。

 今回ご相談の企業の場合、現在設置されている喫煙コーナーは煙の流れをコントロールできないので、改正法施行後は喫煙することは出来ません(灰皿等の喫煙器具を置くことも禁止されます)。そこで、喫煙者のために助成金や補助金を活用して建物内に喫煙専用室を設置することが考えられますが、たばこ臭の漏れを完全になくすことは技術上困難で、喫煙室から煙や臭いが漏れてくるといった非喫煙社員からの苦情がでるリスクが想定されます。喫煙室の維持管理・清掃コストなども考えると、小規模な企業では建物内全面禁煙とするのが現実的といえそうです。

飲食店での喫煙の扱いは?

 第二種施設の内、飲食店における受動喫煙対策については経営者はもちろん、利用することが多い一般市民にとっても関心が高い事項といえるでしょう。
 前述のとおり会社オフィスなどでは原則屋内禁煙となりますが、その点は飲食店においても同様で店内での喫煙は禁止となります。ただし技術的基準に適合した喫煙専用室(飲食は不可)、加熱式たばこ専用喫煙室(飲食も可)を設置すればそこでの喫煙は認められます(下図)。

 

 もっとも今回の改正法では、個人や中小企業が営む既存の小さな飲食店が規制対象から外されました。すなわち以下のすべての要件を満たす飲食店については当面は店内での喫煙が可能になってしまったのです。

① 2020年4月1日時点で営業中の飲食店
② 資本金5000万円以下(中小企業基本法)
③ 客席面積100平米(約30坪)以下

  このような法の不備を補おうと東京都では独自に受動喫煙防止条例を制定し、企業規模にかかわらず従業員を雇用している飲食店は原則店内喫煙としました(千葉市も同旨の条例を制定。条例の全面施行は共に2020年4月1日)。都内の飲食店の約84%(約13万軒)は従業員を雇用しており、それらすべての店舗では喫煙専用室以外は禁煙となります。今後、喫茶店や居酒屋でたばこの煙をくゆらせながらコーヒーやビールを飲むという光景は、急激に減少すると考えられます。
 なお、「屋内」の定義は外気の流入が妨げられる屋根が有り、かつ側壁が概ね半分以上覆われている場所とされています。建物に隣接したテラス席のような場合は「屋外」扱いで喫煙は可能ですが、店内にたばこの煙の流れ込むことが無いようにする必要があります。

 喫煙者の「喫煙権」、社員募集時の明示事項

 改正法により職場での禁煙化が一層進むわけですが、喫煙者から「喫煙権」の主張があった場合でも、使用者が喫煙場所の確保をするよう積極的に対応を迫られるといった喫煙権の「請求権的側面」は認められないと考えられます。使用者は施設管理権や企業秩序維持権限に基づいて、敷地内や建物内の禁煙・喫煙を自らの判断で決定することができます。
 喫煙者の「喫煙の自由」は「休憩時間」や「勤務時間外(使用者が認めていれば勤務時間内)」に、使用者が認めた場所または敷地外で他者に危害を生じさせることなく自由に喫煙できるという範囲に留まると考えられます。

 健康増進法の改正と同時に職業安定法の施行規則が改正され、従業員を募集する際の労働条件について新たに「受動喫煙防止措置に関する事項」が明示事項として追加されました。2020年4月からは従業員を募集する企業は「施設内、屋内全面禁煙」「屋内原則禁煙(喫煙専用室設置)」等の明示が求められます。改正法の趣旨は「望まない受動喫煙の禁止」ですから、応募者がこの点でも選択できるように配慮されたものです。
 減ったとはいえ成人男性の平均喫煙率は27.8%(2018年JT調査)。喫煙者は採用しないという企業や大学もあり、今後「喫煙の自由」をどうとらえるのか社会の合意点を見いだしていく必要がありそうです。

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