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労組専従は出世コースか(下)

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労組専従は出世コースか(下)

加藤裕治先生のプロフィールはこちら

第11回 労使はこうしてトヨタをつくりあげた

御用組合とは何か

 トヨタ労組の専従者、とりわけ三役を務めた人が職場に復帰して会社幹部になっていくのを見て、トヨタ労組は御用組合だから、会社に戻ってから出世できるのだという人がいる。

 では御用組合とは何だろう? 会社の発展を考え、会社業績向上のために頑張る組合が「御用組合」だと定義すれば、トヨタ労組はまぎれもなく御用組合だろう。

 しかし、私は一般に批判的にいわれる「御用組合」を正しく定義するなら、「会社の言うことに盾つけず、また、独自の提言もできず、企業運営に関して会社の言いなりになってしまう労働組合のこと」をいうのだと考えている。

 この私の定義に従えば、トヨタ労組は断じて「御用組合」ではない。
 トヨタ労組はここまでの章で紹介したとおり、またこれから先の各章でも述べるとおり、会社発展のために自主的に努力すると謳っている労使宣言の理念の上に活動してきた。

 そのような会社に協力的な面だけを取り上げると、一般的にいわれている「御用組合」に見える。しかし、トヨタ労組は「会社の言うなり」に行動するのではなく、「自ら進んで」考え、協力してきた。
 一方、会社から協力要請があったからといって、無条件に協力するわけではない。
 もしトヨタ労組が普通の「御用組合」であったなら、会社の体質はここまで強くはなれなかったと思う。

本田労組を見習え

 会社の言いなりにならず、時に抵抗勢力となって会社に立ちはだかる組合であるほうが会社は強くなり、成長する(もちろん、その組合が生産性原則=「労組は会社の生産性向上のためには協力し、その配分を獲得する形で雇用と労働条件を守る」=を認めている組合であることが前提であるが)。

 特に、経営資源の柱である労働時間については、会社の要求を丸のみしていると、会社は生産性向上、設備投資、競争力向上に対し甘くなり、長期的には体質を弱めていくものだ。

 最も分かりやすい例は、ドイツの自動車会社の経営基盤の強さだ。
 ドイツの自動車企業は、IGメタルという世界最強の産別組合を相手にしている。私が労働運動に関わり始めた1980年代の初め、ドイツ自動車企業の総労働時間は、1700時間程度だった。

 当時まだ2300時間位働いていた日本企業とは500時間程度の差があった。
 一人当たりの生産性は同じで、労働時間が短ければ、同じ台数の車を作るためには、たくさんの人を雇用しなければならない。人件費は企業経営にとっては重い固定費だ。特にドイツは賃金水準も世界で一番高い。

 そういう企業が安定的に成長していることを見ると、労働時間短縮に消極的な日本の労使は、長時間労働を厭わない労働者に甘えているとしか言いようがない。

 ドイツは欧州最強の経済大国で日本とは条件が違うという人がいる。
 しかし、日本でも、本田は1980年代のはじめにすでに、他社より年間総労働時間は200時間ほど短かった。

 それは、本田労使が欧州に学び、現場の昼夜二交替制勤務を貫いたことと、労働組合が年休を取るのは組合員の権利であるとの信念から、この時代にすでに、年休の完全取得(一人あたり17日程度を取得)を達成していたことによる。

 本田にできてなぜトヨタにはできないのか。トヨタ労組は、本田労組と交流する中で、本田労組の「強さ」にその秘密があることを学んだ。
 本田では、年休の計画取得を組合が徹底的に主導する。年末近くになって、組合集計で年休取得が足りない人間に対しては、職場委員や執行委員が通用門に待ち構えていて、該当者を出勤させず帰宅させてしまう。

 もちろんそれではライン稼働に支障をきたすから、年休が取れてない職場には会社に要求して、年休取得のための欠補要因として季節従業員を採用させるのだ。
 当時のトヨタは年休の計画取得の推進運動を始めたころで、月一日取得(年間12日)を目標に運動していたから、その差は大変な大きさであった。

 本田は労働時間について組合が強く会社を規制していたが、このころ業績は毎年着実に伸長していた。
 本田労組に言わせると、「労働時間、特に残業、年休は法律上も労働組合に主導権がある。

 これを譲ると、会社は甘えて投資をさぼり、弱くなる」と豪語していた。
 その現実を見て、私は、労働時間を制約することで会社を強くできる。いつか本田に追いつきたいと念じたものだ。

労組よ目を覚ませ

 トヨタ労組は本田の労働時間に対するこの運動姿勢を学習し、いつかは年休を完全取得し、残業を減らし、総労働時間1900時間台を達成しようと決意し、努力を重ね2003年に連続2交替勤務(夜勤なし勤務)を達成、2012年には年休完全取得を達成した。

 会社の抵抗は強かったが、約20年かけて本田に追いついた(このプロセスは別に章を改めて書く)。
 日本の労働組合は、企業別の意識が強い。
 企業間の競争を勝ちたいがために、労働時間などは会社に譲りがちだ。そういう姿勢が、日本では未だに平均年休取得が10日程度という情けない現実を生んでいる。

 時間制約を甘くすることは企業を甘やかし、体質を弱めることになる。労働組合は、残業、年休については会社に対し法の後ろ盾のある許諾権をもっている。
 その武器を最大限生かせていない組合は多い。日本の生命線を握る製造業が世界に伍してより強くなるために、労組は労働時間について、会社を甘えさせてはならない。

欧州に学べ

 日本の労働組合が弱いのは、産業別組合への結集力が弱いからである。
 ドイツや北欧では産別組合が強い。しかし、企業ごとの組合(労使協議会)は、日本以上に企業思いである。
 私が交流したフォルクスワーゲンの労使協議会メンバーは、会社のモデルチェンジの考え方に気をもみ、経営協議会で大いに提言していると言っていた。

 ドイツでは企業別労組の専従者の給料は会社負担であるが、産業別組織であるIGメタルの専従者の給料は労組負担となっている。
 ドイツでは企業別組合が会社思いであっても、産業別組織の指導力が強いから、企業別労働組合も会社に対する強い抵抗勢力となっている。

 日本では組合専従者の給料を会社が負担することを法が禁止している。
 会社が給料を負担すると労働組合は会社に強いことが言えなくなると考えられているからである。本当にそうであろうか。

 産別組合がしっかりしていれば、労働組合が弱体化する恐れなどないことは、ドイツの組合運動が証明している。
 要は、産業別組合に結集する運動になっていればいいのだ。

 日本も産別組合専従者の給料は組合が負担しているが、残念ながらドイツほど強くない。
 ドイツでは、労働時間短縮を掲げて産別がストライキを主導し、1500時間労働を勝ち取っているが、日本の産別組合は労働時間規制を産業で統一して決めて加盟組合を締め付けるだけの力はない。

 これは、日本では企業別組合が強すぎ、企業同士の競争原理を排除した産別運動が構築できないことによる。

強い労組役員こそ会社で出世する

 企業別労組だからといって、会社経営の忠実なパートナーであってはならない。
 ときには抵抗勢力となり、会社が甘ければそれに歯止めをかけなければいけない。

 トヨタ労組は、会社の対抗勢力として強くなるために、産業別組織である自動車総連の活動を重視し、産業横断的な運動を強化することを目指し、優秀な人間を自動車総連に送り込んできた。

 そして、自動車総連が作った規制を守り抜こうと先頭に立って企業別の運動を推進してきた。そのことがトヨタを強くしてきたと考えている。
 トヨタ労組においては会社に対して最大の抵抗勢力となることがトヨタ労組専従者のアイデンティティなのだ。
 労組にあって抵抗勢力になれない人間が、会社に戻ってイエスマンにならず、経営に貢献できる人間になれるはずはない。

 トヨタで役員に登用された労組役員は私が知る限り、会社に対しては強い抵抗勢力であった。
 だからこそ会社に復帰しても実力を発揮し、重用されていくのである。

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