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配偶者手当見直し検討のフローチャートの公表

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配偶者手当見直し検討のフローチャートの公表

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第78回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

当社では、扶養する配偶者がいる社員には子よりも高額な家族手当を支給していますが、見直しが必要と考えています。しかし、既得権を主張する社員も多く、手つかずの状態のままになっています。
厚生労働省が、配偶者手当見直しのための資料を公表したと聞きましたが、どのような点に留意して見直しを実施したらよいのでしょうか?

A

厚生労働省は昨年の秋、「年収の壁・支援強化パッケージ」を公表しましたが、この一環として、配偶者手当見直し検討の手順を4ステップのフローチャート(後述)で示したリーフレットを作成しました。
「年収の壁」とは、収入が一定の水準を超えると、所得税や社会保険料の負担が生じ、逆に手取り収入が減少する現象を指します。この壁を超えて収入を得ることで、増収の期待が逆転してしまうという意味で、年収の「壁」と形容されています(下図参照:首相官邸HPより)。



また、夫が働く企業が支給する配偶者手当にも収入要件があり、妻である短時間パートが年収の壁を超えて働くと、夫の給与につく配偶者手当が不支給になり、夫婦にとっては手取り収入が二重に減少する結果となります。
「就業調整」が行われる理由は以上のような状況を回避するためですが、就業調整が行われることにより、以下のような影響が生じると国は指摘しています。

・パートを多く雇用する企業は、繁忙期の年末の人材確保に苦慮する
・正社員など同じ職場の労働者の負担が増える
・女性の能力開発の妨げの要因になる
・日本経済全体にも、人的資源を十分に活用できない状況をもたらす

「配偶者手当」は女性の十分な能力発揮を阻害するとして、厚労省は、平成28年の「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会」において配偶者手当の見直しを企業に求める報告書を示しています。このとき公表されたリーフレットや手引きは、その後も随時更新が行われており、その中では、『パートタイム労働で働く配偶者の就業調整につながる配偶者手当については、配偶者の働き方に中立的な制度となるよう見直しを進めることが望まれる。』としています。

配偶者手当見直しの背景と意義

 配偶者手当の歴史は古く、日本の高度成長期には妻が専業主婦として家庭を支え、夫が仕事に専念するという考えが主流となり定着しました。

 しかし、現在、職場や家族の形は大きく変化し、配偶者手当は少子高齢化や夫婦共働き世帯の増加といった社会情勢にマッチしない手当になりつつあります。また、給与は生活保障のためのものではなく、仕事の対価だと考える人も増えていて、家族手当のような仕事と関係のない個人的な理由で支給・不支給が決まる手当に対して不満を抱く人も少なくありません。

 こうした社会状況の変化もあり、国は企業に対して配偶者手当の見直しを求めているわけですが、家族手当を配偶者に支給する民間事業所の割合は5割を超えており(2022年人事院調査)、手当の役割がなくなったと考えるのは早計と言えるでしょう。

 近年の企業側の動きとしてはトヨタ自動車などを始めとして見直しの機運が高まり、家族手当を支給する企業そのものは微減ながら、家族手当の対象から配偶者を外すか、配偶者手当の額を減額する動きが多くなっているのが現状と言えます。

 したがって、配偶者手当を廃止又は縮小する方向には一定のコンセンサスが形成されつつありますが、属人的な手当の廃止は、支給理由が明確なだけに容易とは言えません。たとえば、人事制度の改定であれば成果主義の導入で物差しが変わったからだと説明することも可能ですが、扶養の事実は変わらない中で、手当だけを打ち切るとした場合には、不利益を受ける人達からの反発が予想されます。

 今回の相談企業のように、配偶者手当をどのように見直すべきかに悩む企業が多いのも頷けます。 

配偶者手当見直し検討のフローチャート

 以下では、今回、厚労省が示した配偶者手当見直し検討のための「4ステップのフローチャート(図参照)」を見ていきましょう。


(図:厚生労働省リーフレットより)

▲(Step1)「賃金制度・人事制度の見直しの検討」

 厚労省が別に公表している実務資料編(令和5年1月改訂版)では見直しが実施された18社の具体的な企業事例が掲載されているので、これらを参考に自社に適した見直しを検討するのが良いでしょう。

 18社の企業事例を見ると、見直しの結果、「配偶者手当」を廃止(10社)、又は縮小(7社)した企業が大部分を占めています(存続は1社)。その場合、見直しは、社員への報い方、配分の仕方を変えるものであり、賃金原資総額は維持するというのが基本的な考え方になります。具体的には浮いた原資で、①基本給を増額する、②子供手当を増額する、③新たな手当(資格手当等)を創設する、などの方法がとられています。

▲(Step2)「従業員のニーズを踏まえた案の策定」

 アンケートや各部門からのヒアリングを行い、従業員のニーズを踏まえた案に絞り込んでいきます。

▲(Step3)「見直し案の決定」

 労使での丁寧な話し合いにより従業員が納得できる見直し案を決定します。この際、経過措置の期間や内容を示すことが重要で、制度設計の段階から従業員と議論を重ねる中で検討します。経過措置は1~3年程度とする企業が多く、当初は旧制度での支給額を維持し、その後、段階的に減額とするケースが一般的です。

▲(Step4)「新制度の丁寧な説明」

 見直しの影響を受ける従業員に丁寧な説明を行うことで、モチベーションの維持や定着率の向上につなげます。

 配偶者手当は法で定められた手当ではなく各企業の判断に委ねられる任意制度です。見直しを呼びかける政府も、民間企業に強制することはできません。しかし、配偶者手当が女性パートの就業調整の一因になっているのであれば、女性パートを多く雇用する企業、ひいては産業全体に影響を及ぼす可能性が高い手当ともいえます。政府の呼びかけに呼応する形で、見直しに着手することの意義は大きいと考えます。

 その際には、性急に配偶者手当だけを廃止・縮小するのではなく、自社の給与体系全体のあり方を熟慮した上での見直しや慎重な検討が重要と言えるでしょう。

 

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