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インフレ手当の支給と実務上の留意事項

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インフレ手当の支給と実務上の留意事項

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第75回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

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 当社は包装資材などを扱う従業員数約50名の専門商社です。物価高騰を受け、大手企業を中心に「インフレ(物価)手当」を支給する会社が増えているとの報道を目にします。
 大手だけでなく、同業他社の中小企業などでも支給の動きが広がっていると聞いており、物価上昇が継続する中、当社としても検討を始めたところです。インフレ手当を支給する際のポイントや実務での留意事項をご教示ください。

A

 昨年以来、物価の上昇が続いています。ロシアによるウクライナ侵攻により原油や小麦の価格が上昇、原料高による電気代や食品の値上がり、また円安が長期化することで輸入品の値上げも増加している状況です。
 そんな中で、従業員の生活支援を目的として通常の賃金とは別に追加して支給するのが「インフレ手当」です。他にも「物価手当」「生活支援金」など、企業によって名称は様々ですが、急激な物価上昇(インフレ)を背景に、従業員の生活費を補助することを目的としています。
 以下では、インフレ手当を支給する際の検討ポイントや実務での注意事項について考えます。

インフレ手当の支給方法

 令和5年の新年度から物価上昇への対応として基本給を一律に上げるベースアップ(ベア)で対応した企業も多かったと思われます。しかし、インフレ率をカバーする十分なベースアップが出来なかった企業も多く、その後も、物価上昇が続いていることから、臨時的な措置としてインフレ手当の支給を検討する企業が増加していると考えられます。

 インフレ手当の目的は食料品や光熱費などの相次ぐ値上げに対する生活支援ですが、手当を与えることで従業員の仕事へのモチベーションアップ、人材流失の防止といった狙いも込められていると考えられます。

 今回ご相談の中小企業も同業他社が対策を講じつつあることから、無視できない状況にあると考えているのでしょう。

 インフレ手当の支給方法としては「一時金」または「月額手当」の二通りの方法があります。昨年11月に帝国データバンクが実施した調査では一時金として支払う企業が66.6%、月額で支払う企業が36.2%(複数回答)となっています。

(1)一時金として支給する場合

 賞与を支給する際にインフレ手当を加算して支払う形態が作業負担の少ない方法と言えます。賞与として所得税が課税となり、社会保険料・雇用保険料が発生するものの、手続きとしては既存の賞与支払と同様になります。残業代の単価計算に入れる必要もなく、継続的に「インフレ手当」を上乗せして支払う義務も発生しません。

 ただ、賞与に上乗せする場合、インフレ手当支給の事実を従業員が把握しにくく、せっかく上乗せして支給しても、企業側の誠意を感じてもらいにくいといったデメリットも考えられます。そこで、物価高による生活支援であることを強調するために、賞与とは分けて特別一時金として単独で支給することも考えられます。その際には、賞与としての扱いが必要になり、賞与支払届など新たな事務負担が生じることになります。

(2)月額手当として支給する場合

 従業員の生活支援という視点からすると、毎月、インフレ手当が通常の給与にプラスされて支給される方が、物価高への配慮が感じられるかもしれません。その場合、期間限定の一時的な支援であれば手当がいつ終了するのか、また、終了した際の従業員のモチベーションダウンを懸念する使用者も多いことでしょう。 

 しかし、物価は株価や原油価格と違って、急激に上がったり反動で下がったりするものではありません。物価が下がることで支給事由が消滅しインフレ手当が終了するという事態は想定しにくいとも言えます。

 そこで、人材の採用や定着を考慮すれば、将来のあるタイミングでインフレ手当を基本給に組込んでしまう(つまり、ベースアップを図る)という対応が考えられます。月額のインフレ手当を支給する場合には、将来的に基本給に組込まれていくことを視野に、金額等を設定するのが賢明と言えるでしょう。

社会保険などの留意事項とまとめ

 インフレ手当の支給と社会保険との関連についても理解しておく必要があります。インフレ手当は「労働の対償ではない」「臨時的恩恵的なもの」であり、社会保険料の対象としての報酬には含めなくて良いとする意見も一部では聞かれます。

 しかし、インフレ手当は被保険者の通常の生計に充てられるものとして、報酬に含めるべきものと考えるのが妥当です。したがって、支払う毎に、所得税、雇用保険料が発生します。社会保険(厚生年金、健康保険)については月額支給の場合、支給開始時に固定的賃金の変動として随時改定(月額変更届)の対象になります。

 さて、インフレ手当の平均支給額はどのくらいでしょうか? 2022年11月の帝国データバンク調査では一時金の場合が5万3,700円、月額支給の場合は6,500円という結果でした。また、その後、東京商工リサーチが上場企業に対して実施した調査では上場25社の一時金の平均額は6万7,120円(最高額15万円)でした。

 従業員は、インフレ手当分の手取りが丸々増えると考えがちですが、実際には税金や社会保険料も増加します。企業はその点も含め従業員に丁寧に説明する必要があります。


 物価の高騰が続き、経営基盤の弱い中小企業にとっては企業経営への圧迫も深刻になる中で、新たな原資を必要とする「インフレ手当」はハードルが高い施策といえるかもしれません。しかし、従業員エンゲージメント(会社への貢献意欲や愛着)やモチベーションの向上、離職防止、企業イメージ向上につながる「インフレ手当」の支給は効果のある投資と捉えることもできます。経営状況に加え、物価動向、他社事例、社内での要望なども踏まえて検討してみる価値があると言えるでしょう。

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