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試用期間の意味と本採用拒否について

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試用期間の意味と本採用拒否について

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第45回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

即戦力の部長職として、本人からもそれに相応しい具体的な経歴・職歴の申告があり高待遇で社員を採用しました。しかし、期待したマネジメント能力がなく、高圧的な言動を繰り返すなど協調性を欠くため、3カ月の試用期間の後、本採用を拒否することとしました。本人は事前の改善指導や弁明の機会もなく解雇は無効と主張してきましたが、試用期間であることを理由に契約解消することに問題はあるでしょうか?

A

中途入社の社員を採用する場合、職歴など本人の職業能力に関する情報を基に慎重に採用決定することになりますが、会社が採用に失敗したと後悔するようなケースはしばしば起こりえます。会社が期待していた技能と、社員が実際に持っている技能とにギャップがあったり、勤務態度不良、協調性がないなど当該労働者の企業への適格性に問題がある場合等です。本人が申告した経歴や職歴に多少の粉飾がなされていることもあるでしょう。そこで、ほとんどの会社の就業規則では「試用期間」を設けていますが、これは新入社員の適格性を、実際に働かせてみて確認する期間ということになります。以下では、試用期間の法的性質と今回の質問のように会社が適格性のない人材を採用してしまったと判断した時に、試用期間であることを理由に本採用をキャンセルできるのか、という点を検討します。

 

試用期間の意味とは

 労働基準法など法律上は「試用期間」についての定義は特段ありませんが、試用期間とは新規に雇い入れた労働者の職務能力や社員としての適格性を判断する入社後の一定期間といえます。試用期間の長さについては法的な規制はなく会社が合理的な期間を就業規則などで自由に設定することができます。「3カ月程度」と定めている会社が全体の約2/3と最も多く、「6カ月程度」としている会社も2割弱あるとの調査結果があります。(労働政策研究・研修機構の2014年調査)

 「試用期間」についての法的な性質について、裁判では「解約権留保付労働契約」であると判断しています(三菱樹脂事件 最高裁昭48.12.12)。労働契約は成立しているが、試用期間中は会社の解約権が留保されていて適格性の審査にパスしなければ解約権を行使することが可能というわけです。
 まだ就労していない「内定」段階においても解約権留保付きの労働契約が成立していて、その後の内定取り消しは「解雇」として扱われるとした裁判例もあります(大日本印刷事件 最高裁昭54.7.20)。したがって試用期間に労働契約が成立しているのは明らかで、本採用の拒否が解雇に該当するのも当然ということになります。
 解雇である以上、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、解雇は無効とする(労働契約法16条)」とされているので、試用期間中の本採用拒否の場合にも合理的理由と社会的相当性が必要になると考えられます。



 会社が採用決定後の調査結果や、試用期間中の勤務状態などにより、当初知ることができない、又は知ることは困難だったような事実を知るに至った場合、引き続き社員として雇用することが適当でないと判断する合理的理由があれば、解約権が認められると考えられます。一般には本採用後の通常の社員の解雇より多少広い範囲において解雇する自由が認められていると言われています。どの程度緩やかな基準で解雇できるのかは、個別の事案ごとに判断されることになるので、以下、新卒者と中途採用者の場合で考えてみます。

新卒者・中途採用者などの場合

 例えば、新規学卒者を採用する場合、日本での長期雇用慣行は内定を出した段階から開始されていて入社後の試用期間とは実際上は研修期間のような位置づけと考えられます。したがって、試用期間中に会社が本人の「能力不足」や「勤務態度不良」などを認識したとしても本採用を拒否することは余程のこと (例えば、懲戒事由に該当するような非違行為) が無い限り許されないといえるでしょう。会社は能力開発やOJTを通じて新卒社員の能力開発等の努力が求められるため、3カ月程度の試用期間だけで新卒採用の社員を社員不適格と判断し、留保解約権を行使することは早急すぎるということになります。

 一方、中途採用者の場合には、本採用拒否(留保解約権の行使)は新卒者に比べて緩やかになると考えられます。中途採用者の場合、もはや終身雇用の枠からははずれていて新規学卒者のように長期雇用への期待を法的に保護する必要があるとまでは言えないためです。中途採用の場合には、即戦力として採用されることが多いので、試用期間による適格性の審査がそれだけ厳しくなることもやむを得ず、本採用拒否が認められやすくなると考えられます。もちろん、「解雇」である以上、「客観的な合理性と社会的相当性」という基準は適用されるので、具体的根拠に基づく本採用拒否事由を示す必要があるのは当然です。

 それでは、今回の冒頭のケースを考えてみましょう。通常の中途採用の場合に加え、その経歴から高いマネジメント能力を期待され高待遇で採用されたという事情が考慮されると考えられます。通常の中途採用であれば、改善指導などを行った上で社員不適格と判断するなどの手続きが求められますが、高待遇の即戦力の部長職として採用された以上、そのような改善指導を前提とする手続きが必須になるとまでは思われません。
 あきらかなマネジメント能力不足と高圧的言動に係る事実があり、当該事業所の部長職としての地位・役職を与えることが到底困難と判断されるのであれば試用期間後の本採用拒否は有効とされる可能性が高いと考えられます。
 今回のケースと類似の事案として、年収1000万円超で中途採用された部長が、高圧的な態度や協調性を欠く言動を繰り返したことにより、3カ月の試用期間後に会社が本採用拒否したことを有効とした裁判例があります(社会福祉法人どろんこ会事件=東京地裁平31.1.11)。

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