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固定(定額)残業代の有効性判断について

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固定(定額)残業代の有効性判断について

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第18回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

 当社では、主任職の社員には主任手当として毎月一定額(50,000円)を支給しています。賃金規程には、主任手当は固定の残業割増賃金として支払い、当月の残業代(時間外、休日、深夜含む)がこれを超えた場合は、別途差額を支給する旨を規定しています。
 ある社員から、主任手当は何時間分の残業手当にあたるのかの記載がないので、無効だとの指摘がありました。主任でも基本給額には違いがあり相当する残業時間数は個々人毎に異なるので、明示はしていませんが、このような支払いは問題があるのでしょうか?

A

 毎月の時間外労働に対し、一定の金額や一定時間分の割増賃金をあらかじめ手当(または基本給に組み込み)として支払うのが固定(定額)残業代です。
 この固定残業代の有効性をめぐる裁判は近年多数起されています。そして一時期、固定残業代はブラック企業の手口であるかのように非難され、裁判でも会社側に厳しい判決が多く出されていました。しかし、最近の裁判では、数年前に比べると柔軟な判断を示す傾向が見受けられます。このような裁判所判断の推移も踏まえ、以下、固定残業代の問題を考えてみましょう

固定残業代のメリットとデメリット

 適法な固定(定額)残業代は、実際にその月の残業時間が少ない場合にも全額固定で支払い、その月の残業が多く残業代の総額がその額を超えた場合には、会社はその差額を別途支払います(図参照)。したがって会社にとってみれば「割が悪い(=損得勘定が合わない)」支払い方法ともいえ、あまり積極的にお勧めできる方法とは思われません。
 しかし、社員からすれば、規定の時間内で、より短時間で効率的に作業をすれば労働単価を高めることができます。使用者側としても社員が「ダラダラ残業」せずに働くインセンティブになるのであれば業務効率を高める効果が期待できるかもしれません。

米田先生図表190215.png

残業時間数の明示は必須なのか?

 固定残業代で有名な裁判として平成24年のテックジャパン事件があります。この最高裁判決では、会社が基本給の一部に組込んだとする固定残業代を否定しましたが、この際、裁判官の補足意見が付され、固定残業代が有効であるためには、『①その旨が雇用契約上明確にされていて、②時間数を明示し、時間外労働の実時間数とその残業手当の額が明示され、③不足の場合には、別途上乗せして残業差額を支給する旨が明示されることが必要である』との見解が示されました。
 今回のご質問の社員さんは、あるいはこの裁判の補足意見のことを知っていて、主任手当は①と③は満たされていたとしても、②の残業手当の時間外労働時間数が労働者に明示されていないという点で無効であると主張しているのかもしれません。
 その後の日本ケミカル事件の東京高裁判決でもテックジャパン事件の流れをくんだ判断により、業務手当による割増賃金の定額払いを認めませんでした。しかし、同事件の最高裁判決(H30.7.19)では、「定額残業代を上回る時間外労働が発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払いを請求できる仕組が必要とした(高裁が示した固定残業代の)適法要件は、必須とはいえない」として高裁判決を破棄しました。
 このように裁判によって判断に揺れはありますが、固定残業代の残業時間数が明示されていないことだけを理由に、直ちにこれを無効とする主張は、今回の最高裁判決により否定されたと考えて良いと思います。

異常に大きな時間数の固定残業代は有効か?

 固定残業代の有効性判断において対象時間数の大きさに着目した裁判例も数多くみられます。基本給に照らして異常に大きな固定残業手当を設定した支払いが有効か否かが争点になったケースです。
 例えば、固定の時間外手当が基本給を上回っており(100時間超の時間外割増に該当)不相応で無効とした例(京都地判H24.10.16)、95時間分に相当する職務手当(月額15万円)を公序良俗に反して無効とした例(札幌地判H24.10.19)などがあります。これは労働者の健康を害する安全配慮義務に反するとの趣旨で裁判官が無効と判断したのものです。
 他方、近年では公序良俗論ではなく、固定残業手当と実際に何時間残業するかは別問題であるとして、70時間分(東京高裁H28.1.27)、あるいは80時間分(東京地判H29.10.16)の固定残業代を適法とした判断がなされたケースもあります。
 このような状況から、働き方改革関連法で複数月(2~6箇月)平均80時間以内の規制(大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月施行)が定められた点を踏まえ、三六協定特別条項締結を前提に、その制限時間内に設定された固定残業代であれば、時間数の点で違法とされる可能性は低いものと考えられます。

まとめ

 冒頭の質問に戻って考えると、主任手当(50,000円)は異常に大きい残業時間を設定しているわけではありません。固定残業代であることが賃金規程等で明確になっていて、これを超える残業があった場合に差額支払いがきちんとされているのであれば、時間数が明示されていなかったとしても違法とされるリスクは少ないと考えられます。
 ただ、明瞭化の観点から今後は主任手当が支給される社員には、1時間あたりの残業単価を明示する等が望ましいといえるでしょう。
 なお、職業安定法の指針(平29.6.30厚労省告示232号)は、「労働者を募集する際には、定額残業代の計算方法(定額残業時間及び金額)、残業代を除いた基本給の額、不足を生じた場合には割増賃金を追加で支払うことを明示すべき」としているので、従業員募集に際してはこの指針に留意する必要があります。

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