「2022年度下半期の景気動向と年末賞与を予測する」(2022年11月景況トレンド)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
調査部 主席研究員 小林真一郎
(2022年11月9日 秋季定例研究会ブックレット「年末一時金関連データ」より)
景況分析と賃金、賞与の動向(33)
国内景気の現状と展望
国内景気は、物価上昇や海外経済の減速による下振れが懸念される中で、緩やかに持ち直している。
2021年中は、新型コロナウイルスの感染状況に合わせて需要の増減が繰り返されたため、景気は横ばい圏での推移に終始した。しかし、2022年に入ると状況が変わってきた。2022年は、年初から新型のオミクロン株の感染が急速に拡大する感染第6波に見舞われたため、景気はいったん冷え込んだ。しかし、ワクチン接種の進展、医療提供体制の整備・強化に加え、オミクロン株の重症化リスクが小さかったことから、特定の地域へのまん延防止等重点措置の適用にとどまるなど、厳しい行動制限は回避された。このため、需要の落ち込みはそれまでの感染拡大期と比べて軽微となり、3月に入って感染が収束に向かうと、宿泊・飲食サービス業、旅客輸送業、旅行業、レジャー産業、冠婚葬祭業といった対面型サービスへの需要が回復し、景気は年度末にかけて持ち直した。このため、1~3月期の実質GDP成長率は、感染拡大期にありながらも前期比+0.1%と2四半期連続でプラス成長を達成し、ようやく横ばい圏を脱した。
続く4~6月期においても、実質GDP成長率はプラス成長を維持し、伸び率も前期比+0.9%まで高まった。景気を押し上げる原動力となったのが、感染第6波が収束した後の個人消費の持ち直しである。特に、3年ぶりに行動制限のない大型連休を迎えた効果が大きく、対面型サービスを中心に支出が増加したほか、人流増加を背景に半耐久財(被服・身の回り品など)の需要も高まった。このように、コロナ禍で抑制された需要が一気に高まる、いわゆるリベンジ消費が年度初めの景気の押し上げに寄与した。
一方、耐久財(白物家電、自動車、通信機械など)や、非耐久消費財(食料、エネルギー)への支出は鈍かった。これは、物価上昇によって購入を抑制する動きが出たためであり、個人消費全体で堅調に推移する中においても、後述するように、今後の景気にとっての懸念材料も広がりつつあった。
22年度下期は、引き続き新型コロナウイルスとの共存が求められるウィズコロナ期に位置づけられ、感染拡大防止と経済社会活動の活性化のバランスを慎重に図ることが求められよう。それでも、7~9月期以降もプラス成長は続く見込みである。夏場にかけて、1日の感染者数が20万人を超えるなど感染第7波が拡大したため、景気の持ち直しの勢いが一時的に弱まったが、行動制限が課されなかったこと、秋口にかけて感染が収束に向かったことから、持ち直しの動きは途絶えていない。
このようにコロナ禍による需要の下押し圧力は徐々に弱まっている。今後、感染が拡大したとしても、①コロナ禍で積み上がった貯蓄を源泉としてリベンジ消費が維持されること、②全国旅行支援策などの政策効果による押し上げが期待されること、③水際対策緩和によって外国人観光客の増加が予想され、インバウンド需要の回復が見込まれること、などから景気は緩やかな回復基調を維持しよう。この結果、2022年度の実質GDP成長率は前年比+2.0%と、2年連続でのプラス成長を達成する見込みである。
一方、コロナ禍に代わる新たな景気悪化要因が生じており、先行きは決して楽観できるわけではない。
リスクの第一が物価の上昇である。物価上昇は日本に限らず全世界で生じているが、ロシアのウクライナ侵攻後に上昇ペースが加速し、日本においては、日米金利差拡大を背景とした急速な円安が上昇に拍車をかけている。こうしたコスト負担の増加は企業の業績を下押しし、実質購買力の落ち込みを通じて個人消費を悪化させる。
金利上昇が世界経済の回復ペースを鈍らせることも大きなリスクだ。物価上昇を受けて各国で金融引き締め政策が進められ、金利の上昇傾向が強まっている。金利上昇は設備投資や個人消費を減速させ、各国経済を悪化させるため、日本からの輸出の落ち込みにつながることが懸念される。
年末賞与を取り巻く環境
以上のような景気の現状と展望を踏まえたうえで、年末賞与に影響する企業業績と雇用情勢の状況をみていこう。
まず企業業績であるが、21年度の経常利益(以下、財務省「法人企業統計」ベースで金融業、保険業を除く)は前年比+36.8%と急回復した。金額は86.7兆円に達し、18年度を上回って過去最高益を更新した。景気回復のペースは緩やかだったが、海外経済の回復による輸出増加や、コロナ禍においても国内の財の需要が底堅く推移したことから、製造業を中心として急速に持ち直した。
改善は22年度に入っても続き、4~6月期の経常利益は前年比+17.6%と6四半期連続でプラスとなった。業種別では、製造業の同+11.7%に対し、非製造業では同+21.9%と増益の中心は非製造業である。製造業では、原油、小麦等の資源価格高によって仕入れコストが急増しているうえ、販売価格への転嫁が遅れていることが業績改善の足かせとなっている。一方、非製造業では、感染第6波収束による需要増が、対面型サービス業の業績を急速に改善させ利益の急増に寄与している。
今後も景気の緩やかな回復が続くことは、企業業績にとってプラス要因である。特に、これまで厳しい状況にあった対面型サービス業では、コストの削減や業務効率化を進めてきた効果もあって業績の急速な持ち直しが期待される。その一方で、今後は、仕入れコスト増加による企業業績へのマイナス効果が本格化してくる見込みである。コスト増加の一部を販売価格に転嫁する動きは進みつつあるが十分な転嫁は難しく、業績改善への効果は限定的である。このため、今後は製造業を中心に業績改善の動きが一服し、年度後半にいったん前年同期比でマイナスに転じる見込みである。
このため、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは、22年度の経常利益は前年比+2.8%と通年では増益を確保するものの、増益幅は小幅にとどまると予想している。金額は89.1兆円と過去最高益を更新する見込みだが、4~6月期までの好調な動きを受けたものであり、7~9月期以降の業績は厳しさを増す可能性がある。
次に雇用情勢であるが、コロナ禍にあっても緩やかに改善している。完全失業率(季節調整値)は、初回の緊急事態宣言が発出されたことをきっかけに急上昇し、20年10月には3.1%まで悪化した。しかしその後は、感染第7波に見舞われた2022年夏においても改善が続き、完全失業率は22年8月時点で2.5%まで低下している。これは、産業全体での人手不足感が依然として強い中で、対面型サービス業以外の業種で就業者が増加しているためである。
雇用情勢は、経済社会活動の正常化に合わせて、今後も改善が続く見込みである。完全失業率は、21年度の2.8%に対し、22年度全体でも2.5%まで改善すると予想され、コロナ前の状態にかなり近づくであろう。こうした中で、対面型サービス業など一部業種では深刻な人手不足に陥り、全国旅行支援の効果による需要の持ち直しや、インバウンド需要の回復時に、営業再開ができないなど、供給制約の問題に直面するリスクがある。
2022年の年末賞与の見通し
以上みてきたように、景気が緩やかに持ち直し、企業業績が好調であることに加え、雇用情勢の改善が続いているため、賃金は上昇している。
厚生労働省「毎月勤労統計」における現金給与総額の動きを見ると、21年度は前年度比+0.7%と3年ぶりに増加した。ボーナスを含む特別給与が下げ止まったほか(前年度比横ばい)、所定内給与(同+0.4%)の緩やかな増加が続き、コロナ禍からの回復過程で労働時間が増加したことに伴って所定外給与(同+7.1%)が増加して全体を押し上げた。
22年度に入ると、経済社会活動の回復を反映して、賃金増加の動きはさらにしっかりしたものとなり、4~8月期の現金給与総額の伸び率は前年比+1.5%に拡大した。ただし、22年度になって物価上昇率が高まっているため、実質値では同▲1.5%と落ち込んでいる。
こうした中、経団連が発表した22年夏季賞与・一時金の最終集計結果によると、大手企業の総平均妥結額(全産業、加重平均)は、21年夏季の82万6647円(前年比▲8.27%)に対し、89万9163円(同+8.77%)と前年の落ち込みの反動もあって大幅に増加した。製造業で92万393円(同+9.58%)、非製造業で82万9019円(同+7.17%)といずれも増加したが、一部に新型コロナの感染拡大によるマイナスの影響が残っている非製造業の増加幅のほうが小幅であった。
以上より、22年年末一時金を取り巻く環境は良好な状態にあり、夏に続き高い伸びを達成すると見込まれる。これまでコロナ禍で厳しい対応を余儀なくされてきた対面型サービス業などの業種においても、経営環境の好転を受けて支給再開や改善に取り組み始める企業があるなど、増加の動きが広がりつつある。さらに、足元の物価の上昇に対し、一時金の支給といった通常の賃金の枠外で対応する動きもある。
大企業については、「夏冬型」の企業が多いことから、夏並みの好調な増加が続く可能性がある上、業績の好調な業種ではさらに積み増される可能性があるだろう。
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