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「2021年度日本経済ならびに春季賃金改定の見通し」(2021.2)

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「2021年度日本経済ならびに春季賃金改定の見通し」(2021.2)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
調査部 主席研究員 小林真一郎
(2021年2月19日 春季定例研究会ブックレット「春季賃金交渉関連データ」より)

景況分析と賃金、賞与の動向(28)

日本経済の現状と2021年度の見通し

 昨年の秋にかけて緩やかに持ち直していた国内景気であるが、2021年になってから急速に下振れリスクが高まっている。
 これまでの景気の動きを簡単に振り返ってみると、2020年4~6月期の実質GDP成長率は、リーマンショック時を大きく上回る戦後最悪のマイナス幅を記録した。しかし、その後は感染拡大も落ち着き、7~9月期の実質GDP成長率が急上昇するなど、景気は緩やかな持ち直し基調に転じた。落ち込みを一気に取り戻すV字回復には至らなかったが、景気は最悪期を脱し、回復局面に入ったことは確かであった。

 景気の持ち直しをけん引したのが、コロナ禍で急速に悪化した個人消費と輸出である。個人消費は、緊急事態宣言下で需要が急速に落ち込んだ宿泊・飲食サービス業、旅客輸送業、旅行、レジャーといった個人向けサービス業を中心に、ペントアップディマンド(繰越需要)や特別定額給付金の支給、GoToキャンペーン導入効果などを背景に、夏場にかけて回復した。
 輸出は、海外景気の回復を受けて増加し、コロナ前を超える水準まで回復した。最初に景気が回復に転じた中国向けが増加し、米国向け、欧州向けも続いた。製品別では、世界的に需要が持ち直した自動車や半導体等電子部品が好調だった。
 しかし、新型コロナウイルスの感染第三波が襲来したことを受けて、GoToキャンペーンが停止され、年明け後には、首都圏での緊急事態宣言が再発出され、さらに対象地域が拡大、期間も延長されたことで、回復期待は一気にしぼんでしまった。このため、昨年4~5月の緊急事態宣言時のように個人消費の低迷が見込まれ、宿泊・飲食サービス業、旅客輸送業、旅行や娯楽などの個人向けサービス業、百貨店などの一部の小売業の経営に大きな打撃を与えるのは必至である。

 

 2021年入り後の景気がどこまで悪化するかは、今後の感染の拡大状況によって変わってくるが、少なくとも1~3月期の実質GDP成長率は前期比でマイナスとなることは避けられず、景気が二番底に陥るリスクが高まりつつある。景気に配慮して、経済活動を抑制する決断が遅れてしまったことで感染拡大防止と経済活動のバランスが崩れ、かえって景気を悪化させることになってしまった。
 それでも、徹底的に需要を抑え込んだ前回の緊急事態宣言時と比べると、景気の落ち込みは緩やかにとどまる見込みである。前回は感染拡大を食い止めるための手段が手探り状態であったこともあり、経済活動は徹底的に抑え込まれ、人の移動も厳しく制限された。しかし、今回は、広く社会で感染防止策が浸透し、人々の感染防止意識が高まっていることもあり、経済活動の制限を限定的、集中的にとどめることで対応が可能である。また、通信販売やテイクアウトへの対応、テレワーク体制整備などもあり、需要の落ち込みや企業活動の混乱などは、ある程度回避できると思われる。このため、感染拡大の第三波を早期に抑制できれば、景気は一時的な足踏み状態に陥ったとしても、後退局面入りすることは回避できるであろう。

 2020年度の実質GDP成長率は、4~6月期の景気悪化に加え、2021年1~3月期に再びマイナス成長に転じるため、前年比▲5.1%と大幅なマイナス成長に陥る見込みである。これに対し、2021年度は、感染拡大による経済活動への制約が徐々に薄らいでくるであろう。ワクチンの普及がどの程度まで進むか不透明であるが、少なくとも爆発的な感染拡大を回避できる状況にはあると思われる。このため、実質GDP成長率はプラス基調を維持できる見込みである。
 それでも、新型コロナウイルスの感染が完全には収束しない以上、ウイズコロナを前提とした活動様式が続く。このため、感染拡大防止に配慮して経済活動の復旧ペースは緩やかとなる可能性が高い。2021年度の実質GDP成長率は前年比+3.6%とプラス成長に復帰するものの、前年の落ち込みを十分に取り戻すには至らないであろう。新型コロナウイルスの感染拡大前の水準(2019年10~12月期)まで回復するのは、2023年度にずれ込む見込みである。
 なお、東京オリンピック・パラリンピックは、大会規模や観客数は縮小を余儀なくされるため、一定のイベント効果はあるが、それほど大きな景気押し上げ要因にはならないだろう。

春闘を取り巻く環境

 次に、春闘の行方を考える上でポイントとなる企業業績、物価、雇用情勢について、足元の動きを確認しておこう。
 企業の経常利益(以下、財務省「法人企業統計」ベースで金融業、保険業を除く)は、海外経済の減速や消費増税の影響により、2019年度は前年比▲7.8%と8年ぶりに減益に転じた。さらに、4~6月期は新型コロナウイルスの感染によって景気が最も悪化したタイミングであり、売上高の減少を主因として、経常利益は前年比▲46.6%とほぼ半減した。7~9月期に水準は持ち直したものの、それでも前年比では▲28.4%と低迷が続いている。
 中でも、コロナ禍の影響を強く受ける宿泊・飲食サービス業、旅客輸送業、生活関連サービス業などの経常利益は、4~6月期の赤字に転落後、7~9月期も赤字が続いている。売上高が急減する半面、人件費や不動産賃貸料などの固定費の負担が重くのしかかっているためであり、厳しい状況が続いている。

 2020年度下期も、企業業績は厳しい状況が続く見込みである。10~12月期には、景気の持ち直しの動きが維持されていたことや輸出が好調であったことから、減益幅は縮小すると見込まれる。しかし、年明け以降は、緊急事態宣言の発出を受けて、宿泊・飲食サービス業、旅客輸送業、生活関連サービス業などを中心に、業績は再び悪化するであろう。
 二つめに物価動向であるが、エネルギー価格の下落、新型コロナウイルスの感染拡大による需要の弱さ、GoToキャンペーンによる政策的な下押し効果などを受けて前年比でマイナスが続いている。
 消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は、2020年度上期の前年比▲0.2%に対し、下期に入って消費増税による押し上げ効果が剥落したことで▲1.0%程度までマイナス幅が拡大している。

 三つめが雇用情勢である。完全失業率(季節調整値)は2019年末の時点で、92年以来の低水準である2.2%まで低下していた。しかし、緊急事態制限の発出を受けて、宿泊・飲食サービス業、旅客輸送業、対個人向けサービス業などを中心に情勢が悪化し、10月には3.1%まで上昇した。それでも失業率の上昇ペースが緩やかにとどまったのは、第一に女性の非正規雇用者が離職後に非労働力化したためであり、第二に休業者に対する雇用調整助成金制度の拡充などの政策効果が発揮されたためである。代わって休業者が急増したが、失業者の急増は回避され、その後の景気の持ち直しを受けて、秋にかけて休業者は職場に復帰し、雇用者も再び増加に転じるなど、一段の悪化には歯止めがかかった。
 しかし、緊急事態宣言の発出を受けて、企業や個人事業主の間で景気持ち直しや需要回復への期待感が剥落し、雇用調整の動きが広がる可能性がある。これまで雇用情勢の悪化が緩やかなペースに収まっていたのは、近いうちに感染が収束するとの期待感があり、アフターコロナ期の需要回復を見据えて、雇用人員を確保しておこうとのインセンティブが企業や個人事業主にあったためである。しかし、新型コロナウイルスの感染が始まってからおよそ1年がたち、ウイズコロナ期が想定以上に長期化するとの諦めムードが広がれば、事業の縮小・撤退、店舗閉鎖、廃業・倒産、など、企業の後ろ向きの動きが強まり、雇用情勢の悪化につながる懸念がある。

2021年春闘における賃金改定の見通し

 以上みてきたように、2021年の春闘を取り巻く環境は極めて厳しい。新型コロナウイルスの感染がいつ収束するのか見通しが立たない中で実施されることになるうえ、景気、企業業績とも先行き不透明な状況である。さらに、上期の業績悪化を受けて、希望退職の募集、新卒採用の絞り込み、大幅賃金カットなどの実施に踏み切る企業が増えつつある。
 連合は、ベアで6年連続の2%程度、定期昇給などと合わせて4%程度とする、従来型の春闘の方針を今回も示している。これに対し経団連は、新型コロナウイルスの感染により大きな打撃を受けている業種がある一方で、むしろ増益となった企業もあることを踏まえ、賃金について業種横並びや各社一律の引き上げは現実的ではないとしている。
 厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況について」によれば、2020年の春闘における民間主要企業の賃上げ率は2.00%(前年差▲0.18ポイント)と、かろうじて5年連続で2%を超えたものの、伸び率は大幅に鈍化した。これに対し、多くの企業で賃金を引き上げる余裕はなく、労働組合側としても雇用の維持を優先すると考えられ、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは、2021年の賃上げ率は1.80%とベア部分がほぼゼロの状態に陥ると予想している。

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