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「2020年度日本経済ならびに春季賃金改定の見通し」(2020.2)

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「2020年度日本経済ならびに春季賃金改定の見通し」(2020.2)

株式会社三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
調査部 主席研究員 小林真一郎
(2020年2月18日(東京)2月20日(大阪)春季定例研究会ブックレット「春季賃金交渉関連データ」より)

景況分析と賃金、賞与の動向(25)

日本経済の現状と2020年度の見通し

 国内景気は、消費増税後の個人消費の落ち込みに加え、海外経済の減速を受けて輸出が弱含んでおり、2020年に入ってからは新型肺炎の感染が拡大するなど下振れリスクが強まっているが、それでもなんとか横ばい圏での動きに踏みとどまっている。
 消費増税後の個人消費の動きをみると、家計調査の実質消費支出(2人以上世帯)は、駆け込み需要の反動と大型台風の襲来により10月に前年比▲5.1%と急減し、その後も11月に同▲2.0%、12月に同▲4.8%とマイナスは続いた。それでも前回2014年の増税時は、4月の前年比▲4.6%の後、5月は同▲8.0%とマイナス幅が拡大し、個人消費の低迷が長期化したことと比べると、今回は落ち込み幅が小幅である。さらに、反動減が出やすい大型家電の販売でも、2020年に入ってからは薄型テレビやパソコンなどで順調に持ち直している。

 個人消費の落ち込みが比較的緩やかなのは、食品などへの軽減税率の適用によって駆け込み需要が小さかったうえ、中小舗でのキャッシュレス決済時のポイント還元、プレミアム付き商品券導入などの増税対策の効果や、幼児教育無償化による子育て世帯の負担減によるものと考えられる。
 さらに、増税後の消費者物価指数(全国、生鮮食品を除く総合)は、9月の前年比+0.3%に対し、10月に同+0.4%、12月に同+0.7%と増税を含んでも上昇幅の拡大はわずかであり、家計の痛税感はあまり大きくない。このため、消費増税のマイナスの影響は比較的短期間のうちに一巡すると見込まれ、増税をきっかけに景気が腰折れすることは回避できそうだ。
 海外需要についても、半導体などのICT関連需要が足元で持ち直しており、2020年の輸出を押し上げると期待される。世界的な情報通信機能の強化・拡大の流れが続く中で、これまで調整が続いていたスマートフォンの需要も、5G対応の新機種の投入をきっかけに底入れしており、今後は一段と強まると期待される。

 このように2020年の国内景気は、消費増税による落ち込みを脱した後、7~9月の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、個人消費を中心にイベント効果が高まり、徐々に持ち直していくであろう。レジャー関連支出の増加に加え、薄型テレビなどの販売が高まることや、外国人観光客の増加などが景気を押し上げると期待される。
 秋以降は、こうした東京オリンピック・パラリンピックによる押し上げ効果が剥落し、景気が一時的に停滞する可能性がある。それでも、年明けからの国会で成立すると見込まれる大型の経済対策によって、国土強靭化推進のために公共事業が上積みされ、景気を下支えすると予想される。加えて、首都圏での大型の再開発や、5Gの導入にともなう通信インフラの強化などの投資が続くことも景気にとってプラスである。
 実質GDP成長率で景気の動きを示すと、2019年10~12月期は、駆け込み需要の反動によって個人消費が急減し、大幅なマイナス成長に陥ることは不可避だが、2020年1~3月期には、個人消費の持ち直しや輸出の下げ止まりから、前期比でプラスに転じるであろう。この結果、2019年度の実質GDP成長率は前年比+1.0%と5年連続でプラスを達成する見込みである。

 これに対して、2020年度の実質GDP成長率は前年比+0.6%と伸びは縮小するが、6年連続でプラス成長を維持するであろう。特に年度上期は、堅調な伸びが期待される。
 2020年も景気の最大の下振れリスクは海外経済である。2020年に入り、米中間の貿易交渉で第一段階の合意が成立するなど対立は緩和に向かっている。しかし、今後協議される第二段階については、中国の産業補助政策など構造問題が主題となるため、対立が再び深刻化する可能性は残る。
 さらに、年明け以降は、中国で発生した新型肺炎の感染拡大に伴い、インバウンド需要の落ち込みや、中国の景気が悪化する懸念が高まっている。事態の収束が春先以降にずれ込むことになれば、輸出の減少などを通じて、国内景気にも少なからず影響を及ぼすであろう。
 その他、中東、北朝鮮などの地政学リスク、トランプ大統領と議会との対立や英国のEU離脱問題を巡る欧米での政治的な混乱、香港でのデモの広がり、2020年の米国大統領選の行方などをきっかけに、リスク回避の動きが強まり、世界経済が混乱・悪化する懸念もある。
 このように、世界経済は2020年も国際政治、中でも米国の意向に大きく振り回される状況が続きそうだ。

春闘を取り巻く環境

 次に、春闘の行方を考える上でポイントとなる企業業績、物価、雇用情勢について、足元の動きを確認しておこう。
 まず企業業績であるが、財務省「法人企業統計調査」によれば、経常利益(以下、財務省「法人企業統計」ベースで金融業、保険業を除く)は、2018年度に+6.2%と7年連続で増益を達成した後、2019年度上期は前年比▲9.2%と減益に転じた。業種別では、製造業で同▲22.9%と大幅な減益となる一方、非製造業では同▲0.7%とわずかな減益にとどまった。製造業で業績が特に悪化したのは、輸出不振を背景に売上高が減少しているためである。一方、非製造業では、ゴールデンウィークが10連休となるなどの改元効果や、消費増税前の駆け込みなどが利益の押し上げに寄与した。
 2019年度下期も、企業の経常利益は前年比▲5.1%と減益が続く見込みである。2019年度通期でも▲7.2%となり、8年ぶりの減益に陥る。下期の業種別の経常利益は、製造業で前年比▲3.4%、非製造業で同▲5.9%と、上期から一転して、非製造業の減益幅の方が大きくなりそうだ。これは、製造業では、輸出が持ち直すことや、為替が円安水準で推移していることが悪化幅の縮小につながる一方、非製造業では、消費増税のマイナスの影響が個人消費関連の業種を中心に広がることに加え、暖冬の影響や人件費の負担増加なども業績の下押し要因となる可能性があるためだ。

 二つめに物価動向であるが、先に述べたように、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の伸びは増税後も小幅にとどまっている。2014年3月に前年比+1.3%だった伸びが、4月に一気に同+3.2%に跳ね上って消費者の購買力を急減させた前回の消費増税時と、状況は大きく異なっている。

 三つめが雇用情勢である。完全失業率(季節調整値)は2019年に入ってから2%台前半で安定して推移しており(直近の11月は2.2%)、1992年以来の低水準にある。同じく労働力調査の就業者数(実際に働いている人の数)も、女性および高齢者の労働意欲が高まっていることを反映して足元で過去最高水準を更新中である。企業の人手不足感は引き続き強く、労働需給は極めてタイトな状態が続いている。

2020年春闘における賃金改定の見通し

 厚生労働省による「賃金引き上げ等の実態に関する調査」によると、2019年中に賃金の改定を実施し、または予定している企業の割合は90%を超えた。バブル崩壊後、2000年代前半に、この数字は60%台まで低下していたが、いまでは改定が実施されることが常態化してきている。労働需給が年々タイト化し、人手不足が深刻化する中で、企業が賃金を引き上げざるを得ない状況にあることがうかがえる。

 こうした中、安倍首相は、7年連続で経済界に対して賃上げを要請した。一方、経団連は賃金上昇の勢いは継続する姿勢を示しているが、同時に、新卒一括採用や終身雇用、年功型賃金といった、戦後、長く続いてきた日本型の雇用システムを見直す方針も打ち出している。これは、企業活動がグローバル化し、またデジタル化への対応を迫られるなど、企業経営を取り巻く環境が大きく変化する中で、従来型の賃金体系や賃金の決め方では、企業が求める人材を確保、育成、そして呼び込むことが難しくなっていることを意味している。

 これに対して連合は、ベアで5年連続の2%程度、定期昇給などと合わせて4%程度とする、従来型の春闘の方針を示している。このため、今回の春闘では、賃金の決め方や、交渉の在り方を巡って労使双方の意見が食い違い、協議がなかなか進まない可能性もある。
 厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況について」によれば、2019年の春闘における民間主要企業の賃上げ率は2.18%と前年の2.26%をやや下回ったものの、6年連続で2%を超えた。
 これに対し、2020年の春闘での賃上げ率は2.00%と、雇用情勢の改善が続く半面で、企業業績の悪化、物価の安定といった材料もあり、前年をやや下回る伸びになると予測する。

 一方、企業の打ち出した日本型雇用慣行の見直しは、長年意識に染み込んだ慣行を変えることは容易ではないため、春闘のやり方が一気に変わることはない。それでも、双方の主張がどこまで歩み寄りをみせ、来年以降の春闘にどのように影響していくのか、今年の春闘は賃上げ率以外にも、注目すべき点は多い。

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