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「2016年の日本経済と春季賃金改定の見通し」(2016年2月)

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「2016年の日本経済と春季賃金改定の見通し」(2016年2月)

株式会社三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
調査部 藤田隼平
(2016年2月16日(東京)2月19日(大阪)春季定例研究会ブックレット「春季賃金交渉関連データ」より)

景況分析と賃金、賞与の動向(13)

日本経済の現状と2016年の見通し

 2015年度上期の日本経済は横ばい圏での推移が続いた。 個人消費は天候不順の影響に加え、消費者の節約志向の強まりを受けて弱い動きとなった。

 また、企業業績の改善を背景に増加を期待された設備投資は、内外景気の先行き不透明感が強まる中で投資を先送りする動きがあったことなどから、横ばい圏の推移にとどまった。 加えて、公共投資も14年度補正予算による押し上げ効果が剥落し、7~9月期に減少に転じた。輸出も海外経済の成長が鈍る中で一進一退となった。

 こうした状況は15年度下期も大きくは変わっていない。
個人消費は弱い動きが続いており、総務省「家計調査」によると、10~12月期における二人以上の世帯の実質消費支出は前期比▲1.0%と減少している。企業の生産活動についても持ち直しの動きは鈍く、10~12月期の鉱工業生産指数は前期比+0.6%と小幅の増加にとどまっている。

 他方、明るい材料も一部に見られる。 1つは設備投資の持ち直しである。
日銀短観(15年12月調査)によると、15年度下期の設備投資計画は増加が見込まれており、設備投資に先行する機械受注(船舶・電力を除く民需)も10~12月期に増加に転じる見通しである。

 また、上期に弱さが見られた輸出が電子部品デバイスや自動車を中心に緩やかに持ち直していることも好材料である。 加えて、GDP統計上はサービスの輸出にカウントされる訪日外国人消費(インバウンド消費)が順調に増加していることもプラスである。

 日本政府観光局の発表によると、15年中に日本を訪れた外国人の数は1973.7万人(前年比+47.1%)に上り、観光庁ベースで、インバウンド消費額は3.5兆円(前年比+71.5%)まで増加した。 中国など新興国経済の失速懸念が強まる中で先行きに不安はあるものの、今後もインバウンド消費が国内消費を下支えするとの期待は大きい。

 しかし、GDPの6割を占める個人消費の足元の動きが鈍いことから、そうした明るい材料があっても、15年度下期も国内景気は横ばい圏の動きが続く見通しである。
15年度全体の実質GDPは前年比+1.0%のプラス成長 になると見込まれるが、14年度が消費税率引き上げの影響で同▲1.0%の減少だったことを踏まえると極めて弱い。

 なお、株価が海外経済の減速懸念を受けて年初から急落している。
今後も株価の低迷が続けば、消費者マインドが一段と冷え込むほか、企業の設備投資意欲も後退し、結果的に景気が下振れるリスクもある。

 もっとも、新年度が始まる4月以降は、金融市場の混乱が次第に落ち着き、海外経済が持ち直してくることや、徐々に17年4月の消費税率引き上げが意識される中で増税前の駆け込み需要が出てくることから、国内景気の持ち直しテンポは徐々に強まると見込まれる。

 資源価格の下落によって家計や企業のコストが減少することも、景気にとってはプラスに効くだろう。
このため、16年度の実質GDPの伸び率は前年比+1.3%とやや高まると予測する。

春闘を取り巻く環境

 ここでは、春闘の行方を占う上で重要な、企業業績とマインド、物価、雇用情勢について、足元の動向を整理しておこう。

 まず、企業業績である。財務省「法人企業統計調査」によると、15年度上期の経常利益は上期としては過去最高となった。
製造業、非製造業ともに前年を上回っており、製造業では「食料品」や「石油・石炭」、「情報通信機械 」など、非製造業では「電気業」や「建設業」、「不動産業」などを中心に多くの業種で増加している。 また企業規模別に見ると、経常利益は大企業だけでなく、中小企業でも増加している。

 他方、売上高については、内外需要の弱さを受けて、製造業、非製造業ともに小幅の増加にとどまっている。 売上高が伸び悩む中でも経常利益が増えているのは、収益力の高まりによるものである。
 実際、売上高経常利益率など企業の収益性を図る指標は改善が続いている。

 主因は資源価格の下落によるコスト負担の減少である。原油価格は供給過剰が続く中、需要が落ち込むとの観測が強まっていることから低迷が続いており、ベースメタルや貴金 属など原油以外の資源価格も軟調である。 こうした資源価格の低下は、一部の業種を除けば、企業の利益を拡大させる要因となっている。

 

 企業業績は15年下期以降も改善が続く見通しである。
 売上高は景気の持ち直しが緩やかにとどまる中で引き続き伸び悩むとみられるが、当面は資源価格が低水準で推移することから、企業のコスト負担は引き続き抑えられる とみられ、経常利益は増加傾向が続く。 ただし、企業マインドがさえない点は懸念材料である。日銀短観を見ると、14年4月の消費税率引き上げ以降、企業の景況感は横ばいとなっている。

 さらに、足元では中国など新興国を中心とした世界景気の減速感が強まっており、先行きを慎重に見る企業が増えている。
 こうした状況の下では、企業業績の改善ほどマインドが回復しない恐れがあり、16年春闘では、賃上げに対する企業側の姿勢が厳しくなる可能性がある。

 次に物価であるが、日本銀行がターゲットとしている消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は、15年4月以降、前年比0%前後での推移が続いている。
 食料品など身近な物の値段は上がっているものの、原油価格の下落を受けて、電気代やガス代、ガソリン代などが大きく低下し、全体を押し下げている。

 最後に雇用情勢を確認すると、労働需給は引き続きタイトな状態にある。
総務省「労働力調査」によると、15年10~12月期の完全失業率は3.2%まで低下している。 同期の厚生労働省「一般職業紹介状況」を見ると、有効求人倍率(パートタイムを含む)も1.25倍と、まだバブル景気の余韻が残っていた91~92年並みの水準となっている 。

 今後、景気が持ち直しへと向かう中で、労働需要はさらに増加するとみられるが、雇用のミスマッチの問題から、人手不足の解消はすぐには難しいと考えられる。
 雇用者の増加テンポは緩やかにとどまるとみられ、当面、需給面からは賃金が上がりやすい環境が続くことになりそうだ。

2016年春闘における賃金改定の見通し

 今年の春闘における最大の関心事は、3年連続でベアを含む賃上げが行われるかどうかである。 これまで政府は「経済の好循環の実現」を目指す中で経営側に賃上げを強く要請してきた。 このため、過去2年の春闘は「官製春闘」などと揶揄されたが、厚生労働省の調査によると、15年の民間主要企業の賃上げ率は2.38%と2年連続で2%を超えた。

 また、経団連の調査でも、賃上げ率は大企業で2.52%、中小企業で1.87%と高い伸びとなっている。
大企業の定期昇給分が1.7~1.8%程度とみられることを踏まえると、多くの企業でベースアップ(ベア)が行われた計算である。
 こうした流れは今年も続くと期待される。物価は安定しているものの、人手不足感が強まる中で、企業側も人手を確保するためには賃上げが必要だとの認識を持っている。

 もっとも、経団連が、今年の春闘の方針として「年収ベースでの賃上げ」を検討するよう企業側に要請しているように、賃金の引き上げには前向きながらも、ベア実施に関しては慎重な姿勢を強めている企業が多い。 売上高が伸び悩む中では、利益が増えていても恒久的な人件費の増加につながるベアに積極的になれる企業は決して多くない。 また、足元の中国など新興国を中心とした海外景気の失速懸念の高まりも、春闘を前に企業マインドを冷え込ませている。

 こうした中、今年は現実路線をとる労働組合が目立ち、例年パターン・セッター役(先導役)を担っている金属労協も、前年要求額の半分の3000円の要求にとどめる予定である。 これには、賃上げの原資を下請けの中小企業や非正規労働者にも回してほしいという思惑もあるようだが、奏功するかは不透明である。

 以上を踏まえると、今年の春闘では、過去2年間にベアを実施した企業が多いこともあり、ベアは小幅にとどまる公算が大きい。
 ベアを含めた賃上げを行う企業の数は昨年を下回り、ベアを実施する企業でも、その額は過去2年と比べると小幅にとどまるだろう。
 厚生労働省ベースの賃上げ率は昨年の2.38%を下回る2%台前半になると予測する。

【景況分析と賃金、賞与の動向】は、プライムコンサルタントが主宰する
「成果人事研究会」の研究会資料「プライムブックレット」の内容の一部をご紹介するものです。

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