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『対立』転じて福となすー2ー

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『対立』転じて福となすー2ー

見方を変えれば、世界が変わる(2)

 こんにちは。コンサルタント・中小企業診断士の田中博志です。

 前回は、ある建設会社で実際にあった意見の対立を紹介しました。
 自分の言い分に固執するのではなく、相手が満たそうとしているニーズに耳を傾けることで、相手の主張の理由がわかり、前向きな協力関係が生まれることがご理解いただけたと思います。

 さらに話を進めるために、今回は、架空の製パン会社「プライムデニッシュ」のあるケースを考えます。その上で、対立を協力関係に代えるためのもう一つ重要なポイントを整理したいと思います。

【プライムデニッシュの概要】
 プライムデニッシュの社員は約100人。地方都市に本社・工場を構え、食パンから菓子パンまでさまざまな商品を製造し、スーパー、デパート、コンビニなどに卸しています。
 極力添加物を使わずに素材の味を活かす品質と、多彩な食感を創り出す企画力が受け、顧客は隣接する県を越えて広がっています。

 営業は、小売店ごとに丁寧に対応できるよう、「担当エリア制」をしいています。
 営業担当者は、既存客を維持・深掘りし、新規客を開拓するために、担当エリアの小売店を巡回し、きめ細かな営業活動をしています。

【営業部営業1課に浮上した対立】
 1年ほど前、入社2年目の若手のWさんが担当するエリアで大型の引き合いがありました。
 嬉しいことですが、経験不足のWさんにはとても手に負えません。そこで、急きょ課長のKさんが担当し、見事、受注に成功しました。

 大口顧客が得られたことは喜ばしいのですが、よく考えると、この先も若手の担当エリアで重要案件が出ることが予想されます。
 最近、高層マンションの新築が相次いで、人口が急増する町が増えているからです。

 重要案件のたびにK課長がピンチヒッターで出ることは難しく、かと言って、人口変動に合わせてベテランの担当地域を変えることは非現実的です。

 営業会議で、若手の担当エリアで重要案件が出たときの対応策を話し合ったところ、「若手が担当するべき(Pさん)」という意見と、「ベテランがピンチヒッターで対応するほうがよい(Qさん)」という意見とが対立しました。双方の言い分を、理由を含めて整理すると次のようになります。

  • Pさんの言い分:「若手が経験を積んで成長するために、重要案件でも若手に担当してもらう」
  • Qさんの言い分:「確実に受注するために、重要案件はベテランに担当してもらう」

 これを、前回と同じやり方で図解してみましょう。

 いかがですか。対立する部分と、そうでない部分がはっきりわかりますね。
 1.「どうするか」、つまり「誰が担当すべきか」というところは対立していますが、2.「満たしたいニーズ」、つまり「何のために」という点では対立はありませんね。

 このように整理すると、お互いの考えが良く理解できます。
 実際、Pさんから「確実な受注が大事なことはよくわかります」、Qさんからは「若手の成長はもちろん重要です」との発言がありました。

 前回の建設会社のように、このまま双方のニーズの両立策を協力して考えるように進めば良いのですが、プライムデニッシュではそうなりませんでした。それどころか、次のような発言が飛び出しました。

  • Pさん:「確実な受注も大事ですが、今は、若手の成長の方が重要です! だから若手に担当させるべきです」
  • Qさん:「それは違うと思います! 若手の成長も大事ですが、今は、受注が優先です。 だからベテランに担当してもらうべきです」

 相手の言い分を認めながらも、自分のニーズの優先順位が高いと主張し始めたのです。対立がなかった2つのニーズが、「優先順位」を巡って、次のような対立関係に陥ってしまいました。

 プライムデニッシュの営業部門では、毎年、若手の育成、売上確保の両方が課題になっているので、どちらも後回しにはできません。
 そのため、PさんもQさんも一歩も譲らず、結局、「誰が担当すべきか」という対立に舞い戻って膠着状態になってしまいました。

 やがて、議論をじっと見守っていたK課長が口を開き、双方に次のような質問をしました。

  • K課長:「何のために成長、あるいは受注を優先すべきと思うのですか?」

 二人は次のように答えました。

  • Pさん:「会社が永続的に成長するには、常に、売上を確保できる営業担当者が必要です。だから若手の成長を優先したいのです」
  • Qさん:「会社が永続的に成長するには、常に、財務を安定させる売上が必要です。だから受注を優先したいのです」

 これを聴いたK課長は言いました。
 「わかりました。優先順位についての考えは違うけど、二人とも『会社の永続的な成長のため』を思って言っているのですね」と。

 こうして、二人の主張の間に「会社の永続的な成長」という共通の目的が見えてきました。そこで、K課長は次のような図を描きました。

 そして、二人に次の質問をしました。

  • 「会社が永続的に成長するために、今、若手が経験を積んで成長する必要があると思いますか? と同時に、会社が永続的に成長するために、今、重要案件を確実に受注する必要があると思いますか?」

 もちろん、二人に異論はなく、「はい、両方とも必要だと思います」との答えがかえってきました。

 実はプライムデニッシュは、

  • 若手の営業担当者がなかなか育たない。だから売上が思うように確保できない。
  • 売上が思うように確保できない。だから若手の育成に時間をかけられない。
    という2つの問題を抱え、両者の悪循環が会社の成長をはばんでいました。
     二人は、「会社の永続的な成長のため」という言葉でそのことを思い出し、相手のニーズも後回しにはできないことを直感的に理解したのです。

 二人は、お互いが同じ目的(「共通目的」)に向かって真剣に考えていることに気づきました。
 自分が優先だと主張していたことと同時に、相手のニーズも満たさなければ「会社の永続的な成長」は実現できないことをはっきりと認識したのです。

 果たして、二人の間に、協力して双方のニーズを両立する方策を考えようという気持ちが生まれ、K課長や他のメンバーも一緒になって、「若手の成長」と「受注確保」を両立できるアイディアを話し合いました。
 しばらく「あちらを立てれば、こちらが立たず」を繰り返しましたが、皆が「必ず両立する策が見つかるはずだ」という信念で考え続けた結果、次のような案がまとまりました。

  • 解決策:重要案件には、若手とベテランのペアで対応する

 補足すると、通常はこれまでどおりの担当エリア制で対応するが、若手のエリアで重要案件が出たときは、ベテランを指導・サポート役として選び、若手とペアを組んで対応してもらう。
 誰を選ぶかはそのときの状況で判断する、というアイディアです。
 この解決策を使って、先ほどの図を描きかえると次のようになります。

 これが解決につながるかどうかチェックするために、図の内容をメンバー全員で声に出して読み上げ、違和感がないか確認しました。

  • 「『会社が永続的に成長するために、今、若手が経験を積んで成長する必要がある。そのために、重要案件には、若手とベテランのペアで対応しなければならない』
    と同時に、
  • 『会社が永続的に成長するために、今、重要案件を確実に受注する必要がある。そのために、重要案件には、若手とベテランのペアで対応しなければならない』」

 全員、違和感なくすっきりした感じがするとのことで、この案を採用し、早速、実行に向けて準備を進めることになりました。
 優先順位をめぐる対立関係は見事に解消されたのです。

 このようにして、営業1課は2度の対立を乗り越えて、皆が合意できる結論にたどり着きました。
 このプロセスを振り返ってみましょう。
 1つ目の「誰が担当すべきか」の対立については、お互いの背景にある「満たしたいニーズ」を知り合うことで、一旦、融和のムードになりました。

 ところが、次に、お互いのニーズのどちらを優先すべきかを巡って議論が起き、「誰が担当すべきか」の対立が続いてしまいました。これが2回目の対立でしたね。

 前回の建設会社のように、すぐに協力関係にならなかったのはどうしてでしょう? 
 それは、お互いのニーズを認めながらも、「何がなんでも両立しなければならない」「相手のニーズも欠かすことができない。自分もそれにコミットするんだ」という気持ちには至っていなかったからです。

 言葉は悪いですが、ひょっとすると、二人とも、相手に敬意を表して表面的に相手の立場を認めつつ、本心では自分の主張を通そうとしたのかもしれませんね。

 膠着した議論を打開したのはK課長の、「何のために成長、あるいは受注を優先すべきと思うのですか?」という質問でした。

 二人はこの質問に答えていく中で、お互いが「会社が永続的に成長するため」という「共通目的」を持っていて、その実現には2つのニーズを「同時に満たす必要がある」ことを痛切に感じたのです。
 ポイントは、共通の目的をもち、それを実現するために欠かせないニーズを共有することなのですね。

 このようにして、「どうするか」を巡って「対立」していた関係から、「共通目的」に向かって「協力」する関係に転換し、「双方のニーズ」を満たして共通目的を実現するための「Win-Winの解決策」を見出すことができたのです。
 このようすを図に表すと次のようになります。

 次の図は、これを一般的に描いたものです。

 皆さんのお仕事の中で対立やジレンマが起きたときは、この図を使って見方を変えてみると良いと思います。
 具体的には次のような手順です。

【上の図】・・・お互いが対立している状況を図解する
1) 対立している「採りたい行動」を、DとD'の枠に書き込みます。
2) Dの行動で満たそうとしているニーズをBに書き込みます。
3) D'の行動で満たそうとしているニーズをCに書き込みます。
4) BとCが相反しないことを確認します。
5) Bのニーズの目的とCのニーズの目的を考え、共通点(共通目的)を見つけてAに書き込みます。

【下の図】・・・お互いが協力できる状態を図解する
6) BとCの両方のニーズを同時に満たす方法を考え、解決策の枠に書き込みます。このとき、「Win-Winの方法が必ず見つかるはずだ」との信念を持って考え続けます。
7) 解決策の有効性を確認するために、次の要領で図の内容を声に出して読み上げてみます。
「『Aのために、Bが必要である。そのために、解決策○○を実行しなければならない』と同時に、『Aのために、Cが必要である。そのために、解決策○○を実行しなければならない』」
8) 読み上げて違和感があれば、解決策を修正します。問題なければ解決策を決定し、実行に向けての準備を進めます。

 2回にわたり、「『対立』転じて福となす」と題して身近な対立への対処方法を考えてきました。いかがでしたか?
 少し手間をかけて工夫することで、前向きな協力関係が生まれそうですね。

 ところで、今日はクリスマスイブ。上の図はささやかなプレゼントです。よろしければ、どうぞ使ってみてください。
 そして、今年も残すところあと1週間となりました。この1年間、「強い組織をつくる人材活用・評価・報酬の勘どころ」シリーズをご愛読いただきありがとうございました。

 来年も、皆さまにお役に立てる情報をお届けできるよう、一同、精一杯がんばりますので引き続きよろしくお願い申し上げます。
 では、皆さま、素晴らしい年末年始をお過ごしください。

※本稿は、エリヤフ・ゴールドラット博士が提唱された「制約条件理論(TOC)」の思考プロセスを参考にしています。

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