Unit 26: 労働契約の実務-駆け出しコンサルタントの学習成長ブログ(労働法編)
前回は、労働契約の基本的枠組みについて学習しました。今回は、従業員数50人の企業の例を挙げながら、労働契約の実務を学習します。
労働契約の実務
今回は、労働契約の実務について学習します。従業員数50人の企業の例を紹介しながら、各ポイントについて解説します。
わかりました。具体的な例があると理解しやすいので助かります。
次の表を見てみましょう。これは、ある大手メーカー系列の機械製造業(社員数50名)で行われている労働契約の実務例です。
正社員 | 嘱託(定年後再雇用)社員 | 契約社員 | パートタイム社員 | |
---|---|---|---|---|
労働条件の根拠 | 正社員就業規則 | 嘱託社員就業規則 | 契約社員就業規則 | パートタイム社員就業規則 |
契約期間 | 無期 | 有期(1年間) | 有期(6か月) | 有期(6か月) |
契約更新の有無 | - | 有り(条件付き) | 有り(条件付き) | 有り(条件付き) |
賃金形態 | 月給制 | 月給制 | 月給制 | 時給制 |
週の労働日数 | 5日 | 5日 | 5日 | 2日~4日 |
1日の労働時間 | 8時間 | 8時間 | 8時間 | 4~6時間 |
労働法上の取り扱い | - | 有期契約労働者 | 有期契約労働者 | 有期契約労働者かつ短時間労働者 |
表の見方ですが、正社員、嘱託社員、契約社員、パートタイム社員の4種類の社員が存在するということでしょうか?
そのとおりです。そして、それぞれに適用している主な労働条件を、「契約期間」等の項目ごとに示しています。
なるほど。まず、社員の種類について聞きたいことがあります。私が担当しているあるクライアント企業では、ここで言う嘱託社員のことを「継続雇用社員」と呼んでいるのですが、これは問題ないのでしょうか?
社員の「呼称」に関する質問ですね。何か法律で定められているわけではありませんので、社員の呼称は会社が自由に決めることができます。したがって、継続雇用社員と呼ぶことと嘱託社員と呼ぶことに大きな違いはありません。実際に、定年後再雇用者のことをシニア社員やエルダー社員と呼ぶ会社もあります。
確かに、シニア社員などは聞いたことがあります。
言葉が持つイメージもありますので、社風や文化なども踏まえたうえで、それぞれの企業が適切だと考える名称をつければいいのではないでしょうか。それよりも大切なことは、それぞれの名称で呼ばれている社員の労働条件が、上表のようにしっかりと体系的に整理されていることだと思います。
そうですね。この例ですが、4種類の社員にそれぞれ就業規則が作成・適用されているようですね。
はい。この会社の社員は、正社員が40名、嘱託・契約・パートタイム社員が10名という構成です。もともと一つの就業規則の中にまとめて記載していたのですが、かねてより「それぞれの社員に適用される労働条件の違いが分かりにくい」などと社員からの不満の声がありました。そこで、各社員の働き方や労働条件を横断的に整理したうえで、それぞれ就業規則を作成したのです。表では主な労働条件のみ示しましたが、実際の各就業規則には、さらに細かな違いがあります。
契約期間に関して、正社員以外はすべて有期契約となっていますね。その中でも、嘱託社員は1年間、契約社員とパートタイム社員は6か月間となっていますが、契約期間を使い分けることができるのですか?
契約期間をどのように定めるかも重要な労働条件の一つです。原則として、3年を限度として契約期間は柔軟に設定することが可能です。求人情報等を見ていると、有期契約に関しては3か月、6か月、1年間などの単位で契約期間を定めている会社が多いようですね。ちなみにこの企業では、正社員として定年まで勤め上げた者(その後嘱託社員となる者)については、安心して仕事をお任せできるということもあり、嘱託社員の契約期間を1年に設定しています。それ以上の期間を設ける案もあったそうですが、議論の末、「定年後の人生プランはそれぞれで、社員自身が継続雇用を希望するかどうかは1年ごとに判断してもらう方が都合がよいだろう」という結論に至ったそうです。
そのような事情があったのですね。週の労働日数と1日の労働時間に関しては、正社員、嘱託社員、契約社員は同じで、パートタイム社員だけこれらと比べて短いのですね。
はい。フルタイム勤務とパートタイム勤務の違いです。会社によっては、嘱託社員の勤務日数や時間が正社員と比べて短い場合(パートタイム勤務)もあります。
パートタイム社員だけがパートタイム勤務とは限らないのですね。最後に、表中の「労働法上の取り扱い」とはどういう意味でしょうか?
前述のとおり、ある会社の中での働き方に応じて様々な呼称があるのですが、実は法的には、2種類の判断基準しかありません。それは、①無期契約労働者か有期契約労働者か、②フルタイム労働者か短時間労働者か、の2つです。そして、有期契約労働者または短時間労働者に該当する場合は、「パートタイム・有期雇用労働法※」の適用対象者となるため、労働法上の取り扱いがいわゆる正社員とは少し異なってきます。具体的には、正社員と比較した際に不合理な待遇差を設けてはならないなど、いわゆる同一労働同一賃金について定めているのです。※法施行は2020年4月1日から(中小企業は2021年4月1日から適用)で、現在は「パートタイム労働法」と「労働契約法」という別個の法律として適用されている
企業としては、働き方に応じて様々な労働条件を整理したうえで、同一労働同一賃金を実現していかなければならないのですね。
はい。本日は主な労働条件のみ示しましたが、賃金についてはどのような支給方法で昇給ルールはどう決定されていくのか、賞与や退職金はどのように支給するのかなど、それぞれの働き方の違いに応じて整理しながらルールを作っていく必要があります。つまり、嘱託・契約・パートタイム社員等をも含めた全社横断的な人事制度の構築が求められているのです。
各社員の労働条件があいまいなまま雇用しているような企業にとっては、簡単な話ではなさそうですね。同一労働同一賃金の実現のためには、外部の人事コンサルティング会社の力を借りるなどがよさそうですね。教授、本日はありがとうございました。
同一労働同一賃金の実現、働き方の違いに応じた労働条件の整理に関しては、人事コンサルティングの専門家集団 プライムコンサルタントにご相談ください!
今回の連載内容は、2017年6月6日の講義を参考に執筆しました。
東京労働大学講座「労働契約1」(水町勇一郎 東京大学社会科学研究所教授)
※東京労働大学講座は、独立行政法人労働政策研究・研修機構が毎年度開催している、労働問題に関する知識の普及や理解の促進を目的とした講座です。今年度で66回目を数え、これまでの修了者は27,000人を超える歴史と伝統を誇る講座です(2018年1月時点)。
みなさんこんにちは。人事コンサルタント(社会保険労務士・中小企業診断士)の古川賢治です。