第13回 報酬システム(5)ゾーン型賃金表のメリット

第12回では、当社がお勧めしている「ゾーン型賃金表」の基本的な仕組みについて説明しました。
今回は、これまでの賃金表にはない「ゾーン型賃金表」のきわだった特長について触れたいと思います。
報酬システム(5) ゾーン型賃金表のメリット
(1)バランスのとれた昇給・降給が行える
前回ご紹介したゾーン型賃金表が他の一般的な賃金表と違う点は、実力評価SABCDに対応した賃金の高さを実現する仕組みが組み込まれていることです。
実力評価SABCDとは、役割責任段階の等級ごとに社員の実力レベルを5段階で相対評価する仕組みのことです。その等級の標準・平均的な実力レベルをB評価とし、成績の高い方から順にSABCDの評価ランクを毎年判定します。
例えば、ある社員が入社以来ずっとⅡ等級のB評価を取り続けたとすると、 基本給はⅡ等級の賃金表の上でBゾーンの上限(例えば28万円)に向かって上がっていきます。
しかし、B評価の社員はその金額以上には昇給できません。B評価という実力にふさわしい基本給(28万円)にすでに到達したのであれば、それ以上は昇給させる必要がないからです。
同じようにA評価の人はAゾーンの上限(例えば30万円)まで、C評価の人はCゾーンの上限(例えば26万円)まで昇給したら、それ以上は昇給しないようにしておくことで、一人ひとりの実力レベルに応じた基本給の高さが実現できるようになります。
毎年の昇給号数は、ゾーンと実力評価SABCDの組み合わせで決まります。例えば、基本給がまだ低いEゾーンの人がA評価をとった場合は5号分と大きく昇給しますが、基本給がBゾーンの人がA評価をとった場合は2号分と昇給額は小さくなるようにします。
AゾーンでA評価の人は1号分しか昇給できず、Aゾーンの上限まで来たらA評価であっても昇給はストップします。これによって、賃金の上がりすぎも合理的に防ぐことができます。
さらに、賃金ゾーンより低い評価をとった場合は降給になります。例えばAゾーンの人がB評価を取れば1号分の降給になります。仮にB評価を取り続けた場合、実力に対応したBゾーンの上限まで下がっていきます。
これまでの一般的な賃金表は、「賃金の高さ」とは無関係に昇給が決まるために、高賃金の人がいつまでも昇給が続くような仕組みが多く見受けられました。あるいは逆に、評価がストレートに賃金の高さに直結し、評価の運用にためらいを覚えるほどの急激な昇給・降給を行うアンバランスな仕組みも少なくありません。
ゾーン型の賃金表は、昇給するにしても降給するにしても、実力評価SABCDに応じた賃金の上限に向かって段階的に近づいていく仕組みを使うことで、賃金の高さに応じたバランスのとれた昇給・降給が無理なく行え、行き過ぎた大幅な賃金の変動を防ぐ働きがあります。
生活者の感覚からも十分納得できる実力主義の賃金制度が実現できるようになります。
(2)昇給原資を見通すことができる
さらに、ゾーン型賃金表にはもう一つ別の大きなメリットもあります。
それは、会社として、将来的に必要な昇給原資の大まかな見通しをたてることができるということです。
すでに触れたように、SABCDの評価は等級別の相対評価で行います。標準・平均の評価がBです。
仮に従業員全員が平均のB評価だとすると、全員の基本給がBゾーンの上限に向かって毎年近づいていきます。
例えば現在のⅢ等級に100人いたとして、その平均基本給は25万円だとします。Ⅲ等級の賃金表でBゾーンの上限が30万円に設定されていたとすると、もし全員の等級が変わらなかった場合は、差額の5万円×100人=500万円がⅢ等級で必要となる将来的な昇給原資の総額ということになります。
また、毎年の昇給原資も簡単に試算できます。一人ひとりの昇給額はゾーンと成績によって算出できますので、従業員それぞれが現在のゾーンで仮にB評価を取った場合の昇給額も簡単にわかります。それらを合計すると会社として必要な翌年のおおよその昇給原資が推測できるのです。
同様の作業は、翌々年、さらにその次の年と繰り返し行うこともできますので、数年先にはどれくらいの昇給原資が必要になるのかまでも見通せます。
この昇給原資の見通しがあまりに大きすぎるようであれば、賃金表を設計する時点で金額水準を下方修正すればよいのです。
以上の説明でもうお分かりだと思いますが、賃金表の水準調整の際に重要なポイントとなるのがBゾーンの上限金額です。
ゾーン型賃金表で毎年昇給し続けたとしても、基本給の平均額は各等級のBゾーンの上限を超えることはありません。
したがって賃金表を設定するときは、B評価をとるような標準的な従業員(各等級の人員のボリュームゾーン)をどのくらいの金額まで昇給させるのかということが判断のポイントになります。
もちろん、S評価やA評価を取るような優秀な従業員をどこまで昇給させるのかということも、優秀者にとっての意欲づけとしては重要です。ただし、相対評価ではSやAの人数は多くはありませんので、人件費に与える影響はそれほど大きくありません。
これまで述べてきたような手法を使うと、各人の基本給を組織的に決める基礎がほぼ完璧にできあがります。
基本給決定プロセスを明確に説明できるだけでなく、賃金の低い従業員には昇給の励みを持たせ、賃金の高い従業員には規律と緊張感を保つよう促し、一人ひとりのモチベーションを持たせることができます。
会社として総額人件費をしっかりとコントロールしつつ、長期的にみても安全かつ最適な人件費配分が行える賃金制度を確立することができるのです。
次回は昇格・降格、諸手当についての考えを述べたいと思います。
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