賃金引上げと「人的資本投資」 (ブックレット70号巻頭言)

株式会社プライムコンサルタント代表 菊谷寛之
(2024年6月12日(ハイブリッド開催)夏季定例研究会 ブックレット「はじめに」より)
賃金引上げと「人的資本投資」(38)
今春闘は、予想以上にベアが急加速する歴史的な賃上げとなった。
筆者はその理由は2点あるとみている。一つは物価上昇に対する生活防衛を超えて、積極的な賃上げで「成長と分配の好循環」を実現し、デフレ脱却に勢いをつけようという社会的合意が浸透したこと。もう一つは、人口減少に伴う労働力の将来的な枯渇と高度人材の希少化に気づいた企業が、賃金が低いうちに先手必勝とばかりに「人材の囲い込み」「人への投資」に向けて一斉に動き出したことである。
コロナ禍やウクライナ戦争等に起因する分断は、深刻な部品や原材料等の供給制約による機会損失を露呈し、急速なDX経済の進展は、人手不足のもとで代替がきかない「人的資本」の重要性を企業に気づかせた。近未来の競争激化や日本経済の隘路を見越した勘の鋭い経営者が、経営に余裕があるうちに思いきった人的資本投資の先手を打ち、将来の優位性を確保しようと動き出したとしても不思議ではない。
賃金を引き上げた次の競争の局面は、経営戦略に向けてどのように人材を動員し活躍させるか、その活躍にどう報いて事業の持続的成長につなげるかが焦点となる。
経営戦略の内容は、大きく4つのフェーズで整理するとわかりやすい
⑴ 目的:世の中に役立つ事業を通して、どのように持続的に社会・環境に貢献するかという信念とビジョンを明確にする
⑵ 競争優位:商品・事業の差別化や独自の組織能力など、他社に負けない特徴的なロジックを獲得する
⑶ 組織化:3年・5年先を見据えた経営目標を定め、戦略ロジックを実現する体系的な施策を計画し、人と仕事を組織化してPDCAとダイアログを徹底する
⑷ 分配:高付加価値を実現し、その利益を社会・従業員・取引先・顧客・株主・経営者に適正に分配・還元し、経営戦略の効果性と社会貢献を実証する
ここでの障害は、⑶組織化をめぐる方法論が、「人的資本」を棄損しかねない属人的・年功的な人事慣行のために、明確性を欠く日本企業が多いことである。
経営戦略に連動して実効性のある施策を展開するためには、目標とあるべき組織行動に対して何が足りないのか、いつどんな計画が必要なのかを探究し、着実に打ち手となる施策を繰り出す必要がある。そのミッションや成果に求められる最適人材をクールに予測・定義し、大胆に発掘・登用するとともに、その活躍に応じた待遇で報いることこそ「人的資本」としての人材マネジメントの要諦であろう。
しかしメンバーシップ型の正社員採用や年功的な人事慣行が長年定着している日本では、このような専門的なジョブや成果にフォーカスした「人材活用」よりも、予定調和的な組織運営論に支えられたオールラウンドな「人材育成」が優先されやすい。人事評価もミクロな業務のすり合わせや業務改善、スキル・経験の追認に慣れ親しみ、成果やリーダーシップを大胆に評価することを避けてきたきらいがある。
日本経済は、人口減少の中で脱デフレ・高付加価値経営を模索する新たな変革ステージに入った。人材の活躍を期待して賃金を引き上げるのならば、それにふさわしい人事評価や賃金制度の変革とともに、過去の人事慣行の見直しも不可欠となる。
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