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退職金

著者・米田徹氏のプロフィールはこちら

賢い会社の就業規則・人事規程作成のポイント(31)

Q

今回は退職金規程について解説してください。

A

退職金は、賞与と同様に、法律で支払いが義務付けられるものではありません。

 しかし退職金規程を作り制度として導入している場合には、従業員にとっては重要な労働条件の一つとなります。
 したがって、1)適用される労働者の範囲、2)退職金の決定、計算及び支払の方法、3) 支払い時期、を明確に記載しなければなりません。
 規定内容はかなりの条文数になりますので就業規則の本則とは別に委任規程とするのが一般的だと思います。

例:退職金規程の委任規定
第○条 従業員の退職金に関する事項は、別に定める退職金規程による。

 まず、1)退職金の支給対象になる従業員とは、正社員に限定するのが一般的だと思います。
 その場合には、「正社員に適用する。」又は「パートタイマー・嘱託には適用しない。」など、適用される従業員の範囲を明確にしておく必要があります。
 適用範囲については争いになる場合もあるので十分に留意することが必要です。

 次に、2)退職金の決定、計算の方法については様々な方法があります。
 確定給付型の退職金制度には、「最終給与比例方式」「ポイント制」また「定額制」などがありますし、最近では確定拠出型の退職金制度を採用する企業も増えていると思います。

Q

当社の退職金制度では、退職時の「基本給」に勤続年数に応じた乗率をかけて退職金額を算出する方式だったと思います。

A

そのような方式がもっとも一般的で「最終給与比例方式」の退職金制度といったりすることがあります。

 勤続年数については勤続3年未満の退職は支給しないという場合が多いと思いますし、休職期間、育児・介護休業期間、出向期間などをどのように扱うのかなどを明確にしておかないとトラブルが発生しやすいので注意が必要です。

 ところで退職金の意義については、「功労報償説」、「老後生活保障説」、「賃金後払い説」などがあります。
 定年など会社都合退職の場合に比べ、自己都合退職の場合には一定の減額率を乗じて支払いをするという退職金規定になっている場合も多いと思いますが、これは退職金は「功労報償」的な意味合いがあるとされているので法的にも問題はありません。

 退職理由によって退職金を減額するような退職金規程になっている場合には、退職事由について明確に定めておく必要があります。
 解雇や退職勧奨の場合、休職期間満了による退職の場合、また本人死亡の場合の計算方法などが曖昧になっている規定も見受けられますので注意が必要です。

Q

当社では「懲戒解雇された場合には退職金を不支給にする。」と定めていますが、このような規定で問題はありませんか?

A

自己都合退職の場合に一定の減額が認められているように、「懲戒解雇」の場合には一切退職金を支払わないとする規定が多いと思いますが、実務としては少々問題があるかもしれません。

 退職金の支払いについての裁判例をみると、懲戒解雇が有効な場合でも、「労働者のそれまでの功労を無にするほどの重大な背信性があったか否か」が問題になっています。

 多額の使い込みや著しい背任などの場合は可能でしょうが、それ以外の場合には全額不支給は無効となる可能性があります。
 したがって、「懲戒解雇された場合には、退職金額の減額または支給しない場合がある。」といった規定内容とし、事案に応じて柔軟な対応をとるのが適切だと考えます。

 実際、中退共制度などを使って従業員毎に退職金の積み立てを実施している場合には、懲戒解雇になった社員の退職金支払いについて、会社から中退共に対し減額を請求することはできますが、全額不支給といった扱いはできません。

 ところで、退職後に懲戒解雇事由が判明する場合もあるので、退職金規定では「在職中の行為に懲戒解雇に相当する行為があったときには、一度支給した退職金の返還を求めることができる。」といった規定も入れておくとよいでしょう。

Q

退職金の支払い時期についての定めについては、法律上何らかの制約がありますか?

A

退職金も支給条件が明確になっていれば「労働の対価としての報酬」すなわち賃金としての性格を持ちます。

 労基法では「使用者は、労働者の死亡または退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い...」(労基法23条1項)との規定があります。

 通常の賃金は労務の提供があった後、それに応じて当然要求できる性質のものですので、すぐに(請求があれば7日以内に)支払いが必要になるのです。
 退職金の場合も支払い時期を定めていない場合には退職者から請求があれば7日以内に支払わなければならないのですが、退職金規程に支払い時期を明記すればこの限りではありません。

 実際の規定例を見ると、退職後1ヶ月以内程度のものが多いと思いますが、懲戒解雇事由行為の存在調査などのために退職後2~3ヶ月程度の余裕を設けて定めるのが良いように思います。

Q

退職金については減額や廃止を検討している企業も多いと思います。退職金制度の改定は可能でしょうか?

A

低金利が続く昨今の経済情勢や会社の経営状況悪化により、退職金制度の見直しや廃止を余儀なくされる例も増えています。

 退職金は法的に支払い義務がないといっても、一度規程を定めれば従業員との重要な労働契約の一部になりますから、減額や廃止を行う際には「労働条件の不利益変更」の問題が生じます。
 そこで、少なくとも退職金規程においては、支給額の見直し等について規定しておくことが実務上必要になるでしょう。

例:退職金の減額
第○条 この規程は、会社の経営状況および社会情勢の変化等により必要と認めたときは、支給条件・支給水準等を見直すことがある。

 就業規則の不利益改定を行う場合には、第2回「就業規則の変更と労働契約法」でも説明したように、一定の合理的理由が不可欠になります。

 次回は、「安全衛生」についての規定を検討しましょう。

今回のポイント

  • 退職金制度を定める場合には、①適用される従業員の範囲、②計算方法、③支払い方法や時期を明確に定める。
  • 懲戒解雇された社員に退職金を支給しない旨を定めても、中退共制度などを利用している場合には全額不支給にはできない。(中退共利用以外でも、事案に応じて柔軟に対応することが望ましい)
  • 退職金の支払い時期は解雇事由行為の存在調査などを考慮すると2~3ヶ月程度とするのが無難。
  • 会社の経営状況や社会情勢の変化等で退職金制度を見直すことがある旨を必ず定める。

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