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就業規則と労働契約法

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就業規則と労働契約法

著者・米田徹氏のプロフィールはこちら

賢い会社の就業規則・人事規程作成のポイント(2)

Q

就業規則は労働者への意見聴取は必要だが同意は求められておらず、会社が自由に決めてよいものと解釈していました。従業員が極端に不利になる場合は別としても、若干の不利益変更くらいは問題にならないと思っていたのですがそうではないのですか?

A

労基法89条にも「使用者」は就業規則を作成し、届け出なければならないと定められていますので、就業規則は「使用者(会社)」が作成するということになります。労基署長に届け出る際に、労働者代表(又は労働組合)の意見聴取をしますが、仮に、「同意しない」との意見が書いてあったとしても、そのことだけで労基署が受け付けないということはありません。しかし、特に就業規則を変更する場合、これまでの労働条件を変えるということですから、従業員にとって有利ならともかく不利になるような場合は使用者が勝手に変更するわけにはいきません。この点に関して平成21年3月に施行された「労働契約法」(以下、「労契法」)を検討してみることにしましょう。

 この法律は、近年増加傾向にある個別労働紛争の抑制や未然防止のため、労働契約に関するルールを整え、労働契約を円滑に継続させながら、労働者の保護を図ること等を目的にして制定されています。就業規則の位置づけやその変更について、同法の第6条から第13条に明確な規定がされています。

 まず、当事者の合意により契約が成立することは、契約の一般原則です。労働者が「使用者に使用されて労働」し、使用者がこれに対して「賃金を支払う」ことに合意すれば、労働契約は成立することになります(労契法6条「合意の原則」)。
 契約の際に、その会社に合理的な内容が定められた就業規則があって、それが労働者に周知されていたものであれば、就業規則の内容が労働契約の内容、すなわち「労働条件」になります(労契法7条)。

 それでは、労働者と使用者が、就業規則とは異なる内容の労働条件を個別に合意した場合はどうでしょうか。
 例えば、入社時に会社が就業規則とは異なる内容の「労働条件通知書」や「労働契約書」を渡し、労働者もそれに同意した場合等です。
 その場合には、個別に同意した内容が優先し、その労働者の労働条件になります(労契法7条)。

 しかし、その場合でも就業規則で定める基準以下の内容は、その部分については無効となり、無効になった部分は就業規則で定める基準が優先されるのです(労契法12条)。つまり、これは個別の労働契約による労働条件と就業規則の内容とを比べ有利な方を優先するということに他なりませんね。

 例えば、就業規則では「定年は65歳」と規定されているのに、個別の労働契約書に、「あなたの定年は60歳です。」と書いてあってもそれは無効で、この場合は定年が65歳と有利な労働条件が規定されている就業規則の内容に従うということになります。

 このように就業規則は、その事業場における労働条件の最低基準になる効力を持つことになるのです。(就業規則の持つこのような機能を「最低基準効」と言うことがあります。)
 さらに、就業規則が国の法律や労働組合と締結された労働協約に反する場合、その部分の定めは無効であり、労働者との労働契約には適用されません(労契法13条)。

 次に、一度決めた労働条件や就業規則を変更する場合について考えてみます。
 まず、「労働者と使用者双方が合意」すれば労働契約の内容を変更することは可能です(労契法8条)。

 従業員全員との労働契約の内容(例えば、始業・終業時刻や休暇、賃金や手当に関することなど)を画一的に変更するために、会社は就業規則を変更するわけですが、特に従業員に不利益な改定について、労契法では原則として、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。(労契法9条)」としています。

 つまり会社が就業規則の内容を勝手に不利益な内容に変更しても無効ということで、これは過去の裁判でもそのような判決が多数出されています。労契法は、これまで最高裁などの判例で確立している「判例法理」を法律にしたものと言われているのです。

参考:就業規則の不利益変更に対する最高裁の判決
 「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきである」(秋北バス事件:昭和43年12月25日:最高裁判決)

Q

それでは労働者が同意しないと就業規則の不利益な変更はできないのですか?

A

労働者の合意がなければ就業規則の不利益な変更が一切できないのでは会社も困ることになります。
 そこで労働契約法では例外として、不利益な変更であっても「合理的なものであれば可能」としています(労契法10条)。変更が合理的か否かの判断は、次の事項に照らして個別に判断されることになります。

1.労働者の受ける不利益の程度

2.労働条件の変更の必要性

3.変更後の内容の相当性

4.労働組合等との交渉の状況

 合理性の判断はこのようにやや曖昧ですが、(不利益な)変更の必要性について組合や労働者代表と良く話し合うことが求められているわけです。
 その上で使用者も長期雇用システムの下で労働者の雇用を保障していく必要があるわけですので、労働条件変更権が与えられる必要があるのです。変更する必要性・相当性があって説明や交渉の正当なプロセスを踏んだ上で変更後の内容を労働者に周知させるのであれば、雇用保障とのバランス上、就業規則の不利益な変更も可能ということになります。

  今回は労働契約法と就業規則について説明しました。同法の施行によって、就業規則の重要性は一層高まったといえますね。
 次回は、就業規則に定めなければならない内容や就業規則の届け出に関して注意すべき事項を解説します。

 

今回のポイント

  • 就業規則に合理的な労働条件が定められ、従業員に周知されていれば労働条件としての効力を持つことになる
  • 就業規則はその事業場における労働条件の最低基準になる効力を持つ(「最低基準効」)
  • 労働者と合意することなく使用者が就業規則を一方的に労働者不利な内容に変更することはできない
  • 不利益な変更をする場合には「合理性」(変更の必要性、交渉の状況などいくつかの要件)が必要になる

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