積立年休制度の導入可否と実務上の留意点

第100回ホワイト企業の人事労務ワンポイント解説
Q
当社は従業員約100名の中小企業ですが、社員から、病気等による欠勤に備えるため、失効した年次有給休暇を積み立てる制度の導入を求める声が上がっています。
会社として導入の可否、導入時の留意点、規程作成のポイントについて教えてください。
A
年次有給休暇(以下、「年休」)は原則として付与日から2年で時効により失効します。年休の取得率は年々上昇し、直近(令和5年)では65.3%となっていますが、依然として全日数を取得しきれないケースも少なくありません。年休の買い取りは、退職時の未消化分などを除き原則禁止されているため、年休失効分への対応として積立休暇制度を設ける会社が一定数見られます。
年休の積立休暇制度とは
「年休の積立休暇制度」は、社員が使い切れなかった年休を繰り越し、急な病気・介護・育児など比較的長期的に休養が必要な場合に活用できるようにする制度です。企業が設けるかは任意ですが、社員にとっては安心材料となり、ワークライフバランスやメンタルヘルスの向上に寄与するとともに、会社にとっても働きやすい環境の整備を通じて、従業員満足度やエンゲージメント、生産性の向上につながる効果が期待できます。
近年では、積立休暇の利用目的を疾病や介護に限らず、幅広い用途に認める企業も増えており、福利厚生や働き方改革の一環として注目されています。
導入にあたっては、制度の目的・利用範囲・管理方法などを明確化することが重要です。以下に主な規定項目を示します。
積立休暇制度で定める主な事項
年休の積立制度は法定の休暇ではない任意の制度であるため、名称も「積立有給休暇制度」、「積立休暇制度」、「失効年休積立制度」など、様々な名称が使われています。導入する場合には、就業規則等に以下のような項目を定める必要があります。
| (1) | 定義・目的 | 「年休の積立制度は、時効により消滅する年休を積み立てる制度であり、従業員の労働福祉の向上を目的とする」、等を明記します。 |
| (2) | 適用範囲 | 正規社員、有期雇用社員、パート、定年後再雇用者など、適用する者の範囲を定めます。 |
| (3) | 積立日数の上限 | 無制限に積立てられないように上限を定めます。あえて年休を使わずにためることがないように、 例えば、10~20日程度に留めることが考えられます。 |
| (4) | 取得事由 | この制度は、あくまで従業員の不測の事態に備えた救済制度なので、一定の取得(使用)目的を明確にする必要があります。使用可能な事由としては、「本人の私傷病や治療」、「家族の看護・介護」、「育児」などが考えられます。 また、近年では使用できる目的を広げる企業が多く、「ボランティア活動」、「不妊治療」、「スキルアップや学び直し」を認める企業も増えています。 |
| (5) | 休暇取得の優先順位 | 法定の年休や私傷病休職制度と優先順位の問題が生じますが、積立休暇の取得要件を満たしていれば、 先に取得させることを認めても問題はないでしょう。 ただし、年10日以上の法定の年休付与者には年5日については使用者が時季を指定し、取得させる義務があるので注意が必要です。 |
| (6) | 利用日数の上限 | 1回に取得(使用)できる日数に上限を設ける場合には「○日を限度とする」、等と定めます。 |
| (7) | 休暇期間の取り扱い | 翌年度の年休付与の算定、賞与支給額の算定、退職金支給額の算定、等の際の出勤率計算の取扱いを定めます。欠勤扱いにすることも可能ですが、出勤扱いにするのが望ましいといえるでしょう。 |
| (8) | 申請手続き等 | 申請手続きや、取得単位(1日、半日、時間単位)などを定めます。 |

導入の可否や留意事項
今回の相談企業で積立有給休暇制度の導入を検討する際は、自社の企業風土や年休の取得状況を踏まえることが重要です。厚生労働省の意識調査によると、2024年時点で積立制度を導入している企業は全体で15.7%、従業員数1,000人以上の企業では40.5%に上り、規模の大きい企業ほど導入割合が高いことがわかります。
相談企業は従業員数約100名で、この規模での導入割合は20%未満とされています。導入により労務コストが増える可能性もあるため、社員からの要望があっても制度化の是非は慎重な判断が求められます。一方、同規模・同業他社が未導入の中で失効年休の積立制度を導入すれば、福利厚生面での差別化を図れる利点も期待できます。
ただし積立休暇制度には課題もあります。年休取得率が低かった時代には有効な仕組みでしたが、近年は年休取得率が向上しており、失効年休の積立が「年休をあえて残す」という意識を助長し、年休取得の促進に逆行する恐れが指摘されています。本来、年休はできる限り100%取得することが望ましいと考えられるため、制度の導入にあたってはこの点も考慮し、慎重に検討することが重要です。
プライムコンサルタントでは、本記事のようにWEB会員限定サービスをご提供しています。
「WEB会員」サービスはどなたでも無料でご利用いただけます。
今すぐご登録ください(入会金・会費など一切無料です。また、ご不要であればいつでも退会できます)。

