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歩合給制の導入についての留意事項

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歩合給制の導入についての留意事項

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第69回 ホワイト企業人事労務ワンポイント解説   

Q

当社は建設関連機材の製造・販売を行う中小企業です。営業力を強化し売上向上を図るため、営業職に毎月の売上高に応じた歩合給を支給することを検討しています。月例の固定給とその2~3割程度の歩合給で構成することを考えています。
歩合給制を導入する上での、留意事項についてご教示下さい。

A

どんな職種にも歩合給が導入できる訳ではありませんが、営業職・販売職、また運送業やタクシー運転手など、成果をカウントして何らかの指標・パラメーターに置き換えられる場合には、歩合給の導入が可能です。成果に応じた支払としては賞与の活用が考えられますが、月々支払う歩合給に反映することで営業職員などが日々の売上向上に積極的に取組むことが期待できるため、経営合理性が高いと考える使用者も多いといえます。
ただし、これまで固定給(基本給)で支払っていた給与に出来高による歩合給を新たに導入する場合(基本給+歩合給)には、法的な問題も含め留意点があるので、以下、検討してみましょう。

就業規則の不利益変更の問題

 賃金は労働者にとって最も重要な労働条件の一つです。賃金支払形態を変更する場合、就業規則の変更が伴います。これまで支払っていた給与を保障した上で、新たな歩合給を上乗せするのであれば、特段、問題はありませんが、歩合給支払の原資として、これまで支払ってきた基本給の一部をカットしたり、諸手当の一部を廃止するような場合には、就業規則の不利益変更の問題が生じます。

  歩合給制の導入によって労働者に対する不利益が発生する可能性がある場合には、その変更について労働者に周知し、変更の必要性や合理性を十分説明した上で、合意を得て進めることが望ましいということになります。①厳しい経営環境の下で賃金制度の変更の必要性が高まっていること、②成果を出した社員には従来以上の高い報酬が支払われること、③低評価者の場合、賃金の減額がありうる場合は一定期間の経過措置や賃金減額の際の補填を講じるなどの措置を設けて従業員への十分な説明と交渉を行うこと、などが重要と考えられます。

歩合給と割増賃金

 歩合給を導入する際には、歩合給と割増賃金の関係を理解し、整理する必要があります。歩合給を支払っているので、時間外労働の割増賃金は支払わなくてよい、また労働時間の管理も行わなくてよいと考えている使用者がいますが、これは誤りです。 

 歩合給に対する割増賃金の計算においては通常の賃金の場合とは扱いが異なる点にも注意が必要です。割増賃金を計算する際の単価について、次の規定があります。 

出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額(労基法施行規則19条6号) 

 最後の「総労働時間で除した金額」という部分が、通常の賃金の「所定労働時間で除した金額」と異なります。さらに割増率も通常の「1.0+0.25」ではなく、割増部分の0.2560時間超の場合は0.5、法定休日は0.35)だけの支払になります。これは、歩合給では1.0の部分はすでに支払済みという考え方によるものです。 

 相談者の会社では、固定給(基本給など)と歩合給で賃金を構成することになるので、固定給部分と歩合給部分に対する割増賃金を別々に計算し、それを合算することになります。以下、わかりやすい例で示します。 

例:所定労働時間 160時間/月 残業時間:40時間
固定給:24万円  歩合給(販売実績などによる):6万円
固定給単価 24万円÷160時間=1,500円
歩合給単価 6万円÷(160+40)時間=300円
固定給残業代=1,500円×40時間×1.25=75,000円
歩合給残業代=300円×40時間×0.25=3,000円
残業代合計=75,000円+3,000円=78,000円

 以上のように、歩合給の割合が小さい場合には、歩合給部分に対する割増賃金も少額となりますが、歩合給を導入する上では、上記の割増賃金の計算方法について、きちんと理解して進める必要があります。 


保障給(労基法27条)と算出方法の明確化

 その他、労基法では「出来高払い制その他請負制で使用される労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない(同法27条)」。と規定されています。これは出来高制により変動する労働者の賃金が極端に低額になって労働者の生活が脅かされるおそれがあるため、これを保護するものです。最低賃金をクリアするのは当然ですが、保障給の具体的な額が規定されているわけではなく、目安としては、使用者の責めに帰すべき理由により休業した際に支払うべき休業手当(平均賃金の6割以上)の賃金を保障することが妥当と考えられます。 

 なお、相談者の会社では固定給で支払う部分が賃金総額の78割程度あるので、労基法27条でいう「請負制で使用される労働者」には該当せず、保障給の心配はないと言えます。 

 歩合給の計算を巡っては、国際自動車事件(最一小判令和2.3.30)という裁判がありました。残業があると歩合給から残業代を差し引くとする賃金制度は無効だとして、タクシー運転者らが訴えたものです。最高裁はこの仕組みは労基法の本質を逸脱すると判示し運転者側の主張を認めました。 

 歩合給は、営業職の場合、売上や利益に歩率をかけて求めるなどがシンプルな方法といえますが、算出方法を明確にし、公正な評価を行うことが重要です。その際には、労働者側の意見もよく聞き、過剰な競争や不当な販売手段を生じさせることのない、仕事の達成感や自己実現感が得られる制度を設けることが望ましいと言えます。 



 

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