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「2024年度下半期の景気動向と年末賞与を予測する(2024年11月景況トレンド)

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「2024年度下半期の景気動向と年末賞与を予測する(2024年11月景況トレンド)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
調査部 主席研究員 小林真一郎
(2024年11月7日 秋季定例研究会ブックレット「年末一時金関連データ」より)

景況分析と賃金、賞与の動向(39)

国内景気の現状と展望

 国内景気は内需を中心として緩やかに持ち直している。

 2023年度中は、コロナ禍明け後の需要回復への期待があったものの、物価の上昇を背景に家計の節約志向が強まったため、個人消費を中心に内需が低迷し、景気は足踏み状態が続いた。

 しかし、24年4~6月期の実質GDP成長率が前期比+0.7%(年率換算+2.9%)と堅調な伸びとなり、内需が5四半期ぶりにプラスに転じるなど、24年度に入って足踏み状態を脱し、緩やかな持ち直しに転じたと判断される。中でも個人消費の回復が顕著であり、前期比+0.9%と順調に増加した。認証不正問によって23年末から停止していた自動車の生産が再開された効果が大きかったとはいえ、それ以外の財やサービスへの支出も総じて底堅く増加した。また、企業の設備投資も前期比+0.8%と堅調な伸びとなった。好調な業績を反映して企業の投資意欲の底堅さが維持されている。

 今後も、景気は緩やかな持ち直しが続く見込みであるが、回復の勢いについては、個人消費に左右されることになりそうだ。個人消費を取り巻く環境を見ると、春闘における賃上げ率の高い伸びが徐々に浸透しつつあることに加え、夏のボーナス支給額が堅調に増加し、所得税額の特別控除(定額減税)の実施によって可処分所得が増加するなど、良好な状態にある。今後も賃金の上昇が続き、物価上昇圧力が徐々に鎮静化すると見込まれ、消費者マインドも持ち直し、個人消費の増加基調は維持されよう。また、好業績や人手不足を背景に企業の設備投資意欲が強く、設備投資による景気下支え効果が期待される。

 このため、24年度の実質GDP成長率は+0.6%と、4年連続でプラス成長を達成しよう。前年度の+0.8%から伸び率はやや縮小するが、これは年度初めの水準が低かったためであり、四半期の実質GDPの伸び率は、24年度中は前期比プラスが続く見込みである。

 もっとも、家計の所得が増加したとしても、それが消費の増加につながるとは限らない。中でも、物価高は最大の懸念材料である。

 食料品、エネルギーなどの財については物価上昇ペースが次第に鈍ってきているが、人件費や物流コストの増加などを背景にサービス分野で物価上昇ペースが高まる可能性がある。また、中東情勢の悪化など、地政学リスクの高まりによって原油等のエネルギー価格が上昇する懸念もある。そうした場合、消費者マインドが悪化し、家計の節約志向が一段と強まって再び個人消費が低迷することになりかねない。

 人手不足による供給制約が、景気の拡大を抑制することも心配される。特に、短期間で生産性を向上せることが難しい、宿泊・飲食サービス、医療・福祉、建設、運輸などでは、コロナ禍明け後の需要拡大を受けて人手不足が深刻化しており、実際に企業活動を抑制する要因となっている。 加えて、海外経済、中でも中国と米国において減速の懸念がある。中国では政府の経済対策の効果に対する期待感はあるが、不動産業の低迷が長期化するリスクがある。米国では、足元で景気は底堅く推移しており、ソフトランディングの公算が高まっている。それでも、金融引き締めの長期化によるマイナス効果や大統領選の行方といった政局の不安定化によって、景気が減速する懸念は残る。

年末賞与を取り巻く環境

 以上のような景気の現状と展望を踏まえたうえで、年末賞与に影響する企業業績と雇用情勢の状況をみていこう。

 まず企業業績であるが、23年度の経常利益(以下、財務省「法人企業統計」ベースで金融業、保険業を除く)は前年比+14.6%と順調に増加し、3年連続で過去最高益を更新した。 景気が足踏み状態にあったにもかかわらず企業業績の改善が続いた原因は、様々なコストが増加する一方で、その増加分をある程度、販売価格に転嫁することができたためである。もちろん、値上げによって販売数量は伸び悩んだが、価格引き上げ効果のほうが大きかったため、売上高の増加が続き、それが経常利益の押し上げに寄与した。

 業績改善の動きは、24年度に入っても続いており、4~6月期の経常利益は前年同期比+13.2%となった。業種別の内訳をみると、製造業が同+13.0%、非製造業が同+13.3%といずれも好調な状態を維持している。

 今後も、製造業、非製造業ともに原材料高、物流コスト高、人件費増加といったコスト高が業績を下押しする要因になるとみられる。それでも、景気の緩やかな回復が続くことや、販売価格の引き上げが一定程度可能であることから、業績は底堅く推移する見通しである。

 製造業では、海外景気が次第に持ち直すと期待されることや世界の半導体需要が回復傾向にあること等もプラスに働こう。輸出企業においては、円安が修正されてきたとはいえ、1米ドル=140円台は十分に採算が確保できる水準である。また、非製造業では、春闘での高い賃上げ率を背景に家計の所得環境の改善が進むことや、訪日外国人が堅調な増加を続けること等も、業績を押し上げるだろう。このため、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは、24年度の経常利益は前年度比+11.3%と、4年連続で過去最高益を更新すると予想している。

 次に雇用情勢であるが、労働需給のタイト化は一段と進んでおり、一部の業種では人手不足が深刻な状態にある。総務省「労働力調査」によると、完全失業率(季節調整値)は2020年10月に一時3.1%まで上昇したが、その後は、コロナ禍のマイナスの影響が薄らぐ中で、緩やかな改善傾向に転じている。この間、月次ベースでは2.7%まで上昇する局面もあったが、これはコロナ禍が収束に向かったことで求職活動を再開した人や、より良好な労働条件を求めて離職する人が増えたことによる一時的な現象である。仕事を選ばなければ即座に職に就ける状態にあるため、いったん増えた失業者は着実に減少している。この結果、会社員、公務員といった雇用者数(季節調整値)は、2024年8月に過去最高となる6,138万人まで加し、さらにフリーランス、自営業主、家族従業者なども加えた就業者数も6,791万人と過去最高を更新した。

 今後も景気の持ち直しが続くことで、労働需給のタイト化が一段と進むと予想される。こうした中で、働き方改革関連法による時間外労働時間の上限規制が、2024年4月からは自動車運転業務(年960時間)、建設業(年720時間)にも適用された。業務の効率化・簡素化、企業間での連携推進などの効果によって、現時点では大きな混乱は生じていないが、労働者数を十分に確保できているわけではなく、今後、人手不足による問題が表面化するリスクがある。

 このため完全失業率も再び低下基調をたどると予想され、2023年度平均の2.6%に対し、2024年度平均は2.5%に改善するであろう。月次ベースでは、2.3~2.4%まで低下する可能性もある。

 

2024年の年末賞与の見通し

 以上みてきたように、景気が緩やかに持ち直し、企業業績が好調に推移していることに加え、多くの業種で人手不足感が強まっている。このため、23年度中は鈍かった賃金の増加ペースも、24年度に入ると次第に高まってきた。厚生労働省「毎月勤労統計」における現金給与総額の伸びは、まず4~6月期に前年比+3.0%に拡大した。このうち所定内給与は同+2.1%であり、24年の春闘賃上げ率の高い伸び率が徐々に波及していることが確認される。

 そして6月には同+4.5%まで拡大し、実質でも同+1.1%と27カ月ぶりにプラスに転じた。所定内給与が同+2.2%と伸び率がさらに高まったことに加え、特別給与が+7.8%と急増して全体を押し上げた。特別給与に含まれる夏のボーナスが堅調に増加したと思われるほか、4~5月のベースアップ増加分が遅れて6月に支払われた可能性がある。さらに、7月分も同様の理由から同+3.4%と堅調な伸びを維持し、実質でも同+0.3%と2カ月連続でプラスとなった。特別給与の押し上げ効果剥落により、8月には同+3.0%に鈍化したため、実質では同▲0.6%と再びマイナスとなったが、それでも着実に改善している。

 こうした中、経団連が発表した24年夏季賞与・一時金の最終集計結果によると、大手企業の総平均妥結額(全産業、加重平均)は94万1,595円、前年比+4.23%と2023年の90万3,397円(同+0.47%)から大きく増加した。業種別では、業績の好調な自動車(同+8.38%)などを中心に製造業で98万6,369円(同+3.55%)と堅調に増加したのに対し、非製造業では、電力(同+21.51%)、商業(同+38.39%)、鉄道(同+10.85%)など高い伸びとなった業種が多く、産業平均で83万6,150円(同+7.57%)と急増した。

 以上のように、24年の年末一時金を取り巻く環境は、近年まれに見る良好な状態にある。また、10月以降、最低賃金の改定が実施され、全国平均で1,055円(+51円)と過去最大の引き上げ幅となっていること、新卒採用市場での過熱感を反映して、処遇を積極的に引き上げる企業が増加していることなども、年末一時金の支給増加を促す要因になると思われる。

 このため、24年の年末一時金は夏の伸び率をさらに上回る高い伸びとなる可能性がある。また大企業については、「夏冬型」の企業が多いことから、基本的には夏並みの高い増加率が続くと考えられるが、業績の好調な業種ではさらに積み増される可能性があるだろう。

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