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「2022年度日本経済ならびに春季賃金改定の見通し」(2022.2)

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「2022年度日本経済ならびに春季賃金改定の見通し」(2022.2)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
調査部 主席研究員 小林真一郎
(2022年2月15日 春季定例研究会ブックレット「春季賃金交渉関連データ」より)

景況分析と賃金、賞与の動向(31)

日本経済の現状と2022年度の見通し

 国内景気は、緊急事態宣言の発出と解除、新型コロナウイルスの新規感染者数の増加と減少に合わせて経済活動の制限と緩和が繰り返される中で、緩やかに持ち直している。
 2021年中は、断続的に感染拡大の第3波から第5波が発生し、これに対し1月、4月、7月に合計3回の緊急事態宣言が発出された。この間、経済活動が制限され、人流が抑制される中、宿泊・飲食サービス業、旅客輸送業、旅行業、教養娯楽サービス業など対面型サービス業の需要が落ち込んだ。それでも、感染拡大が一服して緊急事態宣言が解除され、経済活動が再開されると、対面型のサービス需要も持ち直し、その結果として再び感染の拡大を招くことが繰り返された。

 一方、巣ごもり需要の増加や、海外経済の順調な回復を背景に輸出の増加が続くなど、緊急事態宣言下においても財の需要は底堅く推移し、景気を下支えした。このため、短期的に需要が冷え込み、景気の下振れ懸念が強まる局面はあったものの、均してみると景気の緩やかな持ち直し傾向は維持された。

 こうした景気の動きを実質GDP成長率で確認すると、2021年7~9月期には前期比▲0.9%(年率換算▲3.6%)と2四半期ぶりにマイナスとなった。これは、夏場における感染第5波によって個人消費が悪化したことに加え、半導体不足の影響などで自動車の生産、販売、輸出が大きく落ち込んだためである。東京オリンピックについては、無観客での開催となったこともあり、開催期間中の景気へのプラス効果はほとんどなかった。 

 これに対し10~12月期の実質GDP成長率は、プラスに復帰することは確実である。感染第5波の収束で対面型サービスへの支出が大きく持ち直しているほか、自動車の生産制約の解消が景気を押し上げる見込みである。また、企業業績の改善を背景に設備投資も増加に転じると予想されるうえ、2021年冬のボーナスの支給総額が前年比で増加する可能性があるなど、個人消費を取り巻く環境も改善しつつある。
 こうして、いったんは明るい兆しがみえてきた日本経済であるが、2022年に入って、またしても下振れ懸念が強まっている。感染力の極めて強いオミクロン株のまん延により新規感染者数がかつてない勢いで増加しており、まん延防止等重点措置の対象地域が広がっているためだ。
 もっとも、景気は一時的に停滞する可能性はあるものの、失速するには至らないであろう。これは、オミクロン株については重症化するリスクが小さいとされ、医療崩壊の危機にあった第5波の感染拡大時ほど病床使用率は高まっておらず、景気へのマイナス効果が限定される可能性があるためである。実際に、先行して感染が拡大した米欧などでは、それほど大きな経済的なダメージを受けていない。
 また、自動車の挽回生産が計画されていること、半導体等のIT関連財の需要が世界的に強まっていることも、景気を下支えすると期待される。

 このため、感染第6波が収束してくれば、これまで抑制されていた需要が一気に顕在化する、いわゆるリベンジ消費が対面型サービスを中心に現れると考えられる。また、財政支出で55.7兆円と大型の経済対策が打ち出されており、GoToトラベルやイートの再開、18歳以下の子供への10万円相当額の給付金支給といった政策効果が加われば、成長率の押し上げにつながる。

 感染が収束にまで至っていない以上、当面は感染拡大防止と経済活性化を慎重にバランスさせる状況が続くと考えられ、景気の回復ペースが急速に高まることは難しいであろう。加えて、資源高、円安、輸送コスト高を背景に、ガソリン、電気代などのエネルギーや、小麦、砂糖、肉類といった食料品など、消費者の身近なものの値段が上昇しており、消費者マインドの悪化を通じて、リベンジ消費やGoToキャンペーン再開による押し上げ効果に水を差しかねないという懸念はある。それでも、感染拡大防止と経済活動をうまくバランスさせつつ、2022年度も緩やかながらも景気回復の動きが続くと予想される。2022年度の実質GDP成長率は、2021年度の前年比+2.5%に対して+2.8%と前年
を上回る伸び率となるであろう。

春闘を取り巻く環境

 次に、春闘の行方を考える上でポイントとなる企業業績、物価、雇用情勢について、足元の動きを確認しておこう。
 企業の経常利益(以下、財務省「法人企業統計」ベースで金融業、保険業を除く)は、2020年度は前年比▲15.6%と2年連続で減益となったが、下期には改善に転じ、2021年度に入っても改善の動きは続いている。四半期ごとの動きでは、2021年度4~6月期に前年比+93.9%、7~9月期に同+35.1%と前年の状況が厳しかった反動もあって大幅な増益を達成した。もっとも、コロナ禍の影響を強く受ける宿泊・飲食サービス業、旅客輸送業、生活関連サービス業といった対面型サービス業では、依然として厳しい状況が続いており、業種間の格差は拡大したままである。

 2021年度下期も、企業業績は改善が続く見込みである。10~12月期には感染第5波の収束により需要が急回復しており、対面型サービス業でも業績の好転が見込まれる。2022年入り後は、原油などの資源価格高や円安の影響によって売上原価が増加することや、一部の地域でまん延防止等重点措置が適用されることで需要が抑制されるため改善が一時的に頭打ちとなる懸念はある。しかし、輸出増加や自動車の生産増加などのプラス要因もあり、感染第6波の収束とともに再び改善に転じると予想される。2021年度の経常利益は、前年比+26.2%と3年ぶりの増益となる見込みである。 

 二つめに物価動向であるが、資源価格高、円安によって企業の投入価格が上昇しているが、コスト増加分を販売価格に転嫁することは難しく、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の伸びは小幅にとどまっている。それでも、2021年度上期の前年比▲0.3%に対し、ガソリンや電気代などのエネルギー価格や食料品の一部の値上がりを受けて、10~12月期は同+0.4%まで上昇している。携帯通話料の値下げ効果が剥落する2022年春以降はさらに上昇幅が拡大し、1%台半ばまで高まる可能性はあるが、それでもエネルギー価格の押し上げ効果はいずれ一巡する見込みであること、GoToトラベルキャンペーンが復活すれば物価の押し下げに寄与すること、需要の弱いサービス関連では値上げの動きは限定的であることなどから、物価上昇幅の拡大には限界があり、均してみれば今後も物価は安定して推移する見込みである。 

 三つめが雇用情勢である。完全失業率(季節調整値)は2020年10月に3.1%まで上昇したが、その後は低下基調に転じ、失業者数も着実に減少している。コロナ禍において雇用情勢の悪化が小幅にとどまったのは、①雇用調整助成金の特例措置などの政策効果、②緊急事態宣言下においても、企業、事業主が営業再開に向けて前向きな姿勢を失わなかった、③離職後、職探しを行わず専業主婦になるなど非労働力化した人が多かった、④一部の業種では依然として人手不足感が強い、などが原因だと思われる。 

 今後は、需要回復に合わせて対面型サービス業で雇用が増加することに加え、その他の多くの業種ではコロナ禍でも人手不足感が強い状況が続いており、労働需給は徐々にタイト化していくと予想される。感染第6波の影響で一時的に雇用情勢の改善が足踏みとなる可能性があるが、それでも失業率は2021年度末にかけて2%台半ばまで低下するとみている。また、感染第6波が収束し、需要の回復が本格化すれば、一部の業種では人手不足が深刻化し、供給制約に直面する懸念がある。

2022年春闘における賃金改定の見通し

 以上みてきたように、2022年の春闘を取り巻く環境は、前年と比べて大きく改善している。厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」によれば、2021年の民間主要企業の賃上げ率は1.86%(前年差▲0.14ポイント、定期昇給込みの賃上げ額)に鈍化した。これに対して2022年の春闘では、感染の収束が遅れているという不透明要因はあるものの、人手不足感が徐々に高まる中、業績が順調に回復している業種を中心に、企業は賃上げにある程度前向きな姿勢を示すとみられる。
 このため、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは、2022年の賃上げ率は、連合の目指す4%程度、岸田政権から期待されている3%超には至らないものの、2.0%程度と前年実績を上回ると予想している。

 ただし、今回の賃上げ率の拡大が岸田政権の目指す成長と分配の好循環のための第一歩となるかどうかは不透明である。コロナ禍から景気が回復する過程において、それまで抑制されていた反動もあ
って賃金がある程度増加するのは、自然の成り行きでもある。賃金が継続的に増加し、かつ増加幅がさらに拡大していくかどうかは、2022年の感染状況の在り方、景気の動向、企業業績の行方によって決まることになるであろう。

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