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「2024年度日本経済ならびに春季賃金改定の見通し」(2024年2月景況トレンド)

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「2024年度日本経済ならびに春季賃金改定の見通し」(2024年2月景況トレンド)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
調査部 主席研究員 小林真一郎
(2024年2月21日 春季定例研究会ブックレット「春季賃金交渉関連資料」より)

景況分析と賃金、賞与の動向(37)

日本経済の現状と2024年度の見通し

 国内景気は、物価上昇や海外経済の減速による下振れが懸念される中、新型コロナウイルスの感染による景気へのマイナス効果の剥落を受けて緩やかに持ち直しているが、一部に弱さが見られる。

 2023年度になると、新型コロナウイルスの感染拡大に対する警戒感が急速に薄れ、景気へのマイナス効果も次第に後退し、需要の回復の勢いが強まった。中でもコロナ禍で支出が抑制されていた宿泊・飲食サービス業、レジャー・旅行業などの個人向けサービス業、旅客輸送業といった対面型サービス業への需要が一気に増加した。また、先送りされた更新投資や情報化投資に加え、アフターコロナ期を見据えての前向きな投資が増加し、企業の設備投資は底堅く推移し、景気全体を底上げした。この結果、実質GDP成長率は2023年4~6月期に前期比+0.9%と高い伸びとなり、水準も、消費増税前の駆け込み需要で盛り上がった2019年7~9月期を上回って過去最高を更新した。

 しかし、その後の景気回復の足取りは重く、2023年7~9月期に実質GDP成長率は前期比▲0.7 %と3四半期ぶりのマイナス成長に陥った。あくまで景気が緩やかに回復する中でのスピード調整であり、景気腰折れを示唆するものではない。しかし、内容を詳しく見ていくと弱さが目立ち、景気回復力は力強さに欠けることが確認される。

 特に心配されるのが、内需が2四半期連続で前期比マイナスとなった点であり、しかも内需の2本柱である個人消費と設備投資の両者とも2四半期連続でマイナスとなってしまった。2023年度上期は、コロナ禍の影響が剥落し、経済社会活動が正常化に向かって進んでいる時期であったが、その中で内需は減少し続けていたのである。これは、物価高のマイナスの影響によるものである。

 景気が底割れしたわけではないため、実質GDP成長率は2023年10~12月期以降、再びプラス基調に復帰する見込みである。雇用情勢の改善や名目賃金の増加が続いていることや、企業の設備投資意欲が強いことは、個人消費や設備投資など内需の増加を促す要因となる。また、米国を中心に海外経済の下振れリスクが薄らいでいることに加え、自動車の生産制約の解消で個人消費や輸出の増加が期待される。さらに、インバウンド需要の増加が続くことや、世界的な半導体需要が底打ちしていることも景気にとって追い風となろう。

 しかし、依然として物価上昇圧力は高く、消費者マインドが冷え込んで節約志向が強まることによって個人消費が抑制される懸念がある。加えて、これまで景気を押し上げてきたコロナ禍明け後の対面型サービスへの需要回復は概ね一巡したと考えられ、個人消費の急増は期待しづらい。このため、2023年度後半の景気回復は緩やかなペースにとなると見込まれ、2023年度通年での実質GDP成長率は前年比+1.5%と、2022年度の同+1.5%と同じ伸びとなり、経済社会活動が正常化する割には控えめな結果となりそうだ。

 続く2024年度も景気回復は続こうが、下振れ要因が多く、回復ペースの鈍化が心配される。引き続き物価高のマイナスの影響が最大の懸念材料である。政府の物価高対策は2024年4月に打ち切られる予定であり、対策効果剥落後は人件費や物流コストの増加と相まって物価上昇圧力の強い状態が続くと予想される。このため、家計が将来の生活に不安を感じて貯蓄を増加させ、個人消費の伸びが抑制される可能性がある。加えて、海外経済の減速や人手不足を背景とした供給制約といったマイナス材料が加わることで、景気回復テンポが一段と鈍るリスクがある。

 こうした景気の下振れ要因が多い中で、2024年度も景気回復を継続できるかどうかは、物価高の行方と共に、次に述べるように2024年の春闘での賃上げ率に大きく左右されることになろう。

春闘を取り巻く環境

 春闘の行方を考える上でポイントとなるのが、企業業績、物価、雇用情勢である。

 まず、企業業績は順調に拡大している。経常利益(以下、財務省「法人企業統計」ベースで金融業、保険業を除く)は、2022年度に前年度比+8.8%と2年連続での増益となった。金額は94.3兆円に達し、2年連続での過去最高益の更新である。コロナ禍のマイナスの影響が薄らぐ中で、販売価格の引き上げの浸透と、サービス業を中心とした需要の増加が売上高の順調な増加につながったことが、最大の増益要因と考えられる。もっとも、製造業では資源価格高などのコスト高の影響により前年度比+2.6%と小幅増益にとどまったのに対し、非製造業では同+13.0%と大幅な増益となっており、業種間での格差は大きい。

 業績改善の動きは2023年度に入っても維持されており、経常利益は4~6月期に前年比+11.6%、7~9月期に同+20.1%とプラス幅が拡大している。ただし、製造業では、輸出企業を中心に円安のメリットを享受できている一方、中国向けを中心に輸出が伸び悩んだほか、原油等の資源価格高の影響によって仕入れコストが高止まっている影響によって、7~9月期は同▲0.9%と減益となった。一方、非製造業では、コロナ禍明け後の需要増加により、対面型サービス業の業績改善が続いていることや、コスト高の販売価格への転嫁が浸透していることが利益の押し上げに寄与し、同+40.0%と高い伸びが続いている。

 2023年度下期は、製造業、非製造業とも増益が続く見込みである。製造業では、コスト増加が業績の押し下げ要因となったが、資源価格やエネルギー価格のピークアウトにより投入コストが減少する半面で、販売価格の引き上げが徐々に進んできたため、業績は改善へ向かうだろう。

 非製造業においては、コロナ禍明け後の需要回復が一巡するものの、インバウンド需要の増加、コスト上昇分の販売価格への転嫁などが売上高の増加につながると期待され、業績は好調を維持するであろう。ただし、人手不足が深刻化しつつあり、人件費などコスト上昇増加に加え、供給制約によって増加する需要に十分に対応できない懸念がある。

 年度ベースでは、2023年度の経常利益は前年度比+16.2%と2桁の増益となる見通しである。金額も3年連続で過去最高益を更新し、109.6兆円まで増加しよう。この流れは、2024年度も継続される可能性が高い。

 二つめに物価動向であるが、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は、2023年1月に前年同月比+4.2%まで上昇後、物価高対策の効果やエネルギー価格のピークアウトを受けて12月に前年比+2.3%まで低下した。今後もエネルギー価格の下落により伸び率は鈍化していく見通しであるが、人件費や物流コストの増加、円安による輸入物価上昇を販売価格に転嫁する動きが続くため、そのペースは緩やかにとどまろう。2024年に入って、いったん2%を割り込むこともありそうだが、物価高対策効果の剥落により2%台に復帰しよう。再度2%を割り込むのは今年の秋以降になりそうだ。

 三つめが雇用情勢である。総務省「労働力調査」によると、完全失業率(季節調整値)は、2020年10月に3.1%まで悪化した後は低下に転じ、新型コロナウイルスの感染状況に左右されながらも、2023年12月時点で2.4%と低水準にある。2023年初めには、失業者数が増加し、完全失業率も2.8%まで上昇する局面があったが、これはコロナ禍が終息に向かったことで職探しを再開した人や、より良好な労働条件を求めて離職する人が増えたことによる一時的な現象であって、雇用情勢の悪化を示すものではない。むしろ企業の人手不足感は一段と強まっており、選ばなければ即座に職に就ける状態にあり、雇用者数は2023年9月に過去最高を更新した。

 こうした中で、完全失業率も低下基調をたどると予想され、2022年度の2.6%に対し、2023年度は2.6%と横ばいとなった後、2024年度に2.4%に低下するであろう。引き続き労働市場への新規参入者が増加し、就業者の増加に結び付くと考えられるものの、労働力人口の増加にも限界があり、人手不足が一段と深刻化するリスクがある。

 

2024年春闘における賃金改定の見通し

 以上みてきたように、2024年の春闘を取り巻く環境は良好な状態にある。厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」によれば、2023年の民間主要企業賃上げ率は3.60%と30年ぶりの高さとなった。

 これに対して2024年の春闘は、労働需給のタイト化、物価高を背景に賃金が上昇しやすい環境にあり、連合も定期昇給分と合わせて5%以上の賃上げと、前年よりも強気の要求方針を示している。一方、企業側においても、賃上げに積極的な姿勢を示す企業が増加するなど、業績が好調なこともあって賃上げ率の引き上げの動きが広がりつつある。このため、昨年並みの高い賃上げ率が達成される可能性が高まっており、長年の課題であった賃金の上昇を伴った物価上昇が実現できるチャンスが巡ってきている。

 ただし、人件費以外のコスト増加も続く中で、中小企業にとって2年連続で大幅な賃上げに踏み切ることが難しいのも確かである。このため、春闘の賃上げ率ほどは賃金上昇が進まない可能性がある。

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