Unit 4: 職場におけるメンタルヘルス対策とうつ病-駆け出しコンサルタントの学習成長ブログ(人事管理・労働経済編)


前回は、「労働時間管理の現状と課題」について学習し、その中で、企業は社員の安全に配慮する義務があることに触れました。
今回は、「職場におけるメンタルヘルス対策とうつ病」と題し、メンタルヘルス対策に関する法令や、厚生労働省が示している4つのメンタルヘルスケアについて見ていきます。また、うつ病発症者が職場に復帰する際の問題、2つのうつ病のタイプについても学習し、職場におけるうつ病に対する理解を深めていきます。
1.職場におけるメンタルヘルス対策

今回は、「職場におけるメンタルヘルス対策とうつ病」について学習します。突然ですが、職場におけるメンタルヘルス対策と言うと、何をイメージしますか?

例えば、社員の心理的な負担の程度を把握する「ストレスチェック制度」が思い浮かびます。

「ストレスチェック」は、労働安全衛生法の改正によって、2015年12月から毎年1回の実施が義務付けられていますね(常時50人以上を使用する事業場に限る)。その目的は、社員のストレスの状態を事前に把握しておくことで、うつ病などのメンタルヘルス不調を未然に防止することにあります。精神障害による過労死等の労災請求件数は年々増加しており、最近では職場におけるメンタルヘルス対策が注目されています。

確かに、最近は報道でも過労死という言葉を耳にする機会が増えたように思います。ところで、職場でのメンタルヘルス対策に関する法令にはどのようなものがあるのでしょうか?
①メンタルヘルス対策に関する法令

メンタルヘルス対策に関する法令について2つ紹介します。一つは労働安全衛生法であり、この法律は「職場における社員の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進する」ことを目的としています。もう一つは個別労働紛争に関する判例法理を明文化した労働契約法です。
労働安全衛生法 | 労働契約法 |
---|---|
・産業医 ・衛生委員会 ・長時間労働者に対する面接指導等 ・ストレスチェック制度 |
第5条(安全配慮義務) 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」 |

まず、労働安全衛生法に関してですが、常時50人以上を使用する事業場に対しては、先ほど挙げられたストレスチェック制度の実施の他に、産業医や衛生委員会の設置を義務付けることで、社員の健康障害を防止することを図っています。

そういえば先日、あるクライアント企業の方が「もうすぐ社員数が50名を超えるので、労働安全衛生法の手続きが大変になる」と言われていました。確かに企業側は手続き等の負担が増えて大変でしょうが、そのような体制が整備されていれば、働く側は安心して仕事に取り組むことができますね。

次に、労働契約法に関してですが、前回、「企業は社員に対する安全配慮義務を負っている」とお伝えしました。具体的な規定は、上表の第5条の内容のとおりです。ここで言う安全配慮義務には、当然ながらメンタルヘルスに関する問題も含まれています。それを明らかにした、ある有名な判例を一部紹介しましょう。

2000年3月24日の最高裁判決のことでしょうか?その判決には、「使用者は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」との一文があったと思います。

そのとおりです。これによって、企業は社員の身体だけでなく心(精神)の健康にも配慮する義務があることが明言されました。
②4つのメンタルヘルスケア

さて、次はメンタルヘルスケアについて見ていきます。厚生労働省が2002年に実施した「労働者健康状況調査」によると、仕事に関して強い不安や悩み、ストレスを感じる労働者の割合は61.5%であることが分かりました。こうした状況を受けて、メンタルヘルス対策の推進を図ることが重要な課題だと認識した厚生労働省は、2006年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を策定しました。ちなみに上記割合は、2016年に実施された直近の調査では59.5%となっています。

約6割とは驚くべき数ですね!そして指針策定から10年を経た今でも、その水準はほとんど変化していないのですね。引き続き心のケアを進めていかなければならないと思いますが、その指針では、メンタルヘルスケアに関してどのようなことが示されているのでしょうか?

指針では、下表のとおり4つのメンタルヘルスケアが示されています。
種類 | 内容 |
---|---|
セルフケア | 労働者がみずからの心の健康のために行うもの (1)自分のストレスへの気づき (2)ストレスへの対処法の理解と実行 |
ラインによるケア | 職場の管理監督者が労働者に対して行うもの (1)職場環境等の改善 (2)労働者に対する相談対応 |
事業場内産業保健スタッフによるケア | 事業場内の産業保健スタッフ(産業医、衛生管理者等、保健師等)、心の健康づくり専門スタッフ(精神科・心療内科等の医師、心理職等)、人事労務管理スタッフ等が行うもの (1)セルフケア、ラインによるケアに対する支援の提供(相談対応や職場環境等の改善を含む。) (2)心の健康づくり計画に基づく具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案 (3)メンタルヘルスに関する個人情報の取扱い (4)事業場外資源とのネットワークの形成とその窓口となること |
事業場外資源によるケア | 都道府県メンタルヘルス対策支援センター、地域産業保健センター、医療機関他、事業場外でメンタルヘルスケアへの支援を行う機関及び専門家とのネットワークを日頃から形成して活用すること |

なるほど、メンタルヘルスケアと一口に言っても、誰がケアをするのかという観点から4つの種類があるのですね。メンタルヘルス不調に陥る人は、一人でストレスを抱え込んでしまうと言われますので、不調者を早期に発見するためには「ラインによるケア」が特に重要であるように思います。

そうなんです。メンタルヘルスケアにおいても管理監督者(上司)はとても重要な役割を担っているのです。
2.職場におけるうつ病

最後に、メンタルヘルス対策の努力もむなしく、過大なストレス負担によって社員がうつ病を罹患してしまった場合について考えます。

職場におけるうつ病と言えば、休職後の復職がよく問題となりますね。うつ病を罹患した社員の復職は簡単に認めないほうがよいのでしょうか?
①うつ病発症者の復職

うつ病発症者の復職には慎重を期するべきだと考えます。しかしそれは何も、うつ病発症者を職場から排除しようということではなく、企業と社員本人の双方のためを考えてのことです。うつ病を発症する人は概して生真面目な性格の人が多く、復職後には「それまでのブランクを少しでも埋めよう」という思いから仕事を頑張りすぎてしまう傾向があります。

そうすると、仕事におけるストレスからうつ病を発症したわけですから、復職後に急激に張り切りすぎると、うつ病を再発してしまうのではないですか?

そうなのです。実際にうつ病は繰り返し発症しやすい病気であり、初めてうつ病を経験した人の約半数が再発するとも言われています。そのような状況を避け、職場復帰を確実なものとするためにも、1回目の休職できちんと治療を完了し、そのうえで、復職に際しては主治医の許可を得ることがとても重要です。

なるほど、治療をしっかりと終えることと復職前に主治医の許可を得ることが重要なのですね。

また、企業の実務担当者としては、うつ病の2つのタイプについて把握しておくことも重要です。

うつ病のタイプと言うと、「新型うつ」と言われるようなものですか?
②うつ病の2つのタイプ

はい、典型的なタイプである「メランコリー親和型」と新型とも言われる「ディスチミア親和型」の2つです。それぞれ特徴は異なりますが、どちらの場合であっても人事としては同じ対応を取ることが大切です。参考までに、両タイプの違いを次に示します。
メランコリー親和型 | ディスチミア親和型 | |
---|---|---|
年齢層 | 中高年層に多い | 若年層に多い |
主な症状 | 焦燥、抑制、疲弊、罪悪感、常にある自殺企図 | 不全感、倦怠感、回避、他者非難、衝動的な自傷行為 |
性格 | 生真面目、自罰、粘着気質 | 自己愛、他罰、回避的 |
薬への反応 | 比較的に良い | 部分的な効果に終わる |
経過 | 休養と服薬でほぼ回復しやすい | 環境の変化で急速に改善することがある |

メンタルヘルス不調が問題となっている昨今、2つのうつ病のタイプの違いを把握しておくことは、発症者への支援だけでなくうつ病の早期発見にも役立ちそうですね。教授、本日はありがとうございました。
※今回の連載内容は、2017年4月19日の講義を参考に執筆しました。
東京労働大学講座「メンタルヘルス」(大塚泰正 筑波大学人間系心理学域准教授)
※東京労働大学講座は、独立行政法人労働政策研究・研修機構が毎年度開催している、労働問題に関する知識の普及や理解の促進を目的とした講座です。今年度で66回目を数え、これまでの修了者は27,000人を超える歴史と伝統を誇る講座です(2018年1月時点)。
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