中堅・中小企業におけるこれからの管理職のあり方ー29ー

第29回 管理職の成長を支援する効果的な管理職研修とは?(3)
こんにちは。人事コンサルタント・CDA・中小企業診断士の渡辺俊です。
前回は、「管理職研修基本プログラム」の具体的な学習内容の一つ、「キャリアを振り返る」について紹介しました。
今回は、もう一つの、そして最も重要な学習内容である「目標管理の運用」を取り上げます。
1.プログラムの意味とねらい
「目標管理」または「MBO」という言葉は、企業で働く多くの人が知っていることと思います。そしてほとんどの方は、これを評価の一手法だと思われているのではないでしょうか。
下図は、ドラッカーが「現代の経営」や「マネジメント」の中で述べている「経営管理者の仕事」をサイクルで表したものです。「目標管理」とは、このサイクルそのもの、つまり、組織運営のPDCAを回していくツールであり、インフラなのです。
したがって、本研修の「目標管理の運用」というプログラムは、組織運営の当事者である管理職が、その役割を果たすために、ぜひとも学んでおかなければならない必須事項なのです。「管理職研修基本プログラム」の中で、もっとも大切な要素と言ってもいいでしょう。
このプログラムの目的は、ずばり、組織運営の当事者である管理職が、「目標管理」を適切に運用できるようになることです。「目標管理を適切に運営できる」とは、以下の4点に集約できます。
1)組織の目標を示し、その実現に向かって部下が適切な目標を立てられるよう、指導・支援できるようになること(適切な目標とは、組織の方針・目標や、組織の役割・機能・成果に貢献できる目標であり、かつ、本人の成長につながる目標を言います)
2)部下が、目標を自分のものとして主体的にとらえ、その達成に向けて精一杯知恵を絞り、チャレンジするように促し、部下を支えられるようになること
3)一定期間ごとに部下の経験を共有し、良かった点や足りなかった点を部下とともに振り返り、今後の課題に気づいてもらうような関わりができるようになること
4)部下の経験と結果を俯瞰的・総合的にとらえ、自信を持って、部下の成長につながる評価を行い、かつ、部下のさらなるチャレンジ意欲を湧き立たせられるようになること
このプログラムは、以上の4つのポイントを知ってもらい、日常で意識して、実践し始めてもらうことをねらいとしています。
なお、「目標管理」の本質や、その考え方・活用方法の詳細については、 連載第13回から 第14回で詳しく述べていますので、そちらを参照してください。
2.プログラムの概要
このようなねらいのもと、プログラムは下記のような内容で構成しています。
①課題抽出をやってみる
【課題発見のためのワークシート】というツールを使って課題を抽出し、目標を立てる準備をします。
まず、組織全体に目を向けて次のことを整理し、探求していきます。
〇組織の方針・目標を達成するために、また、組織が定常的に担っている役割・機能・成果を実現するために、
〇その達成や実現に向けて、今、どんな問題があって(何に困っていて)、
〇それを解消するために、どんな課題に取り組むべきか
その上で、組織の課題を、誰にどのように役割分担することが、一人ひとりの成長と、組織の課題解決につながりやすいかを考えて、個人の課題に落とし込みます。
最後に、作成した【課題発見のためのワークシート】を、組織のメンバーと共有するロールプレイを行います。各自の課題が組織にどんな貢献をもたらすか、各自の成長にどうつながるのかを丁寧に伝えることで、メンバーが自ら課題に取り組みたくなるような関わり方を、実践的に学びます。
【課題発見のためのワークシート】は、組織責任者自身が描く組織課題解決のストーリーだと言えるでしょう。いきなり個人目標を考えるのではなく、まず、組織としての課題を抽出することから始めることで、組織の成果につながる、取り組みがいのある目標を立てることができるのです。
②目標設定・目標面談をやってみる
作成した【課題発見のためのワークシート】に基づいて、目標設定・振り返り・評価のツールである【成長・振り返りシート】に、管理職本人が自分の目標を作ります。部下に目標を立ててもらうことも念頭に置きながら、適切かつ効果的な目標を立てるためのポイントとその作法を学ぶのです。
また、目標面談のロールプレイも行います。そのために、まず、実際の部下1名を選び、その部下になったつもりで目標を立ててみる、すなわち、その部下の【成長・振り返りシート】を作ってみるというワークを行います。ここでも、部下に目標を立ててもらう際の、指導の観点や要領を学びます。その上で、作った【成長・振り返りシート】を使って目標面談のロールプレイを行います。
目標設定で最も大切なことは、部下自らが、「この目標に取り組んでみたい! 目標を達成したい!」と思えるように、動機づけ、促すことです。ワークとロールプレイを通して、部下が主体的な参加意欲を持てるような関わり方を考えます。
③進捗管理をやってみる
部下の【成長・振り返りシート】を使って期中の進捗管理のロールプレイを行います。そして、どのような場合に、どのような指導・支援をしていけばよいのかを考えます。
目標を達成するという経験は、ほかの何よりも人に成長を実感させるのではないでしょうか。したがって上司は、都度、部下の状況をきちんと把握し、何がうまくいっていて、何が足りないのかを見極め、あの手この手を使って、部下の目標達成を後押ししていかなくてはなりません。
進捗管理は、ドラッカーのサイクルで言えば、「動機づけとコミュニケーションを図る(その結果としてチームで成果を上げる)」ために、日常、継続的に行うものです。目標設定と評価作業ばかりが注目されがちな「目標管理」ですが、実は、進捗管理こそが、ほかのどれよりも、上司の適切かつ十分な関わりが求められる部分なのです。
④振り返り面談と評価をやってみる
部下の【成長・振り返りシート】に、部下になったつもりで、目標の進捗や達成の状況を書いてみます。これを通して、振り返りの観点と記述方法を学び、それを部下にどのように伝えればよいのかを考えます。
また、振り返り面談のロールプレイを行い、部下の評価期間中の取り組み、努力、成長を十分に把握するための関わり方や問いかけの仕方を実践的に学びます。
最後に、振り返り面談で把握したことも踏まえて評価をやってみます。これを通して、評価のやり方とともに、部下の貢献を適正に評価するための、考え方、視点、留意点などを学びます。
振り返り面談で、上司が部下の取り組みを好意的関心を持って真摯に聴くことが、部下にとっての評価の信頼性、納得性を高めることにもつながります。振り返り面談と評価を一体不可分のものとしてとらえ、学んでいくことが大切です。
以上がプログラムの内容ですが、「目標管理の運用」は、この研修だけですぐに身に着くものではありません。たとえば、目標設定から評価までのサイクルが1回転するごとに、その間の管理職としての自身の部下への関わりを振り返る場を持つことをおすすめします。
日常の自身のあり様を定期的に振り返り、次のサイクルに向けて意識を新たに持ち直すことが、目標管理の運用力、つまり、組織運営力の向上につながっていくのです。
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