中堅・中小企業におけるこれからの管理職のあり方ー24ー

第24回 これからのマネジャーに求められるもの(4)
こんにちは。人事コンサルタント・CDA・中小企業診断士の渡辺俊です。
ここまで3回にわたり、『キャリア開発』における管理者の役割について考えてきました。
『キャリア開発』は、組織を構成するメンバー一人ひとりの個性や能力を芽生えさせ、育む支援であり、これからの人と組織の成長に欠かせない施策となると考えられています。ならば、「任された組織の、人とその他の資源を活用し、組織の成果を上げる」というミッションを持つ管理者こそ、この役割を担うべき存在だと言えるでしょう。
しかし、一人ひとりの成長を支援するだけで、組織の成果を高められるわけではありません。組織は、構成メンバー一人ひとりの相互作用で成り立っていますので、お互いが相乗効果を発揮してよりよき成果を生むこともあれば、足をひっぱりあってマイナスの影響が生じることもあるからです。
したがって、これからの管理者には『キャリア開発』に加えて、よりよい相互作用を生み出すための「組織全体への関わり」、すなわち『組織開発』という役割も求められるのではないかと思うのです。
そこで今回から、『組織開発』について考えていきたいと思います。
1.「共感・発見ミーティング」とは何か?
当社はここ数年、「ワールド・カフェ」という組織開発の一手法を取り入れた「共感・発見ミーティング」というプログラムを、多くの企業様で実施しています。
従来私たちは、人事制度構築の依頼を受けた際、ヒアリングという形で、経営者や管理職、メンバーの要望を聴いていました。そこで出てくるのは、あれが悪い、これが問題だ、このようにすべきだ、という声が中心でした。
一見、客観的で冷静な意見のように聞こえますが、実は、それぞれの立場からとらえたものでしかないことが多いため、かみ合わない意見があふれ出るばかりでした。
これを受けて、私たちコンサルタントは、それぞれの利害を調整してうまく解決できる方策や落としどころを探るわけですが、お互いが自説に固執し続けている状況では、結局、どの立場にとっても中途半端ですっきりしない答えに行き着くことが多かったのです。
このように部分的な意見を個別に集めるだけでは建設的な機運は生まれないと考え、このヒアリングに代えて取り入れたのが、「共感・発見ミーティング」です。
これは、「共感・発見」というネーミングに表れているように、さまざまな立場の方々が一堂に会し、それぞれの思いや考えを共有しあう、一つのテーマについて、自身の立場を超え、全体観を持って意見を交わし合う・・そんな意図を持った対話の場です。
「わが社の人事制度・人事施策について考える」という大テーマのもと、「よい職場ってどういうもの?」「私たちの働きがいってなんだろう?」「組織で働くために、大切なことは何か?」など、どんな立場の人でも意見を言いやすい「問い」を用意することで、「社員は会社や仕事に何を求めているのか?」「何が、社員にとってのモチベーションになるのか?」など、働くことの目的や意味を多面的に考え、本質的な動機付けのあり方を探求することを目指すものなのです。
参考:ワールドカフェ風景(Q社ではありません)
2.「共感・発見ミーティング」の実際
ここで、1年半ほど前にQ社で実施した「共感・発見ミーティング」の一例を紹介しましょう。これは、経営チーム(社長と上級管理職からなる組織)のメンバーが集まって、人事制度改定の方向性を探求した事例です。
Q社から人事制度改善の相談を受けた当社は、まず、社長と総務部への実態ヒアリングをもとに問題点を整理し、具体的な解決方法を提案しました。
ところが社長は、解決策に理解を示しながらも、実行をなかなか決心されません。さらにお話を聴いてみると、次のような経営チーム内の関係性が見えてきました。
- 社長が、一部の管理職の意識が低い、ヤル気がないという不満を持っていること
- そのように感じながらも、その不満を、本人達に適切に伝えられていないこと
- 制度を変えれば本人達が変わってくれると思う一方で、変えることでモチベーション・モラルがさらに下がることを懸念していること
人事制度は、社員をある方向に向けて動機づけていくための道具です。したがって、経営者、管轄部門である総務部、運用主体である現場の管理職が、その道具を何のために変えるのかを共有し、自分たちで責任を持って使いこなそうとする意識を持たなければ、せっかく変えても宝の持ち腐れになってしまいます。
それどころか、社員や組織風土に好ましくない影響を及ぼしかねません。そこで、制度改善に着手する前に、まずは社長・幹部・総務による「共感・発見ミーティング」をお奨めしたのです。
参加者は社長を含めた経営チーム全員とし、「わが社の人事制度について考える」というテーマのもと、次の3つの問いについて、問いごとにグループを替えながら、対話をしてもらいました。
問1:あなたがこれまで働いてきて、「面白い! やりがいを感じる! がんばって本当に良かった!」と思えたのは、どんなときですか?
問2:あなたは、わが社がここまでやってくることができた「強み」は、何だったと思いますか? 一方、5年後、10年後のわが社は、何を強みとして顧客の支持を得ていると思いますか? そのとき、どんな人材が活躍していると思いますか?
問3:社員一人ひとりがますます成長・活躍し、わが社が成長するために、現状の人事施策はどのように役立っていますか? また、役立っていない面があるとすれば、それはどんな点で、どのように修正したらよいでしょうか?
「人事制度に対して文句を言いたい!」と手ぐすねひいていた一部の参加者は、このミーティングのあり方や問いの内容に戸惑いを感じたようでした。中には、進め方の要領を説明している段階で、「こんなことをやって、何のためになるのか?」といらだった様子で発言する方もありました。
そんな皆さんの気持ちを受けとめながらも、「とにかくやってみませんか?」と促してスタートを切りました。
すると、次第に打ち解けていき、後半は笑い声も交じって活発な意見交換がなされ、次のような「本音」が表出して共有されたのです。
〇長年、品質のよい製品と、きめ細かな営業力で顧客の支持を得てきたが、それだけではやっていけなくなりつつある(不安)
〇給料は上がらないし、賞与原資は減ってきている(不安・不満)。特に、会社にとって貢献度が高い大切な人材への還元が不十分で、モチベーションダウンや離職につながっている(不安)
〇制度そのものにも問題はあるが、それ以上に、これまでの制度づくりや制度改定の体制や進め方、情報公開の仕方などに問題がある(不満)
その一方で、傍で見ている私たちは、幹部であれば「気にしてほしいのに、話題にのぼらない論点」があることに気づきました。それは、例えば、次のようなものです。
〇給料が上がらず賞与原資が減る背景には、会社の状況・業績の不調があるはずだが、幹部としてその点をどのようにとらえ、どう感じているのか?
〇業績や貢献度に事業間格差、部門間格差があるはずだが、それらをどうとらえ、どう感じているのか?
社長・経営に最も近いはずの幹部でありながら、その点に話が及ばず、不安・不満ばかりを口にするのは、少し不自然な印象がありました。社長の幹部に対する不満は、このあたりにあるのかもしれません。
一方、幹部からこれほどまでに不安・不満が表出するのは、経営チームの中で会社の未来、目指すべき方向が共有できていないからではないかとも感じました。
最後に参加者全員に感想を聴いたところ、下記のような思いが語られました。
一人ひとりからこのような感想が述べられたことで、その場に仲間意識、一体感が生まれ、対話の中で語られた山積する問題に、皆で取り組んでいこうという空気になったように思います。
Q社はその後も、「共感・発見ミーティング」を、テーマを変え、参加者を増やして数回実施し、浮かび上がったアイディアを基盤にして、今、制度改善を推進している最中です。
さて、この「共感・発見ミーティング」にはどんな意味、効果があるのでしょうか? 次回は、それを掘り下げて考えてみたいと思います。
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