適切な人事配置、有効な人材活用のあり方とは?
組織・人事Q&Aーよくあるクライアント企業のお悩み(4)
こんにちは。コンサルタントの渡辺俊です。ようやく、陽の光だけでなく、風にも春が感じられるようになってきました。
じっと寒さをこらえていた梅や沈丁花も、にわかに香り立つこの頃です。
さて今回は、人事配置・人材活用について考えます。
Q
10年ほど前に採用した若手社員たちが、このところ急速に成長してきているのを感じます。
将来のわが社を担う人材として、そろそろ責任あるポジションにつかせたいと思うのですが、ベテラン管理職が健在なので当分の間はポジションに空きがありません。
若手の成長の芽を摘みたくないのですが、どのように対処したらよいでしょうか?
A
役割責任を基軸とした社員区分や役職停年制を活用して、組織の新陳代謝を図るとよい。
ただし昇進昇格や肩書で動機付けることには限界もある。人が活き活きと働くためにもっとも大切なのは仕事そのもの。
仕事を通して成長することに喜びを感じられるような工夫を!
1.若手にチャンスを与え成長を後押しする
多くの会社は、役職体系や等級制度など、何らかの「社員区分」を持っています。
これは組織内のキャリアステップとして、社員の成長段階や役割の違いを明示するものです。人にはもともと成長欲求が備わっていますので、このようなキャリアステップが示されれば、多くの社員は上昇意欲を持つようになります。
学卒新入社員も、10年も経験を積み重ねれば、一人前の仕事ができるようになります。
その間には、他部署、顧客、取引先など、関係先の幅が広がったり、後輩の指導を任されたり、プロジェクトやチームの牽引を担ったりもするでしょう。経験を積めば自信もつき、よりハイレベルな仕事・役割にチャレンジしたくもなってきます。
ところが、社員区分は、多くの場合、評価・処遇のグルーピング(1~3回目に述べてきた会社の内部バランスの基軸)であり、また、指揮命令系統とも重なっているため、下位層のボリュームが大きく、上位になるほど小さいピラミッド型またはビア樽型の人員構成となっています。
特に、管理職となると、ポジションが空かない限り昇格させることができず、イキのいい若手社員が、管理職一歩手前のところで滞留せざるを得ない状況が生まれるのです。
この問題を解消するための手立てとして、役割責任を基軸とした社員区分を採用することが考えられます。
当社は、これを「責任等級制」と呼んで、多くのクライアントに推奨してきました。
責任等級制は、今のわが社の組織編制にとって最適な人事配置を行おうとする考え方です。
実力主義のスポーツ界同様、「今、勝負するためのフォーメーション」を重視しています。
現課長のAさんよりも若手のBさんを配置したほうが組織の成果が高まるのであれば、年齢や勤続に関わりなくBさんを登用し、Aさんは異動または降格します。
もちろん、Aさんに課長を続けてもらうことが最適なのであれば、そのままAさんを配置し続けます。
Bさんはまだ課長になることはできません。
若手かベテランかという発想を超え、実力主義でニュートラルに配置が決まる合理的で、説得力のある考え方です。
これを取り入れれば、優秀な若手をどんどん抜擢することができます。
ただこれは、絶対的エースや不動の4番打者といわれた選手でも比較的短期間のうちに世代交代するような実力主義のプロの世界では自然なことですが、40年以上も現役期間が続く企業の中では、必ずしもなじみやすいものとは言えないようです。
そこで多くの企業が取り入れているのが、「役職停年制」です。
役職への配置を一定の年齢または任期で制限し、若手の登用を早めようというしくみです。
停年に達しても優秀人材・必要人材は継続して配置できるようにするとか、役職を離れた後は後進の育成という重要な役割を付与する、役割が変わっても賃金の激変が起きないよう丁寧な措置を取るなどの工夫をすれば、役職停年者のモチベーションも維持できると思われます。
これをうまく活用すれば、機を逃がさずに若手にチャンスを与えることもできますし、ベテランが指導役に回ることで、組織能力もスムーズに継承されるのではないでしょうか。
2.緻密な昇進・昇格基準の弊害
冒頭でも述べたように、この「社員区分」は、社員にとってのキャリアステップであり、成長欲求を促進するしくみにもなります。
ただ一方で、これが存在することによる弊害もあります。
それは、社員の意識が昇進・昇格ばかりに集中してしまうことです。
キャリアステップの明示によって、社員の上昇志向が喚起されるのはよいのですが、社員はここで、「どうしたら昇格できるのか、昇格するために何をすればよいのか」を、具体的に知りたくなってしまいます。
そして「昇進・昇格の基準を明確にしてほしい」と求めるようになります。
これを私たちは、「昇進・昇格圧力」と呼んでいます。
一方会社は、社員の成長意欲・上昇志向を高めたい反面、全員を昇進・昇格させることはできないので、逆に、昇進・昇格圧力を抑え込もうと、合理的な説明根拠に頼ろうとします。
結果、双方のニーズが合致し、詳細緻密な昇進・昇格基準が作り出されるのです。
専門用語では、現基準をクリアしたかどうかで昇格を認める方式を「卒業方式」と呼び、ひとつ上の基準をクリアしたかどうかで昇格を認める方式を「入学方式」と呼んでいます。
しかしちょっと待ってください。
緻密な昇進・昇格基準を作り、その物差しを使って合理的に昇格の判断をすれば、本当の意味で社員の成長を促進するのでしょうか?
仕事人として真の成長を考えるならば、本人が意識を集中し、真摯に取り組むべきことは昇進・昇格基準ではなく、目の前にある仕事であり、課題です。
目の前にある課題が、本人にとって興味深く、ひきつけられ、ワクワクするものであり、やりがいや満足を感じられる・・・。その時にはじめて、人は、誰に何を言われるまでもなく、その課題に没頭します。
自ら考え、工夫し、仕事をよりよくやろうとします。
難しく、苦しくても、それを乗り越えるパワーがわき、その先に楽しさや喜びを感じます。
それを積み重ねていくところに、結果として生まれるものが「成長」なのです。
ところが、目の前に昇進・昇格基準がちらつくと、社員の心は、本来集中するはずの「今、ここにある仕事」からそらされてしまいます。
「今、ここにある仕事」に無我夢中で取り組む前に、どうしたら昇進・昇格できるかという先のことばかりにとらわれてしまうのです。
会社が社員の成長を促そうと作った基準が、逆に社員の内面に好ましくない影響を及ぼしてしまうとするならば、それは看過できない問題ではないでしょうか。
3.内発的動機と人事施策
会社はいつも、社員の成長を期待し、よりよい方向に動機づける意図を持って、さまざまな人事施策を企画立案し、実行しています。
しかし、前述のように、良かれと思って打った施策が、思わぬ反応や予期せぬ悪影響を及ぼすこともままあります。
それは施策のほとんどが、合理的なしくみや基準、ルールといった形で、社員の心理に外側から働きかけ、ゆさぶり、行動を起こさせようとするものだからではないでしょうか。
人の動き方は、しくみや基準やルールによってコントロールされます。
したがって、何かをさせたり、制限したりする際に、必要・有効なものであることは間違いありません。
しかし、このような外的な刺激による行動には、どこまでいっても他人事だという思いや、やらされ感がつきまとってしまいます。
その結果、意図通りではない反応・影響にもつながりがちなのです。
だから、しくみや基準、ルールを作る際には、社員のヤル気を損ねたり、社員がそれに惑わされ、翻弄されたりしない程度の「ほどほどのもの」にしておくということが、大切なことなのです。
昇進・昇格基準についても、詳細緻密に詰めれば詰めるほど、昇進・昇格を巡って、重箱の隅をつつくようなつまらない議論を引き起こしてしまうこと、それがかえって、社員がのびのびと仕事をするスタンスを阻害しかねないことを、くれぐれもよく知っておいていただきたいと思います。
そして再度強調しておきたいことは、本当に人を動かすのは、内発的動機=心から強くそうしたいと思う気持ちである、ということ。内発的動機が高まれば、人はおのずと主体的に、喜んで行動します。
だとするならば、これからの人事施策は、「社員一人ひとりの内面に働きかけるもの」や、「それぞれの内発的動機が育つ環境を整えること」であるべきではないでしょうか。
それはおそらく、しくみや基準、ルールという枠を超えた、より幅広く奥深いものではないかと思います。
人事配置・人材活用という施策についても、「配置する」ことそのもの(昇進・昇格そのもの)で人を動機づけようとするよりも、「任された仕事そのものが面白い、ワクワクする、やり遂げたくなる、と本人が心から思えるようにするには?」という視点でその運用方法を考えるほうが、より本質的なことなのではないかと思うのです。
さて、ここまで4回にわたり、「経営を支える人事や報酬の考え方の変化」について述べてきました。
キーワードは「内発的動機」。
昨今の人事施策は、ここに焦点を当てたものに変化しつつあることを、感じていただけたでしょうか。
Q&A方式での解説は今回が最後ですが、次回はまとめとして、ここまでに考えてきたことを人事施策、内発的動機、経営成果の関係という視点で整理し、しめくくっていきたいと思います。
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