1. 賃金・評価などの人事コンサルティングならプライムコンサルタント
  2. プライム Cメディア
  3. WEB連載記事
  4. 強い組織を作る!人材活用・評価・報酬の勘どころ
  5. ブラック企業問題と企業を取り巻く環境の変化
  6. ブラック企業問題と企業を取り巻く環境の変化ー8ー

プライムCメディア

ブラック企業問題と企業を取り巻く環境の変化ー8ー

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ブラック企業問題と企業を取り巻く環境の変化ー8ー

ブラック企業問題と企業を取り巻く環境の変化(8) 

 皆さんこんにちは。コンサルタント・社会保険労務士の津留慶幸です。
 前回まで、「サービス残業問題」について解説してきました。
 今回から、広い意味で「サービス残業問題」の1つとも言える、「名ばかり管理職問題」について解説していきたいと思います。

4.名ばかり管理職問題

 「名ばかり管理職」という言葉が注目され、世間に知られるようになったのは「日本マクドナルド事件」の影響が大きいと思います。
 詳しい内容は知らなくても、「日本マクドナルド事件」という言葉や、店長が未払い残業代を求めて会社を訴えた事件があったことはご存知の方も多いのではないでしょうか。

 簡単に説明すると、次のような内容でした。

 会社は店長を管理職として扱い、割増賃金(時間外勤務手当・休日勤務手当)を支給していなかった。店長Aは、自身は管理職に当たらないとして割増賃金を求めて訴えを起こした。
東京地裁は、i)職務内容・権限・責任、ii)勤務態様、iii)待遇面から判断して管理職に当たらないとして、割増賃金と付加金の支払いを命じた。
(詳しくは後述)

 この「日本マクドナルド事件」の東京地裁判決が出たのが平成20年1月ですから、もう6~7年前のことです。
 その後、企業を取り巻く環境は色々と変化してきましたが、「名ばかり管理職問題」は今でも労務トラブルの原因の1つとなっています。

 実際に、私たちが人事制度整備のお手伝いをするときも、必ずと言っていいほど管理職の実態については確認します。
中には「名ばかり管理職」に該当する可能性が高く、そのまま放置しておくとリスクが高いと判断される会社もあります。

 ただこの問題は、残業代の支払い負担の増加はもちろん、組織運営・指揮命令系統にも影響を及ぼすので、なかなか簡単には解決できません。
「名ばかり管理職問題」に適切に対処するには、基本的なことを含めて1つ1つ知識や対応策を確認していく必要があります。

(1)管理職と管理監督者

 「名ばかり管理職問題」を考えるために、まず、名ばかりでない「管理職」とはどのような人のことを指すのかを確認しておきましょう。

 そもそも、「管理職」という言葉は労働基準法上の言葉ではありません。
 労働基準法第41条には、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない者が定められており、その中の1つに

・事業の種類に関わらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
(労働基準法第41条2号)

があります。この「監督若しくは管理の地位にある者」が「管理監督者」と呼ばれています。

 また、この第41条2号が、いわゆる「管理職には残業代が必要ない」という考え方の根拠になっています。
 ただし、ここで注意が必要なのは、「管理職」≠「管理監督者」ということです。人事制度上の「管理職」は会社が自由に定めることができますが、それが労働基準法上の「管理監督者」と必ずしも一致するわけではありません。

 そこで次に、労働基準法上の「管理監督者」とはどのような人を指すのかを確認したいと思います。この点について、労働基準法には明確な定義はありませんが、厚生労働省は

 一般的には部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるものの意であり、名称にとらわれず実態に即して判断すべきものである。

として、次のような考え方を示しています。

・労働時間、休憩、休日等に関する労働基準法の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容・責任・権限を有していること
・現実の勤務態様も、労働時間の規制になじまないようなものであること
・賃金等について、一般労働者と比較してその地位にふさわしい待遇がなされていること

 これらの要素を総合的に判断して、「管理監督者」であるかどうかが判断されることになります。

 しかし、この内容を見ても、やはりよくわからないと思われる方も多いでしょう。
 実際、企業の組織形態や人事制度は多種多様なので、管理監督者を画一的に定めることはなかなかできません。
 そのため、過去の裁判例や関連する行政通達等も交えながら、もう少し詳しく見ていく必要があります。

(2)裁判例

 これまでに数多くの裁判が行われていますが、前述したとおり、「名ばかり管理職問題」が広く知られるようになったきっかけは「日本マクドナルド事件」だと思います。

 誰もが知っている有名企業であることや、一般的に「管理職」として残業代支払いの対象外とされていた店長に残業代支払いが命じられたこともあり、多くのマスコミに取り上げられました。
 その概要は次の通りです。

【日本マクドナルド事件】(平成20年1月28日 東京地裁)

<概要>
 会社は店長を管理職として扱い、割増賃金(時間外勤務手当・休日勤務手当)を支給していなかった。店長Aは、自身は管理職に当たらないとして割増賃金を求めて訴えを起こした。
 東京地裁は次の理由から、店長Aは管理職に当たらないとして、割増賃金約503万円、および付加金約252万円の支払いを命じた。

(1)職務内容・権限・責任
 店舗運営やアルバイトの採用・考課に関する権限はあり、店長会議にも参加しているが、営業時間やメニュー、原材料の仕入先などは本社の指示に従わざるをえず、会社全体の事業運営について経営者と一体的な立場にあるとは言えない。
(2)勤務態様(労働時間の規制になじむか)
 労働時間についての裁量が形式的にはあるが、実際はシフトの都合等により店舗で勤務する時間が長く、出退勤の自由はない。店長の働き方は労働時間の規制になじまないとは言えない。
(3)待遇(給与・賞与等)
 店長はアシスタントマネージャーと異なる報酬体系であったが、その金額差は小さく、店長のほうが勤務時間が長いことなども考慮すれば十分とは言い難い。

 本件のその後の展開が気になるところですが、控訴審の(東京高裁)の途中で和解が成立し、確定判決は定まっていません。
 また、日本マクドナルド社が報酬制度を改定し、店長にも時間外勤務手当や休日勤務手当を支払うようなったことから、当事者間ではこの問題は解決しました。

 ただ、この事件が人事労務管理の世界に与える影響は非常に大きいと言えます。
 特に職務内容・権限・責任について、

会社全体の事業運営について経営者と一体的な立場

ということまで求められるとすると、管理監督者に該当する人は日本中を見渡してもごく一握りしかいないということになります。

 裁判は様々な要素が考慮されるので、この基準が全ての企業に適用されるとは言えませんが、先にご紹介した厚生労働省の見解である、

労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるもの

と比べて会社側に非常に厳しい判断になっています。
 このことから、裁判では厚生労働省の見解以上に会社側に厳しい判決が出る可能性があることを認識しておく必要があります。

 一方、会社側の主張が認められた裁判もあります。

【日本ファースト証券事件】(平成20年2月8日 大阪地裁)

<概要>
 大阪支店の支店長Bは管理職として扱われ、割増賃金(時間外勤務手当・休日勤務手当)は支給されていなかった。
 支店長Bは割増賃金の支払いを求めて訴えを起こしたが、裁判所は支店長Bは管理職に該当するという会社側の主張を認め、請求を棄却した。
 管理職にあたると判断した理由は次の通り。
(1)大阪支店30名以上の部下を統括する地位にあり、会社全体でみても事業経営上重要な職責にあった。
(2)大阪支店の経営方針を定め、部下を指導監督する権限があった。
(3)中途採用者について、実質的に採否を決める権限あった。
(4)人事考課を行い、社員の昇降格に相当な影響力を有していた。
(5)部下の労務管理を行い、一方、自身の出欠勤や労働時間は報告・管理の対象外であった。
(6)部下と比べ賃金が格段に高い(月82万円)。

 証券会社の支店長とファーストフード店の店長を単純に比べることは難しいので、比較というよりも、管理職として認められる要件とはどのようなものかを確認するための一例として見てください。

 この判決では、「日本マクドナルド事件」のように「会社全体の事業運営について、経営者と一体的な立場」までは求めておらず、

大阪支店30名以上の部下を統括する地位にあり、会社全体でみても事業経営上重要な職責にあった
大阪支店の経営方針を定め、部下を指導監督する権限があった

と、大阪支店の経営方針を定め統括する権限を有していることで管理監督者性を認めています。
 もちろん、その他にも権限があることや賃金が高額であることも判断材料になっていると思います。

 以上、労働基準法上の「管理監督者」とはどのようなものかを考えるために、結果の異なる2つの裁判例をご紹介しました。

 繰り返しになりますが、管理監督者性が認められるかどうかは様々な要素から総合的に判断されるので、「こうしておけば100%大丈夫」というような絶対的な答えはありません。
 そこで、自社の状況を点検し、リスクを軽減する目安を得るために、いろいろな裁判例を確認しておくことはとても大切です。

 次回も引き続き、「名ばかり管理職問題」について考えていきたいと思います。

プライムコンサルタントの
コンサルティング

コンサルティング会社と聞くと、「敷居が高い」「中小企業の当社には関係ない」といった考えをお持ちではありませんか?

当社のクライアントの大半は、従業員数が30~300名ほどの中堅・中小のお客様です。
これらのお客様からは「中小企業の実情を理解したうえで的確なアドバイスをくれる」「話をしっかり受け止めようとしてくれる」「いい意味でコンサル会社っぽくなく、何でも相談できる」といった声を多くいただきます。
担当コンサルタントの「親しみやすさ」も、当社の特長の一つです。

会社の規模に関わらず、一社一社のお客様と親身に対話をすることが当社の基本方針。
人事のご相談はもちろん、それに関連する専門知識を持ったコンサルタントがお客様の悩みをしっかり受け止め、人事にまつわるさまざまな課題を解決に導いてまいります。

ぜひ、お気軽にご相談ください。

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

カテゴリ