障がい者が「普通に暮らせる」時代を作る☆特定非営利活動法人トムトム様ー2ー

前回は、トムトムの事業概要や、そこで働く職員の仕事にかける熱い思いについてお伝えしました。
今回は、新たに人事評価制度を設計・導入しようと決断したきっかけや、「法人の理念を実現できているか」に焦点をあてて評価基準を策定したプロセスをお伝えします。(編集部)
特定非営利活動法人トムトム様の工夫(2)
職員の働きを評価する「公平な基準」をつくる
NPO法人トムトムの新たな人事評価・等級・賃金制度を設計するプロジェクトは2014年に始まりました。狙いは、「職員の給料を良くすること、職員に長く勤めてもらうこと」です。
旧制度では、「職員たちの処遇を、幹部たちが繰り返す話し合いで決めて」いました。職員が少ない頃は、それでよかったのかもしれません。しかし120名以上の職員を抱えるまでに成長した組織において、ふさわしいものとは言えないでしょう。「このままでは評価の公平性を保つことができない」。加藤さんには、そんな危機感がありました。
「また『先が見通せない』制度でもありました。職員に長く勤めてもらうには、『この先、こんな仕事をしていると、このぐらいの給与がもらえて、こんな暮らしができる』「評価を具体的に見えるかたちでわかりやすく」と示せる新しい制度が必要だと考えました」
もっとも、旧制度に対する不満の声が高まっていたわけではありません。また当時のトムトムが、採用難や人材流出の問題を抱えていたというわけでもありませんでした。むしろ、現場の職員には「ボランティアでも構わない」というほどの、障がい者支援に対する熱い情熱がありました。
それでも、このタイミングで制度改革に踏み切った背景には、加藤さん自身の「トムトムが将来ずっと存続してほしい」という思いから、部長として強い使命感がありました。
「私が総務部長として50歳を迎える頃でした。人事改革が大変だということはわかっていたので、気力体力のあるうちに、と。『幹部しか職員を評価できない』ままでは、組織のこれからが心配です。後輩たちに、評価のモデルを『置き土産』として残したかったのです」
しかし「プロジェクトは難航する」という予想は的中しました。各事業の職員を集めて業務の洗い出しを再開したものの、施設ごとの業務の違いが邪魔をし、職員それぞれの業務をどう評価すればいいのか、議論が進まないまま2年が経過してしまうのです。
細かい業務内容より「法人の理念を実現できているか」を評価
プロジェクトが再び動き始めたのは、株式会社プライムコンサルタントの菊谷代表の著書を加藤さんが手に取ったことがきっかけです。「これは使えると。藁にもすがる思いでした」。最初は、本を参考にしながらの見よう見まね。「〇〇の仕事の役割を担っている者はリーダー、〇〇の仕事の役割を担っている者はマネジャー」と、組織における仕事の役割責任に基づく5段階の役割等級を明文化しました。これに賃金ランクを対応させ、役割等級ごとの賃金範囲を定めていきました。
「それまでも、等級そのものが存在していました。ただし、その等級にどんな役割を期待するのか、漠然としていました。そのせいで何ができたら、上の等級に上がれるのかも、わからないままだったのです」
この作業において難題だったのは、やはり施設ごとに業務の違いです。つまり、子ども向けの施設と成人向けの施設とで、大きく業務内容が異なるなかで、何を基準にして、職員一人ひとりをどの等級に区分するのか。営利企業と違い、数字で業績を評価しにくいのがNPO法人です。またトムトムの職員は中途採用が多く、年齢も経験値も勤続年数もバラバラです。しかし新しい制度においては、バラバラなはずの職員が同じ等級になることがある。その時の基準は?
「細かい仕事に着目せず、『法人の理念を実現できているか』という基準で見ることにしました。障がいのある方々は、自分のニーズをうまく表現することができません。そのニーズを拾い上げ、支援することがトムトムの理念。さまざまな仕事がありますが、その理念に向かって仕事をしていると考えれば、1つの評価基準に落とし込むことができます。またどの仕事もそうかもしれませんが、福祉もチームワークが重要。チームワークづくりに貢献できているかどうか、これも1つの評価基準になりました」
こうした制度づくりの実務面を牽引したのは、加藤さんです。また月に1度はプライムコンサルタントの菊谷代表が会議に参加。設立当時からトムトムを支援している社会保険労務士の山本奈央さんもサポートに加わり、プロジェクトを推進していきました。しかし、制度の構築や導入、運用は、加藤さんを含むトムトムの幹部4名が核になり、自分たちの手で進めていきました。「誰が欠けてもダメだったと思います」と加藤さん。
「会議のたびに、ドン詰まるんです(笑)。でも、導いてくれる人たちがいましたし、ダメなものはダメ、違うものは違うと言ってくれるので、助かりました」
「自分の頑張りをもっと見てほしい」職員の気持ちに応える
2018年4月にまずは正規職員向けに、そして今年2月から非正規職員にも新しい人事評価・等級・賃金制度が導入されました。導入してまだ1年と少し。加藤さんはまだ制度改革の渦中にいます。「上手くいった」という手応えは、まだ持てないまま。しかしポジティブな変化は確実に感じているようです。
例えば、「評価」への反発が薄れたこと。前述の通り、営利企業と違い、数字で業績を評価しにくいのがNPO法人です。そのため現場の職員には、人を評価すること自体への反発が少なからずあったといいます。しかし5段階の等級ごとの役割責任を明文化したことで、職員の納得度は高まりました。
「年度初めのキャリアアップシート、ステップアップシートなどの提出物も、全員が提出してくれました。以前は現場の仕事が忙しく、『そんなことやっている時間がない』といって、期日までに提出する人が少なかったのです。それが変わりました」
なぜ、職員たちは変わったのでしょう? 加藤さんは続けます。
「『自分の頑張りをもっと見てほしい』という気持ちが生まれたのだと思います。年度初めに提出したキャリアップシートやステップアップシートを使い、年度終わりに振り返りを行います。その結果が評価に繋がり、給与や賞与が決まっていく。こうした提出物があるからこそ、キャリアの『先』を見通すことができるようになり、自分を評価してもらえる。これまでも『自分の頑張りをもっと見てほしい』という気持ちがあったのかもしれません。それが新制度によって満たせるようになったのだと思います」
(次回へ続く)
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