障がい者が「普通に暮らせる」時代を作る☆特定非営利活動法人トムトム様ー1ー

人と組織が自然とイキイキしてくる独自の取り組みや人事施策について紹介する本連載第22回からは、シリーズ8番目の法人となるNPO法人トムトムの工夫を紹介していきます。
今回は、総務部長の加藤氏への取材をもとに、 トムトムがこれまで歩んできた歴史や、人事制度を新たに導入しようと思ったきっかけについてお伝えしていきます。(編集部)
特定非営利活動法人トムトム様の工夫(1)
障がい児向け放課後デイサービスから活動をスタート
特定非営利活動法人トムトムは、神奈川県平塚・茅ヶ崎を拠点に活動するNPO法人です。自閉症やダウン症といった障がいを持つ子どもたちが通う放課後デイサービスや、成人向けの生活介護事業など、在宅の障がい児・者に対する支援を行っています。
トムトムの創設は20年前。それまでこの地域には、障がい児に対する余暇支援の仕組みや制度は、ほとんどありませんでした。乳幼児から幼児までの間は通園施設が用意されているのですが、小学校に上がると放課後は家に帰るほかなかったのです。すると、親子で関わるほかありません。外に出かけて友達と遊びたくても、第三者のサポートなしでは難しいのです。
「『これは普通の暮らしじゃないよね』と思っていたんです」。そう語る加藤里恵さんは、トムトム設立当時からのメンバーの1人です。障がい児の通院施設で知り合った同じ思いを持つ保護者らが任意団体を設立、障がい児に対する支援の必要性を行政に訴える活動を始めました。1999年7月のことです。
以来、障害者福祉をとりまく環境は大きく変わりながらも、一貫して障がいのある人たちの「普通の暮らし」を支援してきたトムトムです。サービス内容の拡大と共に拠点も増え、現在は10箇所に拠点を構えるまでに事業は拡大しています。
しかし今回、特に注目したいのは、このタイミングでトムトムが新しい人事評価・等級・賃金制度の導入を決定したことです。2018年4月にまずは正規職員向けに、そして今年2月から非正規職員にも新人事制度が導入されました。狙いは「給料を良くすること」「職員に長く勤めてもらうこと」。一般的に財政が厳しいとされるNPO法人ですが、職員の「安定的な採用とその後の定着」のため、ひいては事業の継続のため、避けて通れないものとの判断がそこにはありました。
もう1点、注目すべきなのは、新制度の設計、導入、運用を自分たちの手で進めたということです。そこにどんな試行錯誤があったのか。それを知るには、トムトムのこれまでの歩みをもう少し詳しく振り返る必要があります。
法整備とともに活動拠点を増やしていった20年
トムトムの20年間はおおよそ4つの時期に分けることができる。そう加藤さんはいいます。
まずは、貸家を借りて子どもたちを預かり、ともに過ごしたり希望する場所へ出かけたりしていた時期。24時間365日の利用が可能で、利用者や市民が自主的に運営するものでした。「年会費15万円に、一回あたりの利用料が1時間2000円。それと寄付金だけで活動費を賄っていましたが、利用者が増える一方でスタッフの増員も必要になり、経営状態は『息も絶え絶え』でしたね」。
さらなる規模拡大と支持を得るため、新たにNPO法人として再スタートを切ったのが2001年4月。障がい児を支援する団体としては茅ヶ崎ではじめてのNPO法人でした。それでも「職員たちの熱い思いだけで活動し続けるのは限界にきていました。ここまでがトムトムの第一期です」
第二期は、「それまで40年以上変わっていなかった」という法律の整備をきっかけに始まりました。2003年に「支援費制度」が施行されたことです。それまで障がい児の保護者たちの自費で運営費を賄っていましたが、市区町村から支援費の支給を受けられるようになったのです。並行して、利用者の増加にともない活動の拠点を増やしつつ、しっかり収入を得られる基盤を作っていったのがこの第二期だと言えます。
そして第三期がやってきます。トムトム設立当初は小学生だった子どもたちが高校卒業を迎える2009年頃、親たちから「成人向けの施設も作って欲しい」という声があがりました。卒業後の子どもたちはそれぞれ日中活動の場へ就労していきますが、希望する施設に入れるとは限りません。慣れ親しんだトムトムの面々と共に働くことができたら。
そうして誕生したのが、成人向けの就労施設や生活介護事業のための施設でした。この時期にも法整備がありました。障害者自立支援法が障害者総合支援法へと改正され、法律にも基本理念が設定され、今まで取り組んできた、障がい者の「普通の暮らし」を支援するというトムトムの活動とも合致する内容が法律にも明文化されました。福祉事業の内容としても、障がい児の放課後支援が国の事業として制度化されるなどする中で、拠点や事業がさらに増えていきました。
「給与の原資はある。しかし適切に配分する方法がわからなかった」
現在はというと2014年頃から始まる第四期にあたると、加藤さんは言います。ここでも転機がありました。それまで毎月、幹部会議に来ては助言をしてくれていた経験豊富なスーパーバイザーが、多忙で現場から離れていったことです。「一方で、私たちも『自分たちでなんとかしたい』という思いが強くなっていました」。
「給料を良くすること」「職員に長く勤めてもらうこと」を意識するようになったのもこの頃からでした。というのも、「給料が安い」とされる福祉の実態を踏まえて、職員の処遇改善を行った場合に助成金が受けられる制度が始まっていたのです。「要するにキャリアアップ制度というものを障害福祉の世界も取り入れなさい、という動きです」
こうして「新しい人事評価・等級・賃金制度を作る」という話が持ち上がったわけですが、一筋縄で行かないことは加藤さんも承知していました。
なぜなら、それ以前にも新制度づくりを目指しながらもあえなく頓挫したことがあったからです。「まずはここから」と職員一人ひとりの業務内容の洗い出しを始めた段階で、つまずいてしまいました。トムトムには、子ども向けの施設もあれば、成人向けの施設もあります。子どもを預かるのは放課後だけで済みますが、成人向けはそうもいきません。
かといって子ども向け施設のほうが業務負担が軽いとも言えない。また職員に業務内容を書かせてみても、短く書く人もいれば、事細かく書く人もいるという状況。給与を増やすための取り組みのはずが、現場からは「余計な仕事を増やすな」と反発されたほどでした。「給与をあげるための原資はありますし、給与をあげたい気持ちもありました。でも、職員それぞれの業務をどう評価し、どう適切に配分したらいいか、わからなかったのです」。こうして、加藤さんたちの試行錯誤が始まりました。
(次回へ続く)
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