株式会社プライムコンサルタント

労働条件明示で注意すべきポイント

Q

当社では、求人票や募集要項に労働条件を記載し、採用時には就業規則も渡しています。しかし、募集時に示した条件と採用後の条件が一部異なることがあります。
労働条件は、いつ、どのような方法で明示すればよいのでしょうか。また、募集時の条件を変更する場合や、就業規則を交付する場合の留意点を教えてください。

A

募集時に労働条件を明示することは、採用後のトラブルを防ぐための基本的な手続です。実務では、求人票などに記載した「募集時の明示」事項と、労働契約を結ぶ際の「契約内容の明示」事項を区別して捉える必要があります。

募集時に示した条件に変更がある場合には、労働契約を締結する前に変更後の内容を明確に伝え、求職者が十分に理解した上で労働契約を締結することが重要です。
以下では、採用から契約までの主な留意点を整理して解説します。

労働条件の明示は二つの段階で考える

労働者を募集するときには、従事する業務、就業場所、賃金、労働時間、雇用形態などの労働条件を求職者に対して明示しなければなりません(職業安定法5条の3)。そして、採用が決まり労働契約を締結する際には、本人に対し、適用する具体的な労働条件を改めて明示しなければなりません(労基法15条)。

つまり、求人票を出しているだけで、契約締結時の明示を怠ることはできず、労基法で定められた項目を明示しない場合には、30万円以下の罰金の対象となります。

契約締結時に明示すべき項目については労働基準法施行規則に定められています。具体的には、14の項目があり、契約期間、就業場所・業務、労働時間、休日・休暇、賃金、退職に関する事項については、原則として書面等による明示が必要です。

また、短時間又は有期の労働者については、労基法の明示事項に加え、パート・有期労働法上の明示事項(昇給の有無、退職手当や賞与の有無、相談窓口)についても明示する必要があります(※2026年10月からは、後述する「待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨」も追加されました)。

社員に共通する労働条件については、本人に適用される就業規則の該当部分を明らかにした上で、就業規則を交付する方法もあります。ただし、本人ごとの賃金額、就業場所、担当業務などの個別条件については、労働条件通知書等で明示する必要があります。

パート・有期雇用者の採用実務では、厚生労働省のモデル様式などを参考に「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成し、会社と本人が内容を確認したうえで署名する方法がよく用いられます。この際、労働条件通知書、雇用契約書、求人票の内容が相互に矛盾していないかを確認することが重要です。

募集時の条件を変更する場合の注意点

採用選考を進める中で、賃金、勤務場所、担当業務、雇用形態などを当初の募集内容から変更する場合が考えられます。その場合には、職業安定法等により労働契約を結ぶ前に、可能な限り速やかに変更後の条件を求職者に明示しなければなりません。入社直前になって初めて異なる条件を示すような対応は避ける必要があります。

求人票は一般に、その記載だけで直ちに最終的な契約内容が確定するとは限りません。しかし、募集時の条件と異なることを会社がきちんと説明しないまま採用した場合には、労働者は求人票の内容が契約条件であると判断する可能性があります。採用担当者と現場責任者の間で条件を事前にすり合わせておくことが大切といえます。

特に「正社員募集」と表示しながら、実際には有期契約社員として採用する場合や、固定残業代を求人票に適切に表示していない場合は、重大なトラブルになりやすいため特に注意が必要です。

2024年4月以降に追加された明示事項

2024年4月以降、すべての労働者について、雇入れ時に「就業場所」と「従事すべき業務」の変更の範囲を明示することが必要になりました。有期契約労働者については、契約更新時にも明示が必要です。将来、配置転換や転勤を予定している場合は、雇入れ直後の場所・業務だけでなく、契約期間中に変更される可能性がある範囲も記載が必要です。

有期契約労働者については、契約締結時と更新時に、更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容を明示する必要があります。また、無期転換申込権が発生する更新時には、無期転換を申し込めることと、転換後の労働条件を示す必要があります。同じ条件で更新する場合でも、更新時の明示を省略しないようにしてください。

さらに、2026年10月からは、同一労働同一賃金ガイドラインの改正と併せて省令が改正され、上記で触れたパート・有期社員の雇入れ時(契約更新時を含みます)の明示事項として、新たに「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」の明示が必要となりました。

労働条件通知書が古いままになっていて、以上のような新たに追加された明示事項が漏れていないかを確認してください。

労働条件明示に共通するチェックポイント

労働条件の明示を適切に行うためには、次の点を採用手続の標準ルールとしておくことが重要です。

  1. 募集内容との整合……求人票、採用内定通知、労働条件通知書、就業規則の内容を照合する
  2. 変更時の事前説明……変更箇所を明確にし、契約締結前に書面等で明示・説明する
  3. 最新様式への更新……変更の範囲、更新上限、無期転換などの追加事項を漏れなく記載する
  4. 雇用形態への対応……パート・有期、シフト制など、それぞれに必要な明示事項を確認する

労働条件通知書は、採用時に形式的に渡せばよい書類ではありません。採用担当者、配属部門、給与計算担当者が同じ条件を共有し、実際の運用と一致させることが重要です。採用・更新のたびに使用する様式と手順を定期的に点検し、説明不足によるトラブルを未然に防ぎましょう。

 

 著者プロフィール

米田徹

特定社会保険労務士/中小企業診断士。

東京都出身。東京大学理学部卒業後、富士通株式会社に入社。
コンピュータの基本OSの企画・開発に携わったのち、事業改革、人事労務管理、企業年金業務など幅広い分野を担当。平成17年に同社を退職し独立、米田経営労務研究所を開設。
現在は、経営全般・人事賃金制度・退職金制度設計を得意分野とし、「キラリと輝く会社づくり・人づくり」をモットーに中小企業のコンサルティングを中心に活動中。

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