事業主が知っておくべき労災保険の基本知識
Q
全国の学校の休校措置に伴う保護者支援に関し、安倍総理が企業に対し、「有給休暇を取りやすいようにお願いする」旨の発言をされました(2020年2月28日)。
しかし、有休は、従業員がとりたいときに請求するのが原則で、ウィルス対策のために有休を消化したのでは、本来の有休を取れなくなってしまい、有給休暇制度の趣旨に反するのではないかと思いますが、有休として処理してもいいのでしょうか。
ただ、無給というのも従業員に気の毒な気がしますが、休校に伴い休まざるを得ない従業員に対する収入保障について、企業としては何らかの法的義務はあるのでしょうか。
A
①労働基準法に定める年次有給休暇は「労働者の請求する時季に与えなければならない」とされていますから、労働者の請求がない以上、年次有給休暇として処理することはできません。ただし、昨年4月から、年次有給休暇のうち5日については、使用者が時季を定めて付与することができることになっていますから、5日間までについては会社からの付与は可能です。
②労働基準法上、休校による子供の世話のために休まざるを得ない従業員に対する賃金を保障する義務はありません。なお、厚生労働省では、その間の賃金を支払った企業に対する助成(上限1日につき8,330円、3月末まで)をする予定です。
労働基準法は、使用者に対し、
| 採用後6か月以上継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して10労働日の有給休暇を与えるべきこと、その後1年経過ごとに休暇日数を増やし6年後には20日とし、その後は毎年20日与えるべきこと |
を義務づけています(第39条第1項、第2項)。
この年次有給休暇は、
| 労働者の請求する時季に与えなければならない。 |
とされています(第5項)。
ただし、これには次のような例外があります。
①事業の正常な運営を妨げる場合
労働者が請求した時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者は他の時季に与えることができます。すなわち、労働者が請求した時季ではなく「別の時季にしてくれ」と変更することができます。これを「時季変更権」といいます。
②労使協定をした場合
過半数労働組合または過半数代表者と協定をしたときは、年次有給休暇日数のうち5日を超える日数については、その協定で定める方法により、協定で定める時季に与えることができます。
労使協定による年次有給休暇の付与方式には、・一斉付与方式、・グループ別の交代制付与方式、・計画表による個人別付与方式等があります。
③使用者からの時季指定
昨年4月の改正により、年次有給休暇の日数のうち5日については使用者が時季指定をして労働者に年次有給休暇を取得させなければならないことになりました。なお、上記②の労使協定によって取得する年次有給休暇のうち5日については、使用者からの時季指定として取り扱うことができます。
年次有給休暇は、上記①~③によって付与する場合を除き、「労働者の請求する時季」に与えなければなりません。
休校による子供の世話のために労働者が休みを取る場合に、本人が年次有給休暇を請求しておらず、上記①~③のどれにも当たらない場合には、年次有給休暇として処理することはできません。
「有給休暇を取りやすいようにお願いする」旨の総理の発言については、ネットにおいても同様の疑問が呈されているようですが、総理は、労働基準法第39条に規定された「年次有給休暇」の取得のことを指して言われたのではないと思います。
「有給休暇」という語は、労働基準法上の年次有給休暇と受け取ることももちろん可能ですが、単に「有給の休暇」という意味で言っておられるとも解釈できます。
「労働基準法上の年次有給休暇」と明確に発言されたのであればともかく、「有給休暇と言ったのは労働基準法上の年次有給休暇に違いない」と決めつけるのは少々早計なのではないでしょうか。
いずれにしても、総理の発言の趣旨は「欠勤扱いはせずに有給で休めるように配慮いただきたい」というほどのことであり、「労働基準法上の年次有給休暇を取得させるように」というまでの趣旨ではないと思います。

労働者が勤務をしなかった場合で、使用者が賃金(休業手当を含む)の支払い義務を負うのは、次の場合です。
①労働者が年次有給休暇を取得した場合
②使用者の責めに帰すべき事由によって労働者を休業させた場合(労働基準法第26条)
③就業規則等によって有給であることが定められた休暇(特別休暇等)
使用者は、上記①の場合は年次有給休暇を取得した日の賃金の支払い義務を、②の場合は休業させた日1日について平均賃金の6割以上の休業手当の支払い義務を負います。
①と②は労働基準法によって定められた義務です。
③は、就業規則の定め等労使間の約束によって支払い義務が生じるものです。そのような定めがない場合は、賃金支払い義務はありません。
休校により、子供が低学年の場合で学童保育等が利用できない場合は、保護者が勤務を休んで子供の面倒を見ざるを得ないケースが考えられますが、そのための欠務は、②の「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には該当しません。
また、そのようなケースについて③の就業規則等に定められている場合は、使用者に支払い義務が生じますが、そのような定めがない場合は、支払い義務は生じません。
労働者が年次有給休暇を請求した場合は、労働者が保有する年次有給休暇の日数の範囲で請求に応じ、その間の賃金を支払わなければなりません。
労働者が年次有給休暇を請求しない限り、会社が当該欠務について収入保障をしなければならない義務は生じません。
ただ、今回の休校に伴う労働者の欠務を有給の休暇(年次有給休暇ではない)として取り扱った企業に対し、子供が小学生である等一定の条件を満たす労働者にその間に支払った賃金について、1日8,330円を上限として、国が助成する予定で準備作業中です。
このことを念頭に置き、できるだけ賃金保障を行うことが望ましいことですが、今後の推移には十分留意してください。
労働者が勤務をしなかった場合で、使用者が賃金(休業手当を含む)の支払い義務を負うのは、次の場合です。
質問にはありませんが、自社の労働者が感染した場合等の賃金、休業手当の支払い義務について、簡単に触れておきます。
(1)新型コロナウィルスに感染した労働者が入院、隔離された場合
会社が感染させた場合でない限り、感染により欠勤している労働者の賃金、休業手当の支払い義務はありません。なお、健康保険からは、手当が支払われるはずです。
(2)労働者の感染が疑われる場合
勤務が十分に可能である場合に休ませた場合は、法律上は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の支払い義務があるということになります。
ただ、今回の事態の深刻さを考えれば、発熱等があり、感染者との接触等も疑われる場合には、感染拡大を防止する観点から休ませる方が望ましいことと考えられますから、病気欠勤として、就業規則に基づき無給として取り扱っても許容されるのではないかと考えます(個人的意見です)。
(3)感染者が立ち入ったこと等により事業場の一時閉鎖のため労働者を休業させる場合
そのような場合、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には該当しないと考えたいところですが、一律に「該当しない」と断定することは困難です。また、該当しないとなれば、休業手当の支払い義務はないことになりますが、労働者も無給では閉鎖のための不利益を大きくかぶることになります。できれば何らかの手当を考えるべきではないでしょうか。

著者プロフィール
昭和43年(1968年)、労働基準監督官、以降、労働省労働基準局監督課中央労働基準監察監督官、同賃金課主任中央賃金指導官、静岡労働基準局次長、滋賀労働基準局長などを歴任し、平成10年(1998年)6月退職。
その後も、主に労働法制を中心とした労働問題の第一人者として活躍。